社説

生活保護削減/理解に苦しむ格差是認策

 2013年度政府予算案に、生活保護の支給水準引き下げが盛り込まれた。
 生活扶助費の基準額を受給世帯平均6%強引き下げる。期末の給付見直しと合わせ、扶助費全体で8%の削減を見込む。節約できる国費は3年間で743億円になるという。
 最低賃金と生活保護の逆転現象が起き、働いても収入の上がらないワーキングプア層が増えていることは確かだ。
 しかし、それをもって生活保護給付基準を引き下げるというのでは話の順序が違う。まず正されるべきは、働きに見合った賃金が支払われていない労働者の置かれた窮状だ。
 政府は、同じ予算で大規模経済対策によるデフレ脱却を掲げる。その一方で、一層の格差拡大につながりかねない施策を盛り込む不整合について、どう説明するのか。
 社会保障審議会の部会報告書は予算化に先立ち、夫婦と子ども2人の4人世帯モデルで生活費と支給のギャップが14.2%に達すると指摘した。支給が「生活に必要な費用より高くなっている」との認識だ。
 報告書が指摘したギャップは「過剰給付」を裏付ける数字とされ、デフレ下で「勤労者との公平感を保つ」ための論拠とされた。
 だが厚労省の別の試算では、低所得勤労者の生活費と比較した場合に世帯類型によりまちまちの結果が示された。
 4人世帯モデルで、低所得勤労者の生活費よりも給付が上回ったのは全体の0.4%。20〜50代の単身世帯では23.9%が勤労者の生活費を上回ったものの、60歳以上の単身世帯では全体の半数以上が生活費を基準額が下回った。
 むしろ生活保護費の総額が増加しそうな数字だ。にもかかわらず、基準額が引き下げられるのは「経済情勢などを総合的に考慮し、政府として判断する」(厚労省)ためだ。政治が決めたセーフティーネット(安全網)の縮小にほかならない。
 最低賃金を決める際には、生活保護の給付水準との「整合性に配慮すること」が求められている。生活保護切り下げは、最低賃金を引き下げる方向に働くのだ。
 民主党の「最低賃金時給1千円」は現実的に困難で、画餅に帰したが、安倍政権が政策転換を急いだ印象は拭えない。
 社会的格差の縮小に向かうのか、拡大を辞さないと構えるかは、大きな政治選択となる。転換について、政府は説明を尽くす必要がある。
 新年度予算案には、地方公務員の給与削減を前提とした地方交付税の減額も盛り込まれている。「国も地方も給与を下げている」というメッセージは、春闘はじめ労使交渉の場で、労働者側に不利に働くことは言うまでもない。
 問われているのは、組織化されていない働き手や、働くこともままならない人のための安全網だ。苦境に拍車を掛けてはならない。

2013年02月04日月曜日

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