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【放射線 対処法は】

 福島第一原発で爆発事故が続いている。周辺ではかなり高いレベルの放射線量が測定され、被ばくのリスクが高まっている。どんな備えが必要なのか。身を守るにはどうしたらよいのか。専門家の意見をもとにまとめた。

<拡散したら>ゴム製手袋/空調使わないで

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 Q 放射性物質が拡散したときの対処は。

 A 放射線や放射性物質は、人の五感で感じられない。独自の判断ではなく、災害対策本部などの指示に従う。テレビやラジオ、防災無線で正確な情報を得ることが大切だ。

 Q 被ばくから身を守るには。

 A まず放射性物質から離れる。放射性物質は風下に流れるため、屋外にいる場合は風上を目指して屋内に逃げ込む。遮る力は木造よりコンクリート建造物の方が強い。

 Q 屋外にいた場合の注意点は。

 A 放射性物質を吸い込む「内部被ばく」を避けるため、ぬれたタオルを口に当てたり、マスクをしたりして逃げる。屋内に入ったらすぐに、衣服を脱いでビニール袋に入れて密閉する。放射性物質が付着した量にもよるが、衣服は廃棄した方がよい。

 Q 屋内に着いたら。

 A 手洗いをしてうがい、また、シャワーを浴びて体を流す。換気扇やエアコンを使ってはいけない。窓も密閉する。

 Q 避難所に向かうため、再び屋外に出る場合はどうする。

 A 屋内から避難所へ逃げるため外に出る際は肌を出さない衣服に着替えること。手袋も布製よりもゴム製の方が放射性物質に触れにくい。雨には空気中の放射性物質が混ざっているので、傘をさしたり、雨がっぱを着てぬれないようにする。

 Q 放射性物質が体内に入ったらどうすればよいのか。

 A 安定ヨウ素剤を服用する。一般の薬局や病院にはないが、自治体や保健所が保管している。放射性ヨウ素は甲状腺に集中的に取り込まれ、甲状腺がんの原因になることから、予防策として高濃度のヨウ素剤を飲むケースがある。

<被ばくの影響>100ミリシーベルトでがんの恐れ

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 Q 放射性物質が大気中に放出されると、どうなるのか。

 A さまざまな放射性物質が存在するが、特に人体に影響が大きいのは、ヨウ素とセシウム、ストロンチウム。放射性物質は目には見えない「放射線雲」となって風で流されていく。

 放射性物質を口や鼻から吸い込むのが「内部被ばく」で、ガス状になった放射性物質を体で浴びるのが「外部被ばく」だ。被ばくとは人が放射線を浴びることを意味し、細胞や遺伝子に傷が付く。

 Q 高レベルの放射線を浴びると、どんな影響が出るのか。

 A 人が1年間で普通に生活をしていて浴びる放射線量は2・4ミリシーベルト。胸部エックス線CT検査では6・9ミリシーベルトを浴びる。一度に100ミリシーベルトを超えるとがんになる恐れがある。1000ミリシーベルトでは吐き気などをもよおし、7000ミリシーベルトを浴びれば必ず死亡する。

 Q どのようながんになるのか。

 A ヨウ素は甲状腺に集積しやすく、甲状腺がんになる可能性がある。ストロンチウムは血液を作る骨髄に集まるため、白血病などになるリスクがある。セシウムは全身に行き渡る性質があり、さまざまながんを誘引する一因となる。被ばくしてがん細胞が作られても、発症するのは約20年後の場合が多い。

 Q 魚や農作物には影響しないのか。

 A 多少の放射性物質が飛び散っても、ただちに水中の魚にまで影響が出ることはない。放射性物質が蓄積された土壌で育てられれば、農作物に影響が出る可能性は否定できない。

 Q 水は大丈夫か。

 A 井戸水は保健所などが安全と判断してから飲むべきだ。水道水は問題は少ないと思うが、国や自治体が出す情報に注意した方がよい。

<単位>人体影響は「シーベルト」

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 Q 放射線に関係する単位は何があるか。

 A 主に「シーベルト」「グレイ」「ベクレル」「cpm(カウント・パー・ミニット)」の4種類がある。

 Q それぞれ、どういう意味があるのか。

 A 人が被ばくした度合いを表すのがシーベルト。物質に吸収された放射線のエネルギーの大きさを吸収線量と呼び、グレイで表す。放射性物質が放射線を出す能力が放射能で、単位はベクレル。cpmは1分間当たりの放射線数を示す。

