うつ病蔓延時代への処方箋

うつ病 「心」と「現実」の混同は誤り 拠りどころ喪失が大きな要因に
加藤諦三氏(早稲田大学名誉教授)

海部隆太郎 (かいべ・りゅうたろう)  ジャーナリスト

日本工業新聞記者、IT企業の広報部長を経て、現在フリージャーナリストとして活躍。

うつ病蔓延時代への処方箋

うつ病対策が叫ばれているが、減少する兆しは見えない。うつ病蔓延の原因は不景気の影響や豊かさの中での愛情の欠如など、多様な背景があげられるが、定かではなく、証明できるものもない。こうした状況を踏まえ、うつ病患者の実態と対策、予防策について、あらゆる角度の専門家たちにインタビューする。

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加藤氏:「心の風邪」というならば「心の癌」というべきです。とらえ方が甘すぎます。それほど大変な問題なのに、それがどうしても理解できない。うつ病は最も理解が必要であるにもかかわらず理解されない病気です。それは日本社会が理解できない仕組みを作っているからだと考えられます。日本には心の苦しみと現実の苦しみは違うことだという考え方が欠如しています。

 例えば97年に自殺者が3万人を超えましたが、その当時の新聞・テレビなどでは「不況が自殺者を増やした」と一斉に書きたてました。「経済不況自殺」という言葉さえも造りだしています。これらの報道は学術的な根拠がない勝手な推論であり、間違いであることは明白です。不況時に自殺が減ることは多くの学者の論文でも説明されています。オーストリアの精神科医師であるヴィクトール・フランクルは「あえて言うなら経済的に苦しい時に自殺は減る」と述べています。

(撮影:編集部)

 つまり、心の苦しみと経済苦という現実の問題を同じにしてしまうから、経済不況自殺という誤った報道を平気でしてしまう。心の苦しみで最も苦しいのは自殺でしょうし、現実の問題で最も苦しいのは戦争です。心と現実が同じ要因であるならば、戦争が始まると自殺者が増えることになりますが、アメリカは自殺者が増え深刻だった状態から第二次世界大戦で劇的に減少しました。第一次世界大戦でも他の戦争でも統計的に証明できています。

 このように日本では、理解すべきうつ病を社会が理解しにくくしてしまっている。ここに大きな問題があると思います。

憎しみの表れが、うつ病の本質

―― 病気になったことを機にうつ病になってしまったという話を聞きます。現実の問題が心の苦しみにつながったと見ることができますが。

加藤氏:病気と病苦は違うものです。病気は現実の問題であり病苦は心の苦しみです。病気になったから、うつに状態に陥るというのは、理解しやすいからであり間違いです。癌になったら、一生懸命に介護してくれる妻が天使に見えた、という人もいるでしょうし、何で俺だけがこんな辛い思いをしなければならないのだと、他を恨む人もいます。後者の場合は、誰かに対する憎しみがあることを要因にうつ症状に陥るケースがあるということです。

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海部隆太郎(かいべ・りゅうたろう)

ジャーナリスト

日本工業新聞記者、IT企業の広報部長を経て、現在フリージャーナリストとして活躍。

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