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未発育都市

2013-01-27

富山市は「第二の夕張市」となるか――「コンパクトシティ」を目指して暴走する国土交通省と富山市長

 
北海道の中央部に位置にする夕張市は「炭鉱の町」として栄えた。だが、その後「石炭から石油」へのエネルギー政策の転換などを受けて炭鉱は次々と閉山されたため、夕張市は新たに「炭鉱から観光へ」を掲げて、スキー場やテーマパークなどを次々と開設する「リゾート」化路線に邁進した。その結末は、多くの人の知るところである。施設建設に伴う累積赤字が重くのしかかって市の財政を圧迫し、2007年に財政再建団体に指定されて、夕張市は事実上、財政破綻した。夕張市ブレーキとアクセルの踏み間違えてしまったのである。

さて、富山市は「第二の夕張市」となるか。結論を先に言えば、今のところは、まだそこまでは深刻ではない。だが、早目に警笛を鳴らして、国土交通省と富山市長が推進している「コンパクトシティ」政策に対して異議を申し立てること、安全に正しくブレーキを踏むように促すことは、些細なことながら、必要であると僕は考える。(僕が過去に書いた「コンパクトシティ」批判に関しては、「「コンパクトシティ」の創設は税金の無駄遣いである――自民党の補正予算案(2012年度)を批判する」(2012年12月29日)の記事を参照。)

コンパクトシティ」とは、都市のスプロール化(郊外化)を抑制して、都市の中心部に様々な施設をコンパクトに集中させた街のことである。メリットは、自動車がなくても暮らせる街になることと、それに伴ってインフラの維持費や更新費が削減できることであると言われている。自動車を運転できない若者や高齢者(交通弱者)が暮らしやすい街であるとも言われている。また、多くの場合、「コンパクトシティ」は都市計画家のピーター・カルソープによって提唱された「公共交通指向型開発」と結び付けられて、路線バスやライトレールを敷設する等によって公共性の高い交通機関の利便性の向上が目指されている。デメリットは、割愛する(山ほどある)。

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富山市は現在、その「コンパクトシティ」政策を推進している。ちなみに、国土交通省と富山市の関係は、分かりやすく言えば、AKB48秋元康大島優子の関係である。前田敦子は青森市である。富山市は2006年に「富山ライトレール」を開業、2007年には富山市の中心市街地に「グランドプラザ」(上図)、「グランドプラザ前駅」、「総曲輪フェリオ」などを矢継ぎ早に開業した。更に、北陸新幹線富山駅も建設中である(2014年開業予定)。

そのため、「コンパクトシティ」政策の実施以降の富山市の財政は厳しい状況に陥っている。予算に占める地方債の割合は年々増加の一途をたどっている。富山市の地方債は都市別ランキングの中核市の中ではワースト4位である(中核市は全国で41市ある。政令指定都市などは含まない。ちなみに、青森市はワースト3位)。富山市の市民一人当たりの借金は約58万円である(中核市の平均的な一人当たりの借金は約39万円)。また、実質公債費比率も年々増加の一途をたどっている。富山市の実質公債費比率は2007年度で11.7%、2011年度で13.9%。ちなみに、18%以上になると、地方債発行に国や都道府県の許可が必要になる。富山市の実質公債費比率は、大体、毎年0.5%ずつ増えているので、7年後の2020年に18%以上になる計算だ。

また、「コンパクトシティ」政策を推進している富山市の森雅志市長は、今年の1月15日から始まった市長協議で、「財源は厳しいがしっかりとメリハリを利かせた予算編成をしていきたい」と方針を述べて、富山市の財政が厳しい状況にあることは認めている。(「富山市市長協議始まる 新年度予算財源不足93億円」(チューリップテレビ、2013年1月15日)の記事参照。)

