ふむ。ここに来たあんたは、いわゆる「ノンキャリア」の人間だな。まずは、この表を見てもらおうか。

 

 

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 この表は、警察階級の一覧だ。あんたはこの表の一番下、つまり警察階級の最下層、「巡査」からのスタートだ。

 最初に言っとくが、ノンキャリアで出世しようと思うなよ。サラリーマンと違って、警察は長年勤めりゃ階級が上がるワケじゃないからな。一つ上の階級に上がろうと思えば、その都度昇任試験を受けねばならん。だがこの試験が、かなりの難問でな。

 どういう事かって?

 試験を受けるには、まず実務経験がないといかん。例えば大卒の巡査なら、巡査部長に上がるのに巡査としての経験が1年以上というのが最低条件だ。巡査部長から警部補に上がるときも、1年以上の経験がないと試験を受けられん。

 それに、試験を受けた奴全員が合格するワケじゃないぞ。一番最初の昇進試験、まあ巡査から巡査部長になる時の試験だが、コイツが一番大変なんだ。

 どういうことかというと、まず最初に一次試験がある。こいつはマークシートだから、運が良けりゃ合格出来る。だが二次試験は論述問題ばかりだから、勉強してない奴はここでボロがでる。

  それに、試験に出てくる問題は、捜査関係の事ばかりとは限らん。交通違反や警備、法律に社会常識みたいな問題だって出てくる。だけどなあ、俺にも経験があるが、普段からやってないと交通違反のキップの切り方なんて忘れちまう。ましてや「刑法212条の内容を述べよ」なんて聞かれても、即答出来ると思うか?ちなみに刑法212条ってのは「堕胎罪」と言って、妊娠中絶した女は懲役一年以下の刑に処すっていう、時代錯誤も甚だしい法律なんだがな。

  そうして、運良く二次試験に合格しても、最後に面接試験が待っとる。おまけに人数に枠があってな、どれだけ頭が良くて一生懸命勉強した奴でも、その年の巡査部長の空きが少なけりゃどうしようもない。競争率は毎年60倍以上だからな、受験生並みに勉強しないとまず受からん。だが普段の勤務もあるから、ハッキリ言って勉強しとる暇なんかないぞ。中にゃ法律知ってりゃ犯人が捕まえられるってモンでもねえっていう、昔気質の刑事もいるからな。試験勉強なんかする暇もないし、どうせ受けても無駄だってんで、ハナっから試験なんか受けねえっていう連中だって珍しくない。

 だから、今は無理に試験を受けんでも、40歳になれば誰でも巡査部長に昇進出来るようになったな。更に言えば、5年以上刑事をやっていて、功績があったと認められた奴は無試験で警部補に昇進できる。

 じゃあ、何も無理してそんな試験受けなくてもいいじゃないかって?

 まあ、聞け。そもそも何でこんな事にこだわるかっていうと、「階級」はダイレクトに給料に響くからさ。つまり、階級が上になればなるほど、給料も上がるって計算だ。だから、さっさと安月給からオサラバしたい連中は試験を受ける。それに、警察官だって人の子だ。惚れた女が出来りゃ結婚もするだろうし、結婚すりゃ女房子供を食わせていかにゃならん。それなのに警察学校出たてのペーペーと給料変わらないってんじゃ食ってく事も出来んし、第一、馬鹿馬鹿しくてやっとれんだろう?

 更にこの話を突き詰めていきゃ、どうなると思う?

 ・・・・つまり、腕のイイ奴ほど給料が安いっていう、実に納得のいかん事態になるのさ。考えてみろ、あんな難しい昇任試験を合格するにゃ、仕事さぼって受験勉強でもしないかぎり絶対に受からん。不真面目な奴の方が給料高くて、真面目な奴が安月給で汗水垂らして働く、という現象が起きるんだ。こんな不条理が通用するのは、警察ぐらいのもんだ。

 だからまあ、ノンキャリアのあんたはどれだけ頑張って働いたとしても、定年退職までに警部になれればイイ方だな。中には警視や警視正まで出世する奴もいるが、そんなのはごく稀だ。普通は警部補止まりってのが相場だからな。

 だが、そう悲観するこたぁないぞ。我々警察組織の人間のほとんどは、この「ノンキャリア」の人間だ。

 それに、ノンキャリアの人間にしか就けんポストというのもある。警視庁捜査一課長というポストがそれだ。

 ん?意外そうな顔だな。

 何、警察一の花形部署のボスが、なんでノンキャリアなんだって?

 理由は簡単さ。警視庁捜査一課は、日本一のデカ軍団だ。そんな連中をまとめあげるのは生半可な事じゃないからな。おまけに警視庁捜査一課長は、都内で起きた重大事件の陣頭指揮を取らにゃならん。そうなりゃ、現場を知り尽くしたノンキャリアのベテラン刑事にしか務まらん、と言うわけさ。

 さて。 

 あんたは学校を卒業し、公務員試験に合格し、なんとか警察に入ってきた。ここで既に、あんたの身分は「巡査」だ。

 まず、あんたが行くのは警察学校だ。そこで、警官として必要最低限な事を学んでもらう。期間は大卒が半年、高卒が一年弱ってところだ。

 ああ、給料は出るからな。安心して学んで来い。

 警察学校を出たら、あんたは晴れて警察官ってわけだ。こうして、それぞれ部署に配置されるんだが、あんたは何と言っても新米だ。まずは交番勤務や機動隊みたいな第一線で実務経験を積んでもらう。その後は各々の希望に応じていろんな部署に配属されるわけだが、適性がないといかん。

 

 

 

さて、あんたの希望を聞こうか。

場の第一線で活躍したい。

帰宅時間がどれだけ遅くなっても構わない。

体力には自信がある。

化学や機械工学にはめっぽう強い。

物の考え方は柔らかい方だ。

暴走族は許せない。

実は『007』が大好きだ。

仕事は出来れば定時で帰宅したい。

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