食品中のセシウム検査 国設定の下限値「下回った」の意味
食品中の放射性セシウムの検査結果で、「不検出」という言葉の使われ方があいまいだ。測定器で検出できる下限値を下回ったことを意味するだけで、ゼロベクレルを指すわけではない。農家らが運営する測定室は、下限値をゼロに近づける努力をしているが、自治体やスーパーなどによっては、1キログラム当たり20ベクレル前後のところもある。不検出の意味を知っておく必要がある。 (伊東治子)
神奈川県座間市で20年以上、農薬や化学肥料を使わずに野菜を育てている大木秀春さん(45)は、放射能測定器を購入し、5月に生産者向けの測定室を開いた。購入費用の160万円は車を売って捻出した。
8〜10時間かけて作物や土壌の検査をすることで、検出できるセシウムの下限値を2〜3ベクレルに下げている。「ゼロベクレルであると、ほぼ確認できた野菜しか出荷しない」と大木さん。こだわるのには理由がある。
農業を始めて2年目の秋、突然、目がかすんで、3日後には近くにいる人の顔を見分けられなくなった。大学病院で「原因は農薬。失明する可能性がある」と診断された。だが、原因とみられる3種類の農薬のうち、2種類は年1回しか使っていなかった。「少量で影響が出る人もいる。農業をやめた方がいい」と医師は勧めたが、あきらめきれず、作る側と食べる側にとって安全な農業を追求してきた。
「農薬と同じように、わずかな放射能でも、人によっては健康被害が出るかもしれない。自己満足かもしれないが、しっかりと測定したい」と大木さんは話す。
相模原市で有機食材などを販売する高岡章夫さん(56)は「孫に食べさせたくないものは売りたくない」との思いで、昨年8月に測定室を開設した。検査に10時間以上かけ、さらに200キロの鉛で測定器を覆って環境放射線の影響を受けにくくすることで、1.5ベクレルまで測れるようにした。
同県の農家の男性(40)は昨年秋、収穫した蜂蜜を独自に検査機関で測ったら6ベクレルだった。迷ったが、「自分だったら食べたくない」と考え、出荷しなかった。男性は「自治体の検査だったら、不検出になったかもしれない。消費者には不検出の意味をちゃんと知ってほしい」と話す。
◆自治体検査体制、国の支援が必要
食品に含まれるわずかなセシウムに、厳しい目を向ける農家や市民。一方、厚生労働省は、自治体が簡易検査する際の下限値を25ベクレル以下と定めている。このため、自治体やスーパーなど測定者によっては、20ベクレル前後の下限値を下回った食品については、下限値を示しながら「不検出」と表示している。
ある自治体の担当者は「国の基準値の100ベクレルを下回っているかどうかの検査なので、下限値が20ベクレルでも10ベクレルでも変わりない。多くの食品を調べるには、1つの食品に30分以上かけられず、下限値を20ベクレルより低くするのは難しい」と話す。
これに対し、日本消費者連盟の古賀真子共同代表は「食品が放射能に何ベクレル汚染されているかを知るのは、消費者の権利。不検出という表示はおかしい。下限値が25ベクレル以下では高すぎる。国は自治体の検査体制を支援して、もっと下限値を低くするとともに、消費者が持ち込んだ食品も測定できるように体制を整えるべきだ」と指摘している。
(2012年7月30日)