ま、もちろん、現在の「コンパクトシティ」政策は未来へ向けた投資であって、富山市の財政は30年後には劇的にV字回復する!という可能性もゼロではない。そこまで僕は全否定しない。だが、「コンパクトシティ」政策が半ば進行した現在の状況をみると、富山市の「コンパクトシティ」政策が成功しているとは僕には全く思えないのである。富山市の森市長が暴走しているようにすら見える。例えば、2012年に作成された森市長のプレゼン資料の「コンパクトシティ戦略による 富山市型都市経営の構築」(※PDFファイル)の12頁には、「平成19年にグランドプラザオープン、中心市街地の歩行者数が着実に増加(H18→H23 56.2%増)」と書かれている(下図)。これが事実であるならば、富山市の中心市街地活性化に成功しているとは言えるだろう。だが、これは事実であって事実ではない。これはどういうことなのか。その前に青森市の話をしよう。

青森市は富山市と同様に「コンパクトシティ」政策を進めている都市である。青森市は「コンパクトシティ」界の前田敦子である。青森市は富山市に先駆けて2001年(平成13年)に青森駅前の「しんまち商店街」の商店街入口付近に商業施設「アウガ」を建設した。「アウガ」は「コンパクトシティ」政策の成功例として国土交通省と御用学者らが絶賛した。そして、その時、青森市は「アウガ」の成功を示す証拠として歩行者数(歩行者通行量)の調査結果を使った。その調査結果によると、「アウガ」周辺の歩行者数は大幅に増加していた。大成功である。この調査結果は日本中を駆け巡って国土交通省が推進する「コンパクトシティ」政策にお墨付きを与える資料となった。さて、これは事実だろうか。確かに「アウガ」周辺の歩行者数は大幅に増加した。だが、歩行者数が増加したのはそこだけだった。「アウガ」周辺だけが増加した。そして肝心要の「しんまち商店街」の歩行者数は減少した。「アウガ」が「しんまち商店街」へ向かう歩行者の足を堰き止めた可能性すらある。これを成功と呼べるだろうか。

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前述の富山市の森市長のプレゼン資料の「コンパクトシティ戦略による 富山市型都市経営の構築」(※PDFファイル)の12頁には、「平成19年にグランドプラザオープン、中心市街地の歩行者数が着実に増加(H18→H23 56.2%増)」とある。これは事実だろうか。事実と言えば事実である。だが、これは青森市の「アウガ」の時と全く同じなのだ。下図は、富山市の2011年(平成23年)の「富山市中心市街地活性化基本計画(第1期) 事後評価(中間報告)(※PDFファイル)である。これを見ると、「グランドプラザ」が開業した2006年(平成19年)以降の富山市の中心市街地の歩行者数(歩行者通行量)は減少し続けていることが分かる。つまり、「グランドプラザ」周辺の歩行者数だけが増加したのである。富山市の中心市街地全体では歩行者数は減少している。青森市と同じである。「コンパクトシティ」政策はうまく行っていないのである。

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よって、富山市の森市長のプレゼン資料は、事実であって事実ではない。ウソではないが限りなくウソに近い記述である。注意して読む必要がある。ちなみに、青森市の「アウガ」は、多額の借金を抱えて2008年に経営破綻している。

最後に、2006年に開業した「富山ライトレール」について。「富山ライトレール」は実質的には赤字である。富山市の森市長が我先と発表している経常利益は確かに黒字なのだけど、じつはそこには富山市から補助金(税金)が注ぎ込まれているのである。補助金を入れて黒字になっているのであって、補助金がなければ赤字である。ただ一方で、富山市の森市長のプレゼン資料が示しているように「富山ライトレール」の乗車人数は増加している。鉄道は公共性が高いので赤字でも多くの市民に利用されているならば、それでも構わないのかも知れない。その判断は富山市民が決めればいい。赤字は良くないと考えるか、赤字でも公共性があれば良しとするかは価値観の問題である。それを決めるのは民主主義の手続き(民意)である。もちろん、その判断で富山市の借金が年々増加の一途をたどっているという現実も忘れずに考慮に入れなければならない。

