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2013-02-03

ロボットアニメの兵器概念〜「コードギアス」 スラッシュハーケン論

2007年の放送からはや数年。派生作品も多く、未だ話題を作り続ける息の長いコンテンツ『コードギアス』、その中に登場する人型ロボット兵器ナイトメアフレーム(以下KMF)についてのエントリー。

実はKMFデザインが発表された当初「あまり格好良くないかも」なんて思っていた。オリジナルアニメなのだし、もっと華のあるデザインを目指してもいいのにな、だとか結構不満を漏らしていた気がする。しかし、動いている姿をみて進化の過程や概念が解ってくると手のひらをくるりスペックや戦術など、メカニカルな部分への興味が沸いて止まらなくなった。そこで注目したのがKMFに標準装備されている武装・スラッシュハーケン。同じ谷口監督が参加していた『ガサラキ』のアイディアを素材とし発展させた機能だが、ワイヤーアクションと投擲アクションを合わせた特性が魅力的で、時に忍者的なアクションも可能にする多様性、作中“最優”の武装ではないかと思えるほど思い入れができてしまった。そんなスラッシュハーケンにまつわる話。


■スラッシュハーケンの申し子たち

大々的なスラッシュハーケンのお披露目は『反逆のルルーシュ』第2話だった。

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カレンの乗る赤いグラスゴーが廃ビルにハーケンを掛け上っていったり、敵から奪ったサザーランドで同型機を倒すなど機能性とアクションをまんべんなくみせつつ、ルルーシュの戦術やスタイルを説明する序盤のパフォーマンス回。

カレン達と共闘するルルーシュの策にはまり、敗北濃厚となったブリタニア軍。そこへ「申し子」たる白い実験機が登場する。長く黒の騎士団の前にたちはだかるランスロット、親友であり敵となる枢木スザクだ。第4,5世代が戦場の兵士だった時代に、突如として現れる第7世代KMFという怪物。ヒーローとなりうる最新鋭機を敵側から出してくる意外性は谷口監督流というべきか面白い仕掛けなのだけど、2話の段階では主兵装となるヴァリス(ライフル)とソードはまだ装備されていなかった。ブレイズルミナスによるシールドがあっても、問題は武器。なんとスラッシュハーケンのみだった。ランドスピナーで蹴ったり(本来の用途ではない)もしていたが、バリエーション豊富なハーケンの使用法に度肝を抜かれる。

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敢えて下に打ち込み上昇力を確保、高所の有利を空間に作り出す“奇襲”。ハーケンを射出させず手刀のように扱う“剣法”。

「敵に狙いを定めて放つ武装」だと思っていたところへ、立体視野と発想力による応用を追加、2話にして可能性を広げるスラッシュハーケン戦法の数々。マニューバの性能差、“世代”差も利用した形だが、開発者であるロイドの思想もうかがえる。四聖剣に囲まれ、危うくなったときには隠していた4つのハーケンを同時に射出する機能を開放させたり、いち早く強化させたKMF第一人者。彼がスザクをテストパイロットに起用した理由が「数値」だったとしても、人選に間違いはなかった。立体機動とスラッシュハーケンの組み合わせは日本の忍者的であり、騎士道を重んじる国の科学者とは思えない豊かな発想だし、ランスロットが後の量産機ベースになったことを考えても、ハーケンの特性と機動戦術のマッチングを初期から見抜いていたのかもしれない。

そして、ハーケンアニメーションの申し子といえば、絵コンテの須永司。『コードギアス』全体の半分以上が須永司クレジットであり、「KMFアクション」を設計したとも言える演出家。『反逆のルルーシュ』第2話はもちろん、処理の重くなりがちなメカ回や一話でガラリと変わる驚愕の脚本回をわかりやすく映像化した舵取り職人。「須永司コードギアスのメインコンテマン」だったことは、スラッシュハーケンという一機能にとっても僥倖。メカアクションのケレン味を序盤から存分に出し、終盤に至るまで「須永ハーケン」の冴えは変わらず、いくつもの見せ場を作ってくれた。谷口監督特有の見栄切りと「須永ハーケン」、これも人選の妙だ。


ナイトメアフレームの進化と戦術

スラッシュハーケンという武装が“最優”だと思える最大の理由は、汎用性の高さ。切り札に隠しておいたり、牽制に使っても直撃すれば一撃でKMFを破壊してしまう。空手にみえようともハーケンの射出機能を壊してしまわないかぎり、常に武器を有している状態にある。圧倒的不利な状況からでも、パイロットの技量次第で活路を見出すに足る武装。事実、ナリタ攻防戦のコーネリアは使用可能武器がハーケンだけの状態でルルーシュの包囲から抜け出していた。ランスロットの介入があったとはいえ、あの状況から打開するきっかけを作るスラッシュハーケンは見事な兵器思想というしかないが、疑問も残る。

