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著名な柔道家インタビュー
園田隆二氏 全日本柔道女子ナショナルチーム監督インタビューその1
グランドスラム・東京2009で、好調な結果を残した日本女子。
2008年11月、日蔭監督から引き継ぎ、選手とのコミュニケーションを大事にしてきた若き監督・園田氏に、選手のことや、ロンドンオリンピックに向けての対策などをお伺いしました。
代表は実戦勝負で選ぶ世界が近い63kg級
谷本歩実について言えば、怪我をしているとは言え、彼女はオリンピックチャンピオンです。実績もあり、世界の舞台に出したらちゃんと対応できると思います。
しかし、今は上野(順恵)も実績を上げているので、谷本がいつの時点で復調し試合に出てくるか、それからが二人のせめぎ合いだと思います。
谷本の膝の状態も思ったより良く、合宿でも練習していましたし、所属会社(コマツ)でも練習しているのを見ています。本人からは軽く(練習を)やっているとは聞いていますが、監督としての立場からは、「いつから成績が出せるのか?」が大事です。成績が出せないのに代表にはできません。上野に対しても失礼ですし、怪我の回復と、(筋力が落ちているので)もう少しシェイプアップして、体を作っていかなければ。
谷本の場合は、どんな試合であろうとも、結果を求められる存在なので、試験的になどと、簡単には出す訳にはいかないのです。
この階級では、デコス選手(仏)がいなくなったのも大きな変化です。彼女がいなければ、谷本も上野も勝てるだろうと思います。
全員をゼロから作り上げる覚悟の70kg級
もともと上3つの階級は厳しい階級ではありますが、「スウォン・柔道ワールドマスターズ2010」では(1、2回戦敗退の選手が3名おり)不甲斐ない部分がありました。試合数も増えて、毎回同じ高いモチベーションでやれというのは難しいと思います。
しかし、負けた試合でもそれなりの試合ってものがあると思う。そこを感じられない選手には苦言と叱責も必要でしたね。
70kg級では潜在能力は高い渡邉(美奈)がいます。世界の代表と意識して、彼女なりに成長をしていますね。ただ勝負に対する考え方がまだ子供なところがあり、試合中、頭の中で「なぜ技がかからないのだろう?」と考え過ぎて、戦い方の視野が狭いところがあるんです。
もっと広く、例えば、勝ち方は投げるだけじゃない、反則を取る勝ち方もある。そんな余裕を持って戦うと、ぐんと伸びると思います。ちょっとした考え方の違いを理解すれば、もっと成長しますね。彼女にとって、今は貯金の時期です。
78kg級は中澤(さえ)がやめて、世界との差が広がった感があります。では、中澤の次は誰か?と考えると、一人を重点的に育てるというよりも、緒方(亜香里)、岡村(智美)、穴井(さやか)と3人を鍛えまくって、切磋琢磨の中、強く生き残っていく者を作っていく。既存の一選手を育てるのではなく、全員をゼロから作り上げるくらいの気持ちでいます。
ロンドンへの課題と対策1 組み手
全般的になんといっても組み手の強化が必要ですね。「スウォン・柔道ワールドマスターズ2010」では、組み手でやられている選手が多くて…。
70kgの國原(頼子)は2大会連続で、同じような組み方の中でやられているんです。もともと日本人には組み手の技術があるんですが…。
うーん、組み手はやはり永遠のテーマですね。
ロンドンへの課題と対策2 柔軟性のある状況判断
全体的に、女子は男子より融通が利かない選手が多いように感じます。もっと柔軟性のある考え方ができるようにしたいですね。そのために、ビデオを何度も見直しながら、「このときはこうもできる」「あの手もある」と引出しを増やす機会も増やしています。
間合いの違いやすっぽ抜けで、技がかからないこともあります。それでも、かけ続ければ相手は攻められなくて、こちらは反則が取れる。相手によってはそういう勝ち方もあるんです。特に若い選手は、そういった戦術がなく、自分の持っている技だけで勝とうとする選手もいる。
投げると決めたら、100回続けてかけて、それで1回でもかかれば一本だ。そんな気持ちでどんどんかければいいと思う。技をきちんとはめようとするあまり、相手を見過ぎて(技が出ず)反則を取られてしまう。そんな悪い状況を作ってはだめなんです。技を出しながら、狙っていける状況にしないと。
そして必要なのが状況判断です。「ここで何ができるか」その判断が一番できる選手は亮子(谷)です。彼女はどの状況においても、いろんな技を持っていますし、勝ち方も知っています。
ほとんどアドバイスは要らず、自分で理解して淡々と判断できるから、どの状況においても、「じゃあ、どの攻め方がある」、「ここでの攻め方にもいくつか方法がある」とか、柔道の幅が広いのです。
だから、あれだけ勝ち続けられる。戦術として、身近にいい材料があるんだから、もっと真似すべきですね。技術的にも、精神的にも成長して、「投げない」のは困るけど、まず勝つ。そんな柔軟性を持った柔道を覚えてほしいと思います。
※2010年1月現在