快速運転をやめるメリット
京葉線で快速列車が通過する駅は、新習志野・二俣新町・市川塩浜・葛西臨海公園・潮見・越中島だ。JR東日本は2011年度の駅の乗車人員を公開しており、これらの駅の乗車人員を調べると、新習志野は1万2532人、葛西臨海公園が1万1644人と1万人を超えているほかは1万人以下。越中島はもっとも少なくて4137人だ。東京へ向かう通勤路線として、乗車人員1万人は、都心部に近いにもかかわらず少ないほうである。ちなみに、快速停車駅の検見川浜は1万5220人。海浜幕張は5万3772人となっている。
乗車人数が少ない駅に、快速運転をやめてまで停車する意味があるのだろうか。どちらかというと、快速電車利用客の所要時間増のデメリットのほうが目立つ。おそらく、それはJR東日本も承知である。でも、快速運転を取りやめる。そのメリットは何か。
実は、快速運転をやめて大きな効果を得た路線がほかにある。東急田園都市線である。東急田園都市線は東急が主導して開発した多摩田園都市と都心部の渋谷を結ぶ路線だ。渋谷からは東京メトロ半蔵門線に乗り入れる。
この路線はかつて、朝ラッシュ時に急行を運転していた。二子玉川から地下に入ると、三軒茶屋駅以外は通過し、桜新町駅で各駅停車を追い越した。この速達運転は東急にとって大きな意味があった。長距離乗車する乗客へのサービス向上はもちろんだが、沿線の土地の価値を上げるために「渋谷まで急行で◯◯分」の「◯◯」を小さく見せる必要があったからだ。住宅地開発上のライバルは、「新宿まで◯◯分」「池袋まで◯◯分」という、他の大手私鉄沿線にあった。
しかし、この作戦が成功し土地が売れて、沿線に乗客が増えると今度は急行が悩みのタネになってしまった。誰もが急行に乗りたがり大混雑となり、各駅停車と急行の乗換駅では乗降時間が延びまくった。私もかつてこの沿線から通勤しており、溝の口駅に急行が着くと、乗降時間が長いため、追い越したはずの各駅停車が追いついてしまい、ホームの隣の線路に到着していた。
急行が速すぎて先行する各駅停車に追いつくなら理解できるけれど、急行が遅すぎて各駅停車に追いつかれる。冗談にもならない状況だった。当時も各駅停車と急行の到達時間の差は数分だったと思う。しかし、やはりラッシュ時の乗客は急行に乗りたがる。早く走るための急行が、運行遅延の原因になってしまった。
そこで東急はついに英断を下す。2007年にラッシュ時間帯の地下区間の急行運転をやめて、地上のみ急行運転する「準急」とした。「渋谷まで◯◯分」のプライドを捨てて取り組んだ。結果としてこれは大きな効果を生んだ。運行遅延は減り、大井町線などバイパス路線の整備効果もあって、当時198%だった混雑率は2011年に181%まで下がった。