体罰問題:私の視点/上 日本高校野球連盟審議委員長・西岡宏堂さん
毎日新聞 2013年01月19日 東京朝刊
◇原因は指導力不足−−西岡宏堂さん(68)
亡くなった尾藤公(ただし)さん(春夏の甲子園で4回優勝した元和歌山県立箕島高野球部監督)は、若手指導者を集めて話す際、いつも最後に体罰の話をされていた。「農家の人は土を耕し、種をまき、水をやって作物を育てる。でも、うまく栽培できなかった時、愛情をかけて育てた作物を踏みつけますか? むしろ、どうすれば良くなるか考えるはず。我々が選手を育てるのも一緒だよ」と。至言だと思う。
体罰はなぜ消えないのか。一つには、それを容認する風潮が世の中にまだ残るからだと思う。我が子のために「悪いことをしたらどついてください」と語る親も現実にいる。高校野球では下級生に対する上級生の暴力も後を絶たないが、手を出す指導者を見れば、俺らも同じことをしていい、となる。これでは負の連鎖は断てない。
先生の資質もある。結果が出なかったり、生徒がついてこないと、歯がゆさを感じる。その時に「切り捨てるぐらいなら、こいつのためにどついた方がええ」と考える教員もいるのではないか。成功例を経験すると、余計に体罰に走る。
生徒は失敗して当たり前。なぜ失敗したかを教えることで成長する。だから、教育の世界がある。
私はいつも「勝ちたい監督は駄目。勝たせたい監督になれ」と言っている。「『勝ちたい』では指導者が主役。選手は、あんたのためにおると思っているやろ」と。一方で「勝たせたい」だと主役は生徒。それが本当の指導だ。
今回の桜宮高校の問題では、部活動が学校教育の中の一つとして機能しなかった。顧問が「教育とは何か」「部活動とは何か」を理解していれば、起こらなかったはずだ。
高野連もこれまで、多くの体罰の報告を受け、処分してきた。体罰に頼るのは、一言で言えば指導力不足。自分の技術を理論化、体系化し、それを言葉で伝えられる能力が必要だ。【聞き手・新井隆一】
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大阪市立桜宮高校バスケットボール部顧問の男性教諭から体罰を受けていた男子生徒が自殺した問題を受け、体罰が繰り返される高校スポーツ界の土壌、時代に合った指導法などを、高校生世代の指導に精通するスポーツ界関係者に聞いた。
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■人物略歴
◇にしおか・ひろたか
大阪・三国ケ丘高(現三国丘高)、同志社大を卒業し、滋賀県の高校教員に。78年夏には膳所高監督として甲子園に出場した。07年から現職。