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阿部重夫発行人ブログ「最後から2番目の真実」

日経より悲惨なNHKのレアアース報道

2013年02月05日

2月2日のブログで日経新聞のレアアース報道のお粗末ぶりを指弾したら、NHKからもっと悲惨なものが出てきました。同じ日に放送された『レアアース 中国からの輸入が減少』と題するニュース。テレビでは見逃したが、NHKのウェブサイトに動画付きで公開されています。

下記の引用を一読すれば明らかなように、「誤報」と言っても過言ではないレベルで突っ込みどころが満載。一定期間が過ぎるとNHKのウェブサイトでは読めなくなるから、記録を兼ねてこちらに「魚拓」も貼っておこう

日本は、かつておよそ90%を、世界最大の産出国である中国から輸入していました。

しかし、ここ数年、ベトナムやフランスからの輸入が伸びた結果、中国からの輸入の割合が減り、おととしはおよそ68%、去年は58%まで下がったことが、財務省の統計で分かりました。

これは、3年前、中国がレアアースの輸出規制に踏み切り価格が高騰したことから、日本政府が中国以外の国でレアアースの資源開発を支援するなど、調達先を広げる取り組みを進めたことによるものです。

ただ、フランスのように中国から調達したレアアースを精製して日本に輸出している国もあり、中国からの調達が滞れば、日本も影響を受けるおそれがあるため、政府は今後、アメリカやインドからの輸入量を増やすなど、調達先の一段の多角化を図りたいとしています。

このニュースの一番「痛い」ところは、日本のレアアース輸入に占める中国産の比率が60%を切った理由を「ベトナムやフランスからの輸入が伸びた結果」と説明しておきながら、実はフランスからの輸入が「中国から調達したレアアースを精製して日本に輸出」したものであるというオチを自分でばらしていること。この際だから、本誌2月号の記事『レアアース「脱中国」の大嘘』に掲載したグラフを参考までにお見せしましょう。

2月号の締切は2012年12月分の貿易統計の発表前だったので、グラフは同年1~11月のデータです。NHKの記者が使ったのは通年(1~12月)のデータだから数字は多少違いますが、大勢は変わりません。

さて、首位の中国の比率は確かに60%を切っています。しかし2位以下のフランス、ベトナム、エストニア、韓国、米国の比率がなぜ増えたのか、まともな記者ならば疑問を持つのが当然だし、ちゃんと調べて報道するのがイロハのイのはずです。

実際、NHKの記者は2位のフランスが「中国から調達したレアアースを精製して日本に輸出」したことを知ったうえでニュース原稿を書いている。ではなぜ、ベトナム、エストニア、韓国、米国については調べなかったのか。3位のベトナムが中国南部から密輸出されたレアアースの一大精製拠点であることは、商社やメーカーを取材すれば簡単にわかるはずです。

5位の韓国も原料は中国産。違うのは4位のエストニアと6位の米国だけで、合わせても10%に届きません。しかも、その原料は02年に閉山した米マウンテンパス鉱山で10年以上前に掘り出された“不良在庫”ときている。同鉱山を所有する米モリコープが11年にエストニアの工場を買収し、そこで分離精製したレアアースを日本の日立金属に売っているのです。

ちなみに、マウンテンパス鉱山は再稼働したとの報道もあり、NHKのニュースにもショベルカーの映像が出てきます。ところが、商社筋は「採掘は止まっている」と口を揃える。そりゃあそうでしょう。モリコープはレアアース相場の暴落でただでさえ苦しいうえ、昨年11月には投資家に不正確な情報を開示した疑いで米証券委員会(SEC)が調査を開始。翌月にはマーク・スミスCEOが辞任しました。要するにまともな経営状態ではない。本誌はそこまで調べたうえで2月号の記事を書いたのです。

以上の事実関係がわかれば、『中国産レアアース、第三国経由の輸入が増加』のような見出しを立てるのが正常なジャーナリストの感覚でしょう。ところが、このNHKの記者はろくに取材もせず、そのくせ「日本政府が中国以外の国でレアアースの資源開発を支援するなど、調達先を広げる取り組みを進めた」「政府は今後、アメリカやインドからの輸入量を増やすなど、調達先の一段の多角化を図りたいとしています」などと、経産省におべっかを使うことだけは忘れていない。

さすがは「国営放送」。視聴者に正確なニュースを届けるよりも、お上を褒め称えるのが記者の使命だと心得ているのでしょう。

2月2日のブログでも触れたように、経産省が540億円の税金を投じて権益確保に動いている中国以外の海外鉱山からは、まだ1kgのレアアースも日本に輸出されていません。政府がアメリカからの輸入を増やすだって?? 経産省は住友商事への金融支援を通じてモリコープに出資し、マウンテンパス鉱山の権益確保を目指していたが、向こうから足下を見られて11年9月に交渉を打ち切られました。12年の米国とエストニアからの輸入は民間ベースの調達です。

ついでに言えば、上記の540億のうち80億は東日本大震災の復興予算からの流用。経産省は被災地のために使うべき予算を直接関係ない海外レアアース鉱山の権益確保に投じておいて、今のところ何の成果も上げていない。NHKは復興予算の流用・便乗問題を昨年9月のNHKスペシャルで大々的に報じましたが、この80億は単独案件では最大の流用ですぞ。それを取材した形跡が見当たらないのは、一体どうなっているのでしょうか?

真実の神は細部に宿る――。全文500字に満たないニュース原稿1本から、NHKの報道の深刻な劣化ぶりが露呈しました。この際、記者とデスクの教育をイロハのイからやり直すしかなさそうです。

投稿者 阿部重夫 - 09:00| Permanent link | トラックバック (0)



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発行人 阿部重夫

編集長 阿部重夫

1948年、東京生まれ。東京大学文学部社会学科卒。73年に日本経済新聞社に記者として入社、東京社会部、整理部、金融部、証券部を経て90年から論説委員兼編集委員、95~98年に欧州総局ロンドン駐在編集委員。日経BP社に出向、「日経ベンチャー」編集長を経て退社し、ケンブリッジ大学客員研究員。 99~2003年に月刊誌「選択」編集長、05年11月にファクタ出版株式会社を設立した。

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