それまでの蓄積も大きい。10年4月にスタートしたOPERAは、約1400個の材料の候補分子を保有しており、参加企業も情報を提供した。すでに有効な材料について数十件の特許を申請済みだ。
OPERAは各社からの研究者が自由に意見を述べ合う「オープン・イノベーション」の世界。安達教授は自民党の麻生太郎政権時代に日本の若手研究者30人に選ばれ、民主党政権で減額されたものの、30億円強の研究資金が認められた。発光材料のほかデバイスの微細加工、薄膜のプロセス開発、液体の有機ELなど様々なテーマが動いている。今回の新材料はその中の最大の成果だ。
実用化が見えてくるとオープンだけではすまなくなる。そこで九大伊都キャンパスの近くに有機光エレクトロニクス実用化開発センターの施設が年度内にも完成する。ここでは個別に企業と秘密保持契約を結び、試作などを進めていく。
安達教授は新材料の実用化について「3年後では遅い。1年後には使えるメドをつけたい」と語る。実用化開発センターとは別に新材料の実用化に向けた大学発ベンチャーを年度内にも立ち上げるべく準備に入った。
さらに先をにらむ。有機ELなど分子システム科学の国際リーダーを育成するため大学院に新しいリーディングプログラムを来年度開設するのだ。研究者としての能力に加え、企画力やマネジメント・リーダーシップ能力を養成する。現在、インターンシップや国際性、コミュニケーション能力などを養うカリキュラムを練っている。
第3世代の有機EL発光材料はまずはスマートフォン(スマホ)などでの利用を想定、「有機ELは最終的には紙のようなディスプレーになる」と予想している。韓国などすでに海外から多数の問い合わせが来ているが「基本的に日本メーカーを第一に優先したい」という。
OPERAにはパナソニックなどのほか東芝、日本化薬、保土谷化学、三菱レイヨン、リコー、富士フイルムなどが入っている。材料メーカーは「サムスンは大事なお客さん」だが、電機メーカーにとっては最大のライバル。
先週、米ラスベガスで開かれた家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」では、各社が発表したフルハイビジョンの約4倍の解像度を持つ「4K」テレビとともに、大型の有機ELパネルが注目された。発光新材料はパナソニックやソニー、東芝などの日本勢がサムスンやLG電子を追撃する武器になりうる。
有機ELでかつて先行していた日本が韓国に抜かれたことについて、OPERAの産学関係者は「必要な時に巨額の投資に踏み切れなかった」。「実際に金をかけて作らないと改善できない問題がある」。「円高で日本でものづくりをできる状況になかった」と要因を挙げる。
九大の新材料は基礎研究の域を超え、試作、初期量産と今後飛躍的に金のかかる時期に入る。リーマン・ショック以降、窮地に陥った日本の電機産業に対し、化学・材料分野の国際競争力は高いとされる。有機EL発光新材料をデバイス、プロセス、パネル開発につなげて、家電産業が引き継ぐことがニッポン復活のカギとなるだろう。
(産業部 三浦義和)
有機EL、サムスン電子、九州大学
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