ダイヤを寝かせて増発する
しかし、この例は京葉線にはそのまま当てはまらない。なぜなら、京葉線の混雑率は2007年にピークの198%を迎えたあと、増発の効果もあって混雑率が下降している。千葉県が公開したデータによると、最混雑時間帯の混雑率は175%だ。都内の通勤路線としてはこれでも低いほうである。ただ、千葉県のデータは快速が停まらない葛西臨海公園と新木場の間を計測しているから、これは各駅停車のみの数値かもしれない。それなら、快速列車への乗客集中を改善する意味はあるだろう。
おそらく、京葉線ラッシュ時の快速運転中止は、別の目的がある。それは、運行本数の増加である。今回のダイヤ改正で、京葉線については朝の通勤時間帯に武蔵野線から東京へ直通する列車が1往復だけ増える。また、武蔵野線から京葉線の逆方向、新習志野方面に乗り入れる列車も1往復増える。京葉線は列車の増発によって混雑率を下げてきた。だから、混雑への特効薬は増発だ。
実は、この増発のために必要な措置が「快速の各駅停車化」だ。
鉄道路線をもっとも効率よく運行するには、すべての列車を同じ速度で等間隔に運行したほうがいい。これは「平行ダイヤ」と呼ばれている。山手線もそう。東急池上線など、都心の私鉄の各駅停車のみの路線もそうだ。路線になるべくたくさんの列車を走らせるには、平行ダイヤがベストな選択となる。速度の違う列車を走らせると、運行間隔がまばらとなって、列車を詰め込めないのである。
京葉線の場合は、ラッシュ時間帯の快速電車を取りやめ、特急列車にも遠慮してもらって、平行ダイヤを作ろうとし、増発を達成するのだ。平行ダイヤ至上の考え方で言うと、通勤快速もやめたいはずである。しかしこれはなかなかやめられない。京葉線の整備の理由のひとつが、大混雑していた総武線のバイパスだったからだ。
千葉と東京を行き来する乗客を総武線から移転するために、まず地下鉄東西線が造られ、都営新宿線が延伸し、さらに京葉線が造られた。東西線も新宿線も、地下鉄では珍しく快速運転をしている。これも総武線からの誘導を狙ったものだろう。
●JR東日本の不動産事業にも注目
JR東日本が、混雑率ではマシな京葉線について輸送強化をしたい理由は、もしかしたらほかにもあるかもしれない。現在の快速通過駅付近で再開発が始まるなら、その鍵をにぎる要素が「鉄道の便利さ」である。東京駅から2つ目にもかかわらず乗降客が少ない越中島駅などは、住宅物件としてはもったいない立地だ。
この越中島・潮見・葛西臨海公園の各駅は、ラッシュ時間帯の快速中止だけではなく、日中の武蔵野線直通快速がすべて停まるため、1日の停車回数が126回も増える。新線開業を除くと、こんな駅は近年めったにない“出物”である。
私がJR東日本の社長なら、とっくにこの3駅周辺の土地取得を指示している。むしろ、不動産開発とダイヤ改正はワンセットで考える。国鉄時代にできなかった「多摩田園都市」方式を、いまJR東日本はやろうとしているのではないか。
[杉山淳一,Business Media 誠]