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スラッシュハーケンへの対策はないのか、と。

SLG的には機動力とハーケンの射程を考慮した間合いの外から攻めるのが上策にみえるけれど、これが難しい。そもそも装甲よりも機動力を重視したロボットである以上、長距離射程兵器有効に思えない。ミサイルなどはハードキルで撃ち落とされてしまう可能性があるし、ブリタニアの「攻め入る姿勢」が反映されているのか、近中距離向けで命中率の高い武装を好んでいる節がある。相手の懐に入って蹂躙する姿勢というか、好戦的な設計思想KMFは進化している。下手に長距離兵器を揃えてみても、お構いなしの物量と機動戦術であっという間に制圧されてしまう図が容易に想像できる。

しかしそこが興味深いところで、圧倒し続けたがゆえに「KMF同士の相対戦」における進歩は遅れていたのではないかと思う。ブリタニア製KMFに対抗できるような兵器がなく、KMFの性能差で勝ち続けられるなら必要に迫られないし、実戦データも得難い。機動力と科学者の技術を背景にした矛偏重で勝てるために、盾への意識を遅らせた。ブリタニアに対抗し得る「日本製KMF」が現れたことで大規模なデータ収集が可能になり、実戦技術を急激に向上させていたと考えれば、スラッシュハーケンへの具体的な対策がなかったことも頷ける。兵器が操縦する人間よりもずっと先に進んでいて、KMFパイロットの練度や技術は途上の最中にあったと推測してみるのも面白い。

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そこへ登場したランスロットや紅蓮は戦術の「世代」も進めた感がある。ハーケンの射出速度に反応できる回避運動プログラムや手で受け止める出力、「設計概念の違いが対策となる」例を示し、長距離エネルギー兵器・ハドロンブラスターや輻射波動といった極めて矛的な盾を獲得、次々に新兵器が生まれ、目まぐるしいスピードで進む物語とリンクするように、戦術も高度に成長を遂げていった。『コードギアスR2』では「空」が主戦場となり、開けた空間で行うKMF戦というステージに移行したが、スラッシュハーケンは最後まで現役、「第9世代」であってもその優れた機能性に乱れはなかった。どんなハーケンが生まれたのか、みていきたい。


■「最強」を演出する「最優」

コードギアスR2』に入ると、ナイトオブラウンズ専用機をはじめとする様々な設計思想KMFが登場する。2基のスラッシュハーケンを合体させ、高出力ビーム砲に化けるジノのトリスタンや「ハーケン無し」仕様のモルドレッドなど、「空」における多様な戦闘スタイルの模索と進化がみてとれる。『反逆のルルーシュ』で使われていたウインチ機能はあまりみられなくなったが、スラッシュハーケンの有効性は健在で、たとえば紅蓮が可翔式に生まれ変わる5話。恒例の須永司コンテ回はやはりハーケン祭り。

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空の相手にハーケンを突き刺し道にしてしまう変わり種の使い方をみせたり、シールドと輻射波動が拮抗している隙を突かれ珍しくランスロットがハーケンを被弾したりと、「須永ハーケン」はここでも大活躍だった。空を飛ぶ不利な相手へハーケンを打開策にする機転、零距離戦闘で使われるハーケンの恐ろしさ、特性への理解が深まっているとはっきり判る。特にカレンはランスロットと戦い続けた経験が生きているのか、輻射波動を活かすハーケン戦術をとっていた。ランスロットが一歩先を行く新武装を身につけ紅蓮は後塵を拝すことも多かったが、5話でようやく追いつき、ランスロットの得意なハーケンで一矢報いるなんて皮肉めいていたし、逆襲の予感が既にあったのかもしれない。

そして、「あの」18話でついに追い越す。作中最強のスペックを誇る紅蓮聖天八極式の発進、戦場の主役は第9世代へと移行する。

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第9世代KMFとまず相対したのはナイトオブラウンズの一人にして「吸血鬼」の異名をとるルキアーノ。超攻撃的仕様のパーシヴァルを駆る戦場の悪魔。相当な自信があったのか、紅蓮と向き合ってなお余裕をみせていたが、パーシヴァルの「切り札」であるツノに偽装した隠しスラッシュハーケンを難なく止められ笑みが消える。全身にくまなく武器を取り付け、主兵装のルミナスコーンによるドリルを囮にしつつ隠しハーケンで仕留めようとするしたたかさはさすがラウンズと思わせるものだったが、「最強」の前に「最悪」が破れ去る瞬間だった。ラウンズ級のパイロットが巧妙な戦術で必殺のスラッシュハーケンを放っても、第9世代KMFと才能を開花させた最強のデヴァイサーにはまるで通用しない。

