JSA 日本サポーター協会
JSAJSAスペシャルズインタビュー&レポート

◎広島専用スタジアム建設のゆくえ――前編



■はじめに
 サッカー専用スタジアムといえば、千葉では蘇我に建設することが決定している。2005年オープンに向けて着工、ネーミングライツも検討中という。これで、サッカー専用スタジアムがない政令指定都市は、広島、京都だけとなる。なかでも、広島では、今西和男氏(前サンフレッチェ広島ゼネラルマネージャー)らを中心に、2003年4月1日に関係者9団体が「スタジアム推進プロジェクト」を発足した。専用スタジアムの規模は収容2万人で、観客席は屋根付き、工事費は100億円以内で検討したい(今西氏)、ということだったが、その後どうなっただろうか。これまでの経緯もふまえ、レポートする。
 
■海から行けるスタジアム?〜五日市の印象〜

 ジェットコースターの上りのように、数百メートル先が見えないほどせり上がった道路。国道2号線を広島市から廿日市へ向かって東へ抜け、八幡川橋を渡りきったところで左側に目をやると、ビニールシートでかなり広範囲の土地が覆われている。そこは、八幡川西側の沖合いで、広大な埋立地になっていた。
JR、市電の五日市駅東口から15〜20分ほど歩いたところで、交通の便はまあまあ。埋立地から目を転じると、貨物船が多く入り乱れるようすを間近に眺められる。これなら、広島湾から船でも来られるかもしれない?

ここ五日市の埋立地は、広い駐車場が確保でき、騒音問題が起きない、などのメリットで、かつて専用スタジアム建設の最有力候補地として挙げられていた場所である。そう、「かつては」。今年の春先、推進プロジェクトの今西氏に電話で尋ねたところ、「地盤沈下」や「県の財政難」といった理由から、五日市での建設案はペンディングになっているという話だった。

五日市(埋立地は道路右手)

■経緯と候補地

そもそも、広島で「サッカー専用スタジアム」建設を望む声は、2002年ワールドカップよりはるか以前からあった。それは昭和26年の広島国体の時期にまで遡ることができる。また、戦後昭和40年代の東洋工業全盛期にも同様の話がもちあがり、今のひろしま美術館のあたりも候補地だったという。しかし、どれも実現には至らなかった。

今西氏によると「推進プロジェクト」発足後、掲げられた候補地は10ヵ所ほどあったという。そのうち次に挙げる5案に絞り込まれた。

(1) 広島市民球場(中区)跡地に新設案
カープの本拠地が現在の市民球場からヤード跡地に移転するのを機に、球場跡地を利用してサッカー専用スタジアムを新設しようという案。ただし、肝心のカープ移転話が白紙撤回されたため、実現不可に。

(2) 広島大学跡地(中区)に新設案
広島大学(本部)は現在、東広島市に移転し、日赤病院前にある跡地は東千田公園になっている。広島市街地中心部辺りから路面電車で約15分位で『広島市民が気軽に足を運びやすい場所』。『広さも申し分ないし、法的なしばりもない。市民が「コミュニティの場」としてとらえるには、まず最適の場所、といえるだろう』(紫熊倶楽部2003年5月号)と、きわめて評価の高い地であった。にもかかわらず、断念されたのは、予算の問題だった。国有地であるためか、買い取りには、なんと200億円もかかるらしい(今西氏談)。

広島大学跡地(東千田公園)

(3)五日市地区(佐伯区)の八幡川河口の埋立地に新設案
 交通アクセスや広い駐車場の設置も可能ということで、新設するスタジアムは五日市に、という案が最有力だったが、先に述べたように、地盤沈下や広島県の財政難などを理由に、現在話は進んでいない。

五日市・八幡川西側の沖合い

 ただ、いずれにしても、新たに建設するとなると、実際に稼動するまで5年はかかる。このため、繋ぎとして、既存の球技場を改修する案も浮上した。

(4)広島スタジアム(西区)改修案
 広島スタジアムの改修案は陸上競技関係者の反対にあい、暗礁に乗り上げた。さらに、近くに広島西飛行場があるために、スタンドに屋根をつけようとすると、航空法による高さ制限にひっかかる。また、公園法の問題(2万人屋根つき専用スタジアムに改修しようとした場合、隣接する広島県営球場を解体しなければならない!高校野球などでも盛んに利用されており、野球関係者からの反発は必至)も加わり困難とされる。

(5)広域公園第一球技場(安住南区)改修案
 そこで挙がったのが、広島ビッグアーチのそばに位置する、広域公園第一球技場改修案である。現在の席数は7,500席。これをJリーグ規定の15,000席に増設しようというのだ。建設費10億円のうち、第一球技場を所有する広島市からはピッチと照明費2億円を負担してもらうという話だった。
 2005年シーズン中にオープンということで進められていたが、市が財政状況の悪化などを理由に改修に難色を示した。また、短期間に第一球技場を改修し、本格的なスタジアムを建設するのは「二重投資」になるという理由により、この案は事実上頓挫した。

 と、いうわけで「県・市がカネを出せない」「法的規制(公園法・航空法)」「他競技団体(陸上競技・野球)との兼ね合い」などの問題が絡みあい、厳しい状況ではある。しかし、冒頭にも述べたように、広島では60年以上もの間、サッカー専用スタジアムが求められてきたし、今も熱烈に望む声が挙がっている。可能性がないわけではない。次号では、そんな声や希望的観測についてお伝えしたい。

                               (松本 佳世子)


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