 Q 人が被ばくした度合いとは。

 A 放射線にはアルファ線やベータ線など種類が多数ある。アルファ線は人体に対する影響がエックス線の約20倍。人体の組織や臓器ごとでも、放射線の影響力は異なる。全てを考慮した「実効線量」の単位がシーベルトだ。

 Q シーベルトにミリやマイクロという単位が付くのは。

 A ミリはマイクロの1000倍。日常生活では、ミリでは単位が大きすぎるのでマイクロを使用することが多い。

 Q cpmはどのようなときに使うのか。

 A ほかの単位での測定が困難な場合や時間がかかる場合、放射線計測器で計測し、おおよその値を知る目安にする。

 Q チェルノブイリ原発事故ではキュリーという単位が使われた。

 A キュリーは古い単位で、今は使わない。1キュリーは370億ベクレル。

<メモ>安定ヨウ素剤

 服用すると、放射性ヨウ素が甲状腺に取り込まれるのを防ぐ効果がある。吸い込む可能性が高いときや吸い込んでしまった際に服用する。ただし、一時的に甲状腺機能が低下する副作用が出るケースもある。ヨウ素過敏症などの人は服用してはいけない。

 昆布が代用になるという説が出回っているが、昆布に含まれるヨウ素は微量で、放射能を十分に取り除く効果はほとんどない。うがい薬やのどスプレーなどにもヨウ素が含まれるが、含有量が少なく効果はない。

<メモ>屋内退避と避難

 屋内退避が指示されると、建物に入ってドアや窓を閉め切り、放射性物質の侵入を防ぐ。国や自治体が指示を出す。木造家屋よりも放射線を遮へいする力の強いコンクリート製の建物内に退避を指示する場合もある。

 避難は、放射線放出が長期間になる場合など、屋内にいても被ばくを避けられない可能性が出てきたとき、放射線の影響を受けにくい地域に遠ざかる目的で実施される。今回の福島第一原発の事故では、半径20キロ以内の住民に避難が、20〜30キロの住民に屋内退避が指示されている。

<メモ>放射性物質

 放射線を出す物質。原発の事故で、人への影響が問題になるのは、放射性のヨウ素、セシウム、ストロンチウムなど。ヨウ素はガス状のため、吸い込むと肺にまで達しやすく除去しにくいが、体内での影響力が半分に弱まっていく半減期が約8日間と短い。

 セシウムとストロンチウムは粒子状で、マスクをすれば吸入を防ぎやすい半面、半減期は約30年間と長い。ヨウ素は遠くまで飛散しやすく、セシウムとストロンチウムはヨウ素に比べ近場に落ちやすい性質がある。

◆新宿0.000809ミリシーベルト 「現状 心配ない」

放射線について説明する野村特任准教授=東京都文京区の東京大で

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◇野村貴美・東大特任准教授 

 「東京でも日常の約20倍の放射性物質が観測されました」−。「20倍」と聞くと、数字の力につられて怖くなる。だが、私たちは放射線についてよく知らないまま怖がっているのではないか。危険なら、どう危険なのか、正確に知りたいと、東京大大学院工学系研究科の野村貴美(きよし)特任准教授(放射線管理学)に尋ねた。 (皆川剛)

 放射性物質とは、文字通り放射線を出すもの。では、放射線とは何か。「この部屋にも放射線はありますよ」と野村准教授は研究室の壁を指さす。石などを混ぜて造ったコンクリート。自然の放射性物質(ラジウムなど)がわずかに含まれているそうだ。

 線量計のスイッチを入れると「毎時0・07〜0・10マイクロシーベルト」の間で揺れる。「普段からこんな数値ですね」という。

 東京都が新宿区で観測した「毎時0・809マイクロシーベルト(0・000809ミリシーベルト)」は、「区内に1時間立っているのは、窓を閉め切ってこの部屋で約8時間研究し続けたのと同じ」ことだ。

 野村准教授は「今の状態ならば」と前置きし、「心配ない」と話す。放射線量は「線源からの距離の二乗」に反比例する。例えば福島第一原発から30キロ離れた地点の線量は、1キロ離れた地点の900分の1。原発から250キロ離れた東京は、900分の1のさらに70分の1で「影響はほぼ皆無」となる。

 首都圏で危険な場合はあるか。「(爆発で)放射性物質自体が飛散して来れば、それから出る放射線との距離が近くなり、避難の必要が出てくる場所もある」という。

 放射線は大量に浴びると、体内組織の分子を切る力も持つ。福島第一原発で観測された毎時400ミリシーベルトを1時間浴びれば、「白血球の減少など生化学的な現象が現れ始める可能性がある」。