次の富山市長選挙は2013年4月14日である。3ヶ月後である。「コンパクトシティ」政策を推進している現職の森市長を選ぶか、それとも対抗馬となる人物を選ぶかは富山市民(有権者)の良識にかかっている。また更に、この選挙は国土交通省が推進している「コンパクトシティ」政策の行く末を左右することにもなるだろう。なぜなら、富山市は「コンパクトシティ」界の大島優子であるからだ。ちなみに、「コンパクトシティ」政策を推進した青森市の佐々木誠造市長(元)は、2009年に行われた青森市長選で、新人の鹿内博市長(現)に大差で敗れている。この選挙では、佐々木誠造市長(元)が推進した「コンパクトシティ」政策や経営破綻した「アウガ」の運営責任なども争点となったようである。いずれにせよ、国土交通省が推進している「コンパクトシティ」政策は危うい。早めにブレーキを踏むべきである。富山市が「第二の夕張市」になる前に。

kota2009kota2009 2013/01/28 08:13 非常に面白く読ませていただきました。「コンパクトシティ」政策を悪政だとすると、富山市はどうすべきとお考えでしょうか?

baby_theorybaby_theory 2013/01/29 00:06 kota2009さん
ありがとうございます!
富山市はどうすべきかについて個別に解答できるほど僕は富山市に詳しくありませんが、大きな方向性としては僕はこれまでに本ブログ「未発育都市」に度々書いています。よろしかったら是非読んでみて下さい。あと、個人的にも「コンパクトシティ」に変わる新しい「〜〜シティ」を提示したいと考えています。僕の今後の課題です。

ymymymym 2013/01/29 08:15 興味深い記事でした・・・が,全体としては議論が尽くされていない感があります.富山市の場合はいわゆる平成の大合併の合併パタンに問題があったのではないかとも思います.もともと市街地の郊外化は進んでいましたが,合併による市域の大幅な拡大が現在のコンパクト化を必要としている要因のように思います.

baby_theorybaby_theory 2013/01/30 00:09 ymymさん
富山市は2005年(平成18年)に大合併しているのですね。情報ありがとうございます。でも、合併して新・富山市になって行政コストの削減ができたのかな? 合併するスケールメリットは人口だけではなく面積(人口密度)も関係しているので、合併してあまりにも市域が広くなりすぎるようでは意味がないかと思います。また、合併とコンパクトシティ政策がどう関係しているのか、いまいちよく分かりません。合併して富山市の中心市街地に「選択と集中」で開発するというのでは合併前の富山市以外の自治体は黙ってはいないでしょう。

ymymymym 2013/01/30 08:12 私も富山市の現状に詳しい訳ではないのですが,行政コストの件は合併前と後でどの程度膨らんだか(あるいは抑えられたのか)を数字で比較する必要がありそうです.普通に考えると当時の富山市の合併パタンはコスト増しか生まないパタン.
また,富山市のコンパクトシティ概念は中心市街地だけの集中投資,また交通基盤投資ではないと市の施策紹介からは受け取れますので,一概に「中心街」重視とはいえないようにも思えます.

baby_theorybaby_theory 2013/01/30 08:23 ymymさん
うーん。どーなんでしょうねぇ。富山市は政令指定都市を目指しているのかな?

mkmk 2013/01/30 12:14 過激なタイトルに目を惹かれて読んでみましたが、タイトルと内容の関連がいまいち薄いと感じます。拡大化で破綻した夕張にコンパクト化を進める富山市をなぞらえるのは…

富山市の中心市街地活性化が現状計画通りの成果を挙げていないことはわかりましたが、投資段階であることも認めておられる。ライトレールは赤字であるが公共性の面で有用であるとも考えられている。そして何よりも「コンパクトシティ構想」が富山市の財政を逼迫させている原因か?従前の政策あるいは別の政策なら将来を見据えつつ財政は健全化できたのか?という疑問が残ります。
雪国ならではの除雪・道路設備維持改修費用、増加しつつある独居老人のケア等福祉面の効率化にもかなりの効果を期待されているとも聞いています。そこら辺の将来性まで織り込まなくては判断がつきません。
これで暴走と断言されるにはいささか乱暴では?

