歌舞伎を代表する大名跡の当代で、梨園のトップを走ってきた歌舞伎俳優の12代目市川團十郎(いちかわ・だんじゅうろう、本名・堀越夏雄=ほりこし・なつお)さんが3日、肺炎のため都内の病院で死去した。66歳。訃報から一夜明けた4日朝、團十郎さんの長男・市川海老蔵(35)が報道陣に対応した。父として、師匠として愛を注いでくれた團十郎さんに対して「親孝行できなかった」と声を震わせた。また、今春誕生予定の第2子が男児だと初めて明かし、「抱かせたかった」と悔やんだ。
成田屋の跡取りとして、涙をこらえ、気丈に応対していた海老蔵。その表情が一瞬、息子の顔に戻った。「僕は本名が孝俊(たかとし)と言うんですが、親孝行の『孝』の字が付いているのに全然、親孝行できなかったんですね。だから歌舞伎に精進を重ねて、草葉の陰でも見ていてくれるのなら、その時に孝行できれば…」。感謝と後悔の念があふれていた。
3世代で舞台に立つ夢もかなわなかった。現在、海老蔵の妻でフリーキャスターの小林麻央(30)が第2子を妊娠中。今春出産予定だが、この日、初めて性別が男児であることを明かし、「一番、父が喜んでくれた。一緒に舞台に立ちたかったでしょうし、抱きたかったでしょう」と言い、「回復に向かっていたので、家族としては受け入れがたい」と声を詰まらせた。
團十郎さんは昨年12月、「肺炎の兆候」があるとして予定されていた京都・南座公演を途中休演。4月に新たに開場する東京・歌舞伎座での復帰に向け療養中、とされていた。
「(白血病などの)大病を2回も患って免疫力が下がっていたので、感染症というものに非常に弱い状況で…。肺炎や白血病の気もあり、感染症やいろいろなものが重なってしまいまして…」と海老蔵。先月19日からは意識のない状態で治療を続けていたという。
海老蔵は3日、成田山新勝寺での豆まきに参加。その後、父の容体が急変したといい、最後は家族全員にみとられながら天国に旅立った。「闘病生活が大変だったので、今はやっと解放されてホッとした表情をしていました」と振り返った。
父として、師匠として、海老蔵にとって常に尊敬と畏怖の対象だった團十郎さん。「僕は、やんちゃでわがままでわんぱくな部分もありますが、そういうところも大きな愛、器をもって見守ってくれた」。10年12月に自身が都内の飲食店で暴行事件に巻き込まれた際には、矢面に立ってくれた父の優しさを振り返り、「(当時のことは)いろいろな思いがありますが…。父の子で生まれたことで、僕も今、いられるのかな」と話した。
現在、團十郎さんの遺体は紋付き羽織はかま姿で、「助六」で使用した小道具の脇差しを「守り刀」にしているという。海老蔵は道半ばで病に倒れた團十郎さんの思いを次世代に残す使命を感じている。「全く至らないですけど、父の思いを受け継ぐことができるように、歌舞伎にまい進して、精進していかなければ」。この春、生まれてくる跡取りへ、成田屋の大看板をしっかりと渡す決意を新たにしていた。
通夜は5日、密葬は6日に近親者のみで都内で営まれ、月末に本葬が執り行われる予定だ。
◆市川 團十郎(いちかわ・だんじゅうろう)本名・堀越夏雄(ほりこし・なつお)。1946年8月6日、東京都生まれ。11代目市川團十郎の長男で、53年に7歳で市川夏雄を名乗り歌舞伎座「大徳寺」の三法師で初舞台。58年に6代目市川新之助、69年に10代目市川海老蔵を襲名し、85年に歌舞伎座で3か月にわたる襲名披露公演を行い、12代目團十郎を襲名した。屋号は成田屋。
[2013/2/5-06:01 スポーツ報知]