さらに紅蓮の天敵、今まで「最先端」を走っていたスザクランスロットも新たな「最先端」「最強」の力を味わうことになる。

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ち、違いすぎる……。マシンポテンシャルが。

皮肉にもランスロットに搭載されていた強化ブースター付きハーケンを応用した輻射波動機構との連結、エナジーウイングによる慣性無視の超機動、極超高性能機は「60%の出力」であっても前世代KMFを圧倒する。戦略を戦術で覆してきたあのスザクが、思わず漏らした台詞は象徴的だった。どうやっても覆せないマシンポテンシャルの違い。進化の頂点。『コードギアス』最強の冠を頂く機体が戦場を制した話数もやはり絵コンテ・須永司。「須永ハーケン」は聖天八極式と共に進化を完成形をみたように思う。隠しハーケンを破り、ハーケンの応用による超機能への発展、演出上のメカアクション処理は最高に重い回だったはずだけれど、スラッシュハーケンファン感涙のコンテ。「最優」のコンテマンが「最強」を演出する。KMF進化史のページを大きくめくったターニングポイントであり、傑作回だ。


■「最優」の条件

先に述べたように汎用性の高さを「最優」である理由としたけれど、KMFの歴史を紐解けば別の視点も生まれる。標準装備として採用されるに至る、量産性と整備の問題だ。

いくら便利な機能でも量産に向かないパーツがあったり、整備が難しく動作不良が頻発してしまうようであればまず採用されない。「機械への信頼性」が必要となり、その上で実戦で使用するに足るかどうか見極める試験が待っている。ほぼすべてのKMFに搭載できる確立された機能設計KMFに直撃させたり「道」として多大な負荷が掛かっても壊れない頑丈さ、損傷を受けても作動する信頼性、そういった機械的側面の「最優」性は戦術バリエーションの広さ以上に重要だったのかもしれない。細かい整備の描写はあまりみられなかったが、KMFもロボットであり機械なのだから、想像を膨らませてみるのも一興ではないかと思う。

さて、作中最後のスラッシュハーケン描写はランスロットアルビオンの放った一撃だったが、まさに整備性、頑丈性、信頼性、すべてを備えていた。

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紅蓮聖天八極式との激戦でシールドエナジーも底をつく中、最後の最後まで作動し「最強」を大破させたスラッシュハーケン。申し子たるランスロットに相応しいものだったし、「最優」が「最強」に少しだけ届かなかった最終決戦、何だか感慨深いものが込み上げくる。右腕を破壊され、左腕でランスロットを貫いたカレンの一本気な心情、多彩な武装を持ちながらも、最後は『反逆のルルーシュ』2話でみせたようにスラッシュハーケンを信頼していたスザク、第9世代同士の一騎打ちはKMF史に残るものになり、礎になっていくのだろう。そしてスラッシュハーケンという一機能、一武装も信頼性を柱として形を変え、進化を遂げていくはず。もし「第10世代」が設定されていたら、いったいどんなKMFなのか、想像するに楽しい『コードギアス』。まだまだ発見の再視聴は止められそうにない。

ryuryu 2013/02/04 00:11 スラッシュハーケンについて、ここまで詳しい文章は初めて見ました。

コードギアスはルルーシュの革命の話で、ロボットアニメではないと私は考えていますが、
コードギアスをロボットアニメだと見做している人たちは二期で陸戦から空戦に変わったことで、つまらなくなったという意見が多かったように思います。

恐らく、足のウラの車輪を最大限に利用した動き、戦いが珍しかったのと、スピード感あふれて、評価が高かったのかと。

ただ、この記事を拝見する限り、空を飛ばない飛んだ、という話ではなく、製作者さんたちの一貫した戦闘のこだわりがあったんだなと思って嬉しくなりました。また、ギアスを見直したくなりました。

良い記事ありがとうございます。

tatsu2tatsu2 2013/02/04 19:17 「コードギアス」は学園物やメロドラマ、ピカレスクロマンといった多くの要素を凝縮した作品でした。
主戦場が空に移ってからはランドスピナーやハーケンを移動に使う地上戦のスピード感が薄くなり、疾走しながら戦うKMFのケレン味が失われるでのは、と危惧したこともたしかにあります。けれど、ラウンズに代表される豊富な敵エース級KMFの存在、恐竜的進化の中でも使われ続けるスラッシュハーケン、メカアクションをみる楽しさはずっとありましたね。
ギアスは何度観ても面白く、発見の多いアニメだと思います。スラッシュハーケンというピンポイントな記事でしたが、長文を読んでいただいてありがとうございます。

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