社説

メディア統制/民主主義の根底を崩すな

 安倍晋三首相は年頭、閣議の冒頭撮影を11年ぶりに許可し、情報公開と政権の透明性をアピールした。
 一方で、歴代首相が続けてきたぶら下がり取材は、野田佳彦前首相に続き拒否。理由について「首相としてコメントすべきでない事もあります」などと、インターネットの交流サイト「フェイスブック」に投稿し、背反する姿をのぞかせる。
 第2次安倍内閣が始動して1カ月余。これからのメディア対応は気になるところだ。
 第1次政権時(2006年9月〜07年9月)には、表現の自由と国民の知る権利を脅かすメディア統制、メディア介入に駒を進めた。
 首相の主眼は衆院選で公言した通り、憲法改正だろう。
 07年5月には憲法改正手続き法(国民投票法)を成立させた。改憲案への賛成・反対を訴えるテレビのスポットCMを投票2週間前から禁止するメディア規制が盛り込まれ、放送への関与を強める姿勢を印象づけた。
 「集会、結社および言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」憲法21条に対し、自民党の改憲草案では第2項を設けて「公益および公の秩序を害することを目的とした活動を行い、ならびにそれを目的として結社をすることは、認められない」と加えた。
 この追加条項には、ジャーナリストらから「民主主義の根底を崩す暴挙」と批判の声が上がっている。
 公の秩序を害したかどうかを判断するのは、最終的に裁判所だとしても、取り締まるのはまず警察・検察の国家権力であって、政権を批判する者が結社して活動を行えば、政府側の恣意(しい)的な判断によって取り締まりの対象になりかねないからだ。
 自民党草案Q&Aによると、「平穏な社会生活」を乱す「人権主張」も取り締まりの対象になるとされ、政治家の行状を報道することが訴えられる恐れがある。真相解明のため、ときに公人のプライバシーに踏み込む報道は萎縮しかねない。
 菅義偉官房長官も第1次安倍政権の総務相として、放送局への介入を強めた。
 06年11月、NHKに対し、北朝鮮による拉致問題を短波ラジオ国際放送で重点的に取り上げるよう放送命令を出した。個別具体の内容を命じたのは初めてだった。
 拉致問題の解決を最重要課題に掲げていた安倍首相も、命令に歓迎の姿勢を表明していた。
 自民党下野時に安倍氏は、一部テレビ番組に出演して、「日本のリーダーとして復活を」などと周囲から持ち上げられていた。一方で自民党はかつて、気に召さない放送局への幹部出演を拒絶した。
 政権を放り出した後に学んだ教訓が、メディアの選別や操作術だったというのでは「自由民主」の党名が泣こう。
 紙面に露骨に介入して改ざんを行った中国共産党のような低次元、未成熟なメディア対応を厳に慎むよう求めたい。

2013年02月03日日曜日

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