うつ病蔓延時代への処方箋

うつ病 「心」と「現実」の混同は誤り 拠りどころ喪失が大きな要因に
加藤諦三氏(早稲田大学名誉教授)

海部隆太郎 (かいべ・りゅうたろう)  ジャーナリスト

日本工業新聞記者、IT企業の広報部長を経て、現在フリージャーナリストとして活躍。

うつ病蔓延時代への処方箋

うつ病対策が叫ばれているが、減少する兆しは見えない。うつ病蔓延の原因は不景気の影響や豊かさの中での愛情の欠如など、多様な背景があげられるが、定かではなく、証明できるものもない。こうした状況を踏まえ、うつ病患者の実態と対策、予防策について、あらゆる角度の専門家たちにインタビューする。

»最新記事一覧へ

―― 理解を妨げる要因として身近な例があれば教えてください。

加藤氏:93年にアメリカのABC放送が朝のニュース番組で1週間にわたりうつ特集を放送しました。そこに登場したうつ病患者の一人は、黒いロングコートで身を包み、派手な赤いヒールを履いて、見るからに元気そうに街を歩いていました。しかし彼女は、家に帰ると夫の食事を用意することができません。日本では怠け者としか思われないでしょう。

 うつ病の本質は「憎しみの表れ」です。心の底で夫を憎んでいるから食事をつくれない。では夫と離婚すればうつ病の原因はなくなるのですが、別れることに対する不安がブレーキとなり、心の苦しみを選択してしまう。うつとは落ち込んでいる姿だけではなく、このような形のうつもあります。私は半世紀近くラジオで人生相談をしていますが、悩んでいる人たちは解決を求めているのではなく、苦しんでいる姿を伝えるために電話をかけて来ることが多いです。「苦しい!」ということは憎しみの間接的表現です。

 嫌いと寂しさの選択で人は嫌いを取る傾向にあります。だから憎しみが増長するのであり、寂しくなりたくないから別れられない。どうしようもない関係になって心が病んでしまう。自殺する人は助けを求めているけど、実際には求めないことが多いです。なぜならば助けを求めるべき人が嫌いだからです。

 このようなうつ病への対策は、多様で複雑であるがゆえに簡単にはいきません。それでも対策を講じているからこそ、患者数が100万人で止まっているとみるべきでしょう。増えないけど減らない、一進一退の状況です。

[特集] 「心の病」にどう向き合うべきか?

「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします。

previous page
4
「うつ病蔓延時代への処方箋」
  • ・うつ病 「心」と「現実」の混同は誤り 拠りどころ喪失が大きな要因に 加藤諦三氏(早稲田大学名誉教授) (2013年01月31日)
このエントリーをはてなブックマークに追加
  • newsing it!
  • Yahoo!ブックマークに登録
  • mixi チェック
  • Delicious
  • Digg submit
  • Furl this page
  • Stumble It!
  • FriendFeedで共有

著者

海部隆太郎(かいべ・りゅうたろう)

ジャーナリスト

日本工業新聞記者、IT企業の広報部長を経て、現在フリージャーナリストとして活躍。

ウェッジからのご案内

WEDGE、ひととき、書籍のご案内はこちらからどうぞ。

WEDGE ひととき ウェッジの書籍