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捜索
 俺を閉じ込めていた場所から飛び出した。すぐ隣に王都を囲む城壁があることから王都の端のほうにいるらしい。
 すぐにでも母さんを助けに行きたいがフラフラと眩暈がする。体に力も入らない。
 気ばかり焦るが頭の一部はすごく冷静に自分の状態を見ている。

 落ち着け。何か腹に入れて体調を整えろ。助けに行く途中で倒れたらどうするつもりだと。

「ちっ!」

 確かにこのままだとろくに動けそうにない。俺は繁華街に足を向けると途中で倒れないようなぎりぎりの小走りで飲食店に向かった。



「ご注文の品、お持ちしました~」

 ウエイトレスのお姉さんが目を丸くしながら料理をおいていく。周りの客の視線も俺のテーブルに釘付けだ。そりゃそうだろうだろう。俺の前にはすでに10人分の食器が置かれているんだから。
 食事をとりに来たのは正解だった。飯を食うたびに眩暈も治まり、体に活力が漲っていくのがわかる。
 
 飯を取りながら今後の方針に頭をめぐらせる。
 このまま単独で助けに行くべきか、万が一のために誰かに知らせて保険をかけておくか?
 いや、保険をかけるという考えはないな。
 
 この国でも奴隷制度は認められているけど、本人の意思を無視して奴隷にさせるのは違法だ。
 普通の奴隷商や下級貴族がやっているんだったら、あるいは兵士に応援を頼むという手段もあったかも知れんが、だけどあの男の記憶から母さんを買ったのはルーベンス・デュッセン公爵という上級貴族だとわかっている。
 この男はデュッセン家の現当主で貴族の間でも顔が聞く。黒い噂も絶えない男で、自分の気に入った領民の女を無理やり屋敷に連れ込んで玩具にしているとか、狩りと称して逃げる人間を弓で撃って遊んでいるとか。その事実を金と権力を使ってもみ消しているとか。ろくなやつじゃないな。そんな大物を相手に兵士が動くとも思えない。

 じゃあギルドに頼むか? これも否だ。
 母さんが行方不明になっていることはギルドも把握しているだろうけど、あの男の記憶を見るに、母さんは誰にも事情を告げずに捕まったらしい。
 まず俺がギルドに知り合いがほぼいないし、母さんに子供がいるってことは知ってても、体が成長した俺が息子だとは思わないだろう。
 俺が母さんの息子だって説明して納得させてそれから救出に行く……。一体どれだけ時間がかかるっていうんだ!

 やっぱり自力で助けに行くのが一番だ。
 俺は最後の料理を平らげると、テーブルの上に金貨を放る。

「ごちそうさん。お釣りはいいから」

「あ、ありがとうございました~」

 ウエイトレスの声を背に定食屋を出た。さぁ行動開始だ!


 時間はすっかり昼過ぎになっていた。
 俺は防具屋ですっぽりと顔を隠せる灰色のローブを買って着ると、王と東門を出て走り始めた。
 『アルジェ』は王都の真ん中に城があり、その城から東西南北に四つの大通りと四つの門がある。
 王都の周りは王の直轄領となっており、デュッセン公爵領は直轄領の東に隣接するように広がっている。
 母さんは俺をさらった男の手によってデュッセン公爵の本邸に連れ込まれたのを記憶から確認している。場所を移動されていなければ今もそこにいるはずだ。
 本帝までは馬車で10時間ほど。百キロ強ってところかな。デュッセン公爵本邸を目指して走り始めた。

 走り始めてすぐに気がついたが走っているのにまったく息が上がってこない。
 そういえば身体能力の上昇も頼んでいたっけ、ようやくその恩恵を感じることが出来たってわけだ。
 走っていると灰色の大きな狼の群れが後ろから俺を追いかけてきた。数は20匹くらいいるかな? あれは確かグレイウルフとか言うモンスターだったか? 相手にしている時間はないので身体強化というのを試してみる。
 軽く足に魔力を流すと一歩地面を蹴るたびに地面が爆ぜて、飛距離が倍以上に伸びている。ははっ! これはすごい。これが身体強化か。
 一気に加速した俺は徐々にグレイウルフたちを引き離していく。
 やがて一匹、二匹と追うのを止め、ついに奴らの群れを引き剥がすことに成功した。
 もう追いかけてこないのを確認すると、足に流している魔力をとめて普通に走り始める。
 ほんの少し魔力を流しただけでこの効果か、加減を間違えたら大変なことになりそうだな。練習してこつをつかむ必要がありそうだ。
 新たな課題を心に決めて、俺は東に走り続ける。

