体罰・指導:/1 紙一重のSOS
毎日新聞 2013年01月24日 大阪朝刊
練習には一度も行かずに卒業し、いま長女は「失った時間を取り戻すかのように」おしゃれを楽しんでいる。学校と親の期待に押しつぶされそうだった高校時代については、「死にたくなるくらいつらかった」が、「気合を入れてもらっていて、体罰とは感じなかった。何より先生が大好きだった」。父親はそんな今の娘に安堵(あんど)しながら、こう思っている。「寸前で乗り越えることができた。桜宮の子と紙一重やった」=つづく
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桜宮高校バスケットボール部主将の男子生徒が自殺して23日で1カ月。悲劇が繰り返される教育の現場を追った。
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◇求められる成果、過度な重圧
スポーツ強豪校の指導者は、なぜ体罰に走りがちなのか。
「プレッシャーはありました。『全国大会に連れて行ってほしい。大学進学の道筋を付けてほしい』と保護者は思っていました」−−。大阪市立桜宮高校バスケットボール部の男性顧問(47)は、市教委の調査に答えた。同校の他の運動部顧問も周囲に、「教師もランク付けされる時代だから結果を残さないと」と吐露。しかし、そこに垣間見える成果主義のゆがみは、桜宮高特有ではない。
甲子園出場経験を持つ関西の高校野球部では、07年夏の予選敗退後、保護者に「監督が悪い。更迭しろ」と怒鳴り込まれた。30代の男性顧問は、「高校も大学も企業もスポーツ推薦で人を集める中、結果を出すプレッシャーも感じた」と打ち明ける。結局、3人いた顧問は年度末を待たずに解任された。
学校間競争が激化する中、部活は生徒募集の“看板”になる。桜宮高のバスケ部顧問の長期在任が問題視されるが、関西のスポーツ強豪校の元校長も「強い部活の指導者は学校のキーパーソンだ。いなくなれば部の志望者も減り弱くなる」と打ち明ける。
重荷を負う指導者にとって「間違いのない指導は型にはめること」と、大阪府内のラグビー強豪校の元指導者(60)は解説する。創造性重視の教育で育ってきた子を逸脱させず型にはめようと思えば、たたくこともあり得る。さらに型重視の指導では、主将は監督の指示を伝える伝達役だ。「伝達役がミスすると型は全部だめになる」と、主将に過度な重圧がかかりやすい構造を指摘する。