最終回 外来種輸入には多くの問題、資源管理に漁獲規制が急務
日本でもウナギ資源の危機が叫ばれるようになって以来、資源管理研究の必要性を指摘する研究者は少なくなかったのだが、その声が行政によって深刻に受け止められることはなく、資源研究はほとんど進まなかった。ウナギの資源管理を強化しようにも、その基礎となるデータも研究も極めて乏しく、ある研究者が「今、ウナギ資源の保護のために何をやったらいいのかすらよく分かっていないのが実情だ」と言うほどである。
この状況を変えるには、消費者の問題への認識の向上と行動パターンの変化がきっかけとなりうるのだが、「質は多少悪くても、安いウナギをスーパーやコンビニで買いたい」という薄利多売の消費者行動とそれを助長する業界の姿勢にも変化は見られていない。
孫はウナギを食べられるのか
ウナギの危機は極めて深刻だ。
2005年、ワシントン条約での規制が俎上に乗り始めた際に、欧州のウナギ研究の第一人者であるウィレム・デッカー博士にインタビューした。博士は「日本のウナギはまだピークの10%近くと欧州ほど深刻ではない。欧州のウナギのために人間ができることはほとんどなくなってしまったのだが、日本のウナギは、今、頑張ればまだ間に合うかもしれない」と述べていた。
既にこの時から7年が経過した。この間、日本の研究者によるウナギの研究は急速に進んだのだが、資源保護の取り組みも、消費の見直しもまったく進まず、危機は放置され、深刻化した。
大きくなった自分の孫に「私たちの分までウナギを食べてしまったんだね」と責められる。そんな日が、一歩、一歩近づいているように思えてならない。
おわり
井田 徹治(いだ てつじ)
共同通信社 編集委員。1983年に東京大学文学部を卒業し、共同通信社に入社。以降、環境と開発の問題を長く取材、気候変動に関する政府間パネル総会、ワシントン条約締約国会議、環境・開発サミット(ヨハネスブルク)、国際捕鯨委員会総会など多くの国際会議も取材している。著書に『サバがトロより高くなる日――危機に立つ世界の漁業資源』(講談社現代新書)、『ウナギ 地球環境を語る魚』(岩波新書)、『生物多様性とは何か』(岩波新書)など。