 
 夕日が赤く染ま頃、俺はデュッセン公爵の本邸にたどり着いた。でかい屋敷だ。相当あくどいことして儲けている。これが屋敷を見た最初の感想だ。
 今は本邸が見渡せる丘の上にうつ伏せになって本邸を遠見の魔法で監視している。
 近くの町で情報を集めたところ、ルーベンス・デュッセンはまだこの屋敷にいるらしい。母さんがここに囚われている可能性が高まったな。
 本当なら今すぐにでも助けに行きたい! 行きたいけど!
 もしも俺のときみたいに母さんを人質にされたら救出が難しくなる。ここは我慢してもっと情報を集めるんだ。

 屋敷の周りと庭を、武装した兵士が巡回しているな。あれはデュッセン公の私兵かな?
 庭の一角に兵士の詰め所のようなものもあるし兵士が出入りしている。上級貴族だけあって、結構な数の私兵を雇っているんだろう。
 
 さてこれからどうするか? 正面突破は人質や逃走の恐れが高くなるので却下。  
 忍び込むしかないんだけど、殺しはちょっとな。
 あの男を殺したって罪悪感なんてかけらもわかなかったが、流石にこの館で働いているだけの無関係の一般人を手にかけてしまったら耐えられるかどうか……。
 私兵と交戦している間に逃げられるのも困るし、よし! やっぱりあの手で行くのがベストか。そうと決まったら夜を待とう。



 草木も眠る深夜。俺は行動を開始する。

「《スリープミスト》」

 俺が魔法を使うと俺の周りに白い霧が発生し、意思を持ったように屋敷の方に流れていく。
 まずは屋敷の外周りを巡回する兵士たちが霧に包まれて慌てていたようだがすぐに昏倒して動かなくなった。次に庭を回る兵士たちも同じ運命を辿る。最後に霧は窓や扉の隙間から屋敷や詰め所に侵入して行った。
 
 十分ほど待って魔法を消した。これで屋敷の全員がどんなに騒いでも朝までは眠っているはずだ。
 俺は眠りこけている見回りたちを横目に庭を突っ切り、屋敷の扉の前にたどり着く。

「《オープンロック》」

 これも俺のオリジナルの開錠の魔法だ。これで泥棒もし放題ってか。そんなことしないけどね。
 ゆっくりと扉を開けるとエントランスに入る。人の気配はない。
 目の前の階段を上がって二階に上がる。ぐるっと二階を一回りすると特別重厚そうな扉があった。多分これが書斎だろうな。

「《オープンロック》」

 再び開錠の魔法を使い中に入る。案の定中は書斎だ。
 両側の壁にはびっしりと本の詰まった本棚が並び、奥には大きくて立派な机が置いてある。
 こいつがルーベンスの使っている机だろう。

「《サイコメトリー》」

 机からルーベンスの記憶や残留思念を読み込む。
 っ! わかったぞ! 地下だ! 母さんは地下の隠し部屋にいる!

 俺は書斎を飛び出すと階段を駆け下り、そのまま地下へと向かった。
 この屋敷の地下にあるワインセラー。その奥に隠し部屋への入り口がある。
 ワインセラーに辿り着くと奥の壁に向かって俺は秘密の呪文を唱える。

「『高貴なる者の趣味』」

 呪文とともに壁の一部が消失した。何か魔法のようなものが仕掛けられていたんだろう。
 隠し部屋の中に飛び込んだ俺が見たものは……。

「あっ! あっ! あっ! あっ!」

「どうだ! 気持ちいいか雌豚!」

「気持ちいいでしゅ! 気持ちいいでしゅ! ごしゅじんしゃまぁっ!!」

 目隠しをされ、奴隷の首輪をつけられた母さんが、全裸のまま胸を押し付けるようにX字型の磔台に手足を拘束され、豚のような男に立ったまま後ろからお尻を犯されて、嬌声を上げている姿だった。


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