最後が江戸時代に堺を訪れた中国人が食べていた煮物を起源とする説。広東料理をもじって「広東煮」と呼ばれ、それが関東煮へと変わったとされる。たこ梅の5代目社長、岡田哲生さんは「堺の浜で中国人の食べていたごった煮をヒントにして、初代が作ったと伝わっています」と有力な手掛かりを教えてくれた。
しかし、たこ梅開店当時の日本は鎖国で、堺への外国船入港は禁じられていたはず。このため岡田さんは、当時の料理本である1714年の文書「節用料理大全」に記されたタコの煮物「たこくわんとうに(かんとうに)」が名前の由来と考えている。
これだけ諸説あるのは、関東煮が広く親しまれている裏返しともいえる。由来が何であれ、関西に根差した食文化として独自の発展を遂げた点は確かだ。
◇ ◇
関東のおでんとの違いは、まず味付け。関東が濃い口しょうゆによるやや塩辛い味付けなのに対し、関東煮は薄口しょうゆがベースで少し甘め。大阪や京都の料理人が上方料理の技法を持ち込み、関西人が好む味付けにしたとされる。
鯨食が盛んだった土地柄を反映し、クジラの舌「さえずり」や皮の「コロ」をおでんダネに使うのも関東煮ならでは。いい味が出るとされるクジラと練り物を組み合わせ、独特の複雑な味わいのダシを生み出した。一般におでんはダシを沸騰させないが、うまみのしみ出たダシを次の日も使う関東煮は泡立つほどぐつぐつ煮る。
牛すじやタコも関東煮の主役。ダシにさっとくぐらせて食べるワカメや春菊、近年は下ごしらえしたトマトなどの変わり種も鍋に入る。逆に関東では人気のあるちくわぶ、はんぺんはあまり見かけない。
俳優の森繁久弥は生前、大阪市北区の老舗「常夜燈」をひいきにし、同店の関東煮を「かんさいだき」と名付けた。「これはもう関西のものだとして、命名されました」と現店主の池永伸さん。コンビニ各社が全国で関西風のダシを使うなど、関西で育った関東煮は各地のおでん文化に影響を与えている。
(大阪経済部 山田和馬)
[日本経済新聞大阪夕刊いまドキ関西2013年1月30日付]
関東煮、おでん、みそ田楽
寒風が吹くと恋しくなるのが熱々のおでん。関西では「関東煮(かんとだき)」の呼び方がなじみ深いが、おでんダネや味付けは関東のそれとはちょっと違う。なぜ関東煮と呼ぶのかルーツを探り、おでんにみる食文化の…続き (2/2)
日本酒の銘や社名に「正宗」を使う蔵元は全国に多い。元祖は中堅酒造会社の桜正宗(神戸市)だ。正宗が全国へ広がった経緯を探っていくと、商標の管理という日本企業が今日直面する問題が浮かび上がってきた。
桜…続き (1/26)
「お豆さん」「お日さん」「おはようさん」。関西では食べ物や自然、果てはあいさつまで幅広く、まるで人を呼ぶかのように「さん」を付けて丁寧に呼ぶ。温かみのあるやさしい言葉だが、どんな歴史や背景があるのだ…続き (1/19)
各種サービスの説明をご覧ください。