usyusy 2013/01/30 21:19 車が要らない街造りを目指して何がいけないのかがわかりません。若い人で車が持てない方もたくさんいます。他県から来る若者は車がもてないので富山に移り住むのを拒む人もいます(特に他県の受験生は富大を避けようとします)コンパクトシティは一つの試みとして推進していくほうが得策ではないかと思います。

baby_theorybaby_theory 2013/01/31 00:28 mkさん
タイトルは少し誇張していますが、「〜となるか」と疑問形にしているので、ギリギリセーフではないかと(笑)。富山市の財政が圧迫している原因はもちろん「コンパクトシティ」政策だけではありません。逆に言えば、富山市はコンパクトシティ政策以外に、もっとやらなければならないことがあるということです。また、将来を見据えているのであれば、市の財政を健全化させること、借金を抱えない体質にすることが何よりも重要です。市はたいして効果のないコンパクトシティ政策はもう止めて、市民に対してより直接的な教育・医療・福祉分野などの公共サービスを充実させる方向へ舵を切るべきだと僕は思います。

あと、コンパクトシティ政策は「除雪・道路設備維持改修費用」の削減にほとんど効果はないです。前に僕が書いた「「コンパクトシティ」の創設は税金の無駄遣いである――自民党の補正予算案(2012年度)を批判する」(2012年12月29日)の記事 http://d.hatena.ne.jp/baby_theory/20121229 を是非読んでみてください。また、「独居老人のケア等福祉面」に関しては、コンパクトシティ政策に絡める必然性はないです。高齢者が住みやすい街にすることは市が果たすべき大切な仕事ですが、コンパクトシティ政策を経由させなくて良いのでは?

usyさん
本当に得策でしょうか? 車が要らない街へと改造するには巨額の費用がかかります。そのために税金は重くなります。下手をすると、市の財政が破綻します、というようなことを僕は今回の記事で書いています。車が要らない街にしたら若者がたくさん集まる可能性はもちろんゼロではありませんが、それを都市経営が成り立つモデルとしてきちんと提示する必要があります。希望的観測なら何とでも言えます。夕張市もスキー場やテーマパークを建設すれば、観光客がたくさん訪れてくれると考えて実践して、財政破綻したのです。同じ過ちを繰り返す必要はありません。一方で、車が要らない生活を好む人(とくに若い人)が増えている傾向があるのも事実です。

ホログラフホログラフ 2013/01/31 00:42 記事を読ませて頂きました。

富山市のコンパクトシティ(公共交通ネットワーク)を批判されていますが、代替案についてまったく触れないのはいかがなものかと。

富山ライトレールの赤字を税金で賄っていることについて悪のように書かれていますが、
行政がより良い交通サービスを税金を使って提供することが間違っているのでしょうか?
というより全国的に赤字鉄道だけでなくバス会社の赤字路線は税金が使われていることは当たり前だと思っていたのですが私の勘違いでしょうか?

また、コメントの中に「富山市はどうすべきかについて個別に解答できるほど僕は富山市に詳しくありません」と書かれていますが、
結局は富山市のことは知らないけど「コンパクトシティ」という言葉が嫌いだから批判しているようにしか思えませんでした。

とにかく「富山市のコンパクトシティ案よりも自分が考えた代替案のほうが良い」という形で締めて欲しかったです。

baby_theorybaby_theory 2013/01/31 00:52 ホログラフさん
代替案は前に僕が書いた「コンパクトシティの正しい答え――中心市街地の再生は諦めて、住宅地にする」(2012年9月28日)の記事 http://d.hatena.ne.jp/baby_theory/20120928 などに書いてあります。

また、「富山ライトレールの赤字を税金で賄っていることについて悪のように」書いていません。僕は「その判断は富山市民が決めればいい。赤字は良くないと考えるか、赤字でも公共性があれば良しとするかは価値観の問題である。それを決めるのは民主主義の手続き(民意)である。」と書いています。これも以前ブログに書いたことですが、ヨーロッパの市内鉄道(ライトレールなど)も赤字です。それでも、ヨーロッパの市民は鉄道は公共性が高いので赤字でも構わないと考えているのです。また、僕が「コンパクトシティ」という言葉が嫌いということもありません。僕が嫌うのはコンパクトシティに関する非論理的な言論です。

baby_theorybaby_theory 2013/01/31 01:11 ホログラフさん(追記)
あと、代替案としては、前に僕が書いた「「コンパクトシティ」から「道の駅」を拠点とした新しい都市へ」(2012年11月13日)の記事 http://d.hatena.ne.jp/baby_theory/20121113 も参考になるかと。

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