体罰問題:続・私の視点/2 東京国際大女子ソフトボール部総監督・宇津木妙子さん
毎日新聞 2013年01月30日 東京朝刊
◇自分さらけ出して−−宇津木妙子さん(59)
今は先輩、後輩もなくなり、部活動のルールに、どこかなあなあの部分があると感じる。規律のためにそういうこと(体罰)をしたのかもしれないが、学校教育の中で、体罰は絶対に良くない。暴力であって、しつけの一種とは違う。
私は随分と手をあげてきた方だが、指導者として変わってきた。今までは自分がやってきたことが正しいと、何でも抑えつけて頭ごなしにやってきた面もあった。変わったのは、日本代表の選手を指導した頃から。話すことで選手は思いを理解してくれた。
時にはバットを放り投げ、「もう勝手にしろ。代表としての責任も自覚もないなら、やめてくれ」と、練習をさせなかったこともあった。ただ、いくら叱っても、絶対にフォローをした。合宿では、長い時に2時間半くらい風呂に入り、選手と入れ代わり立ち代わり話をする。大切なのは自分をさらけ出すこと。シドニー五輪の代表メンバーは「監督が真剣で、何とかしたいという思いを分かっていたから、ついてこられました」と言った。
選手と向き合うことが一番大事だと思う。常に格好をつけず、自分をさらけ出す。時には自分の弱さを見せ、苦労した話もして、コミュニケーションを取る。日本代表の選手は切り替える力があり、この切り替え力はすごく大事だ。
先日、ソフトボール教室で、男の子に「監督が叱ってくれなかったらどう思う?」と聞いたら、「つらい。僕は見捨てられている。僕のことを考えてないからだと思う」と答えた。
叱ることと、怒ることや体罰は違う。見て見ぬふりをしてはいけない。何も言わずに見て見ぬふりをしたら、子どもたちは弱くなる。根気よく向き合うこと。その繰り返しだ。相手が分かるまで根気よく伝えていくことが指導であり、教育だと思う。人の目を見て話せない人が多い社会になっている。見捨てず、なあなあでやるべきではない。【聞き手・井沢真】=つづく
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■人物略歴
◇うつぎ・たえこ
埼玉県出身。女子日本代表監督として00年シドニー五輪で銀、04年アテネ五輪は銅メダルを獲得。NPO法人理事長として国内外への競技普及も担っている。