村上尚己氏の古代マネタリズム

池田信夫

2013年01月31日 16:18

間違いを何回指摘されても同じバカな話を繰り返すのは、反原発派とリフレ派の共通点だ。村上尚己氏は、またいつもの変な図を出してアゴラの私の記事を批判しているが、こんな図は起点を変えれば何とでも描ける。対GDP比で描けば、次のように日銀のマネタリーベースはいまだに世界最大で、FRBの1.5倍である。

そうするとリフレ派は「問題は残高じゃなくて増加率だ」というが、FRBが2008~10年にマネタリーベースを激増させたのは金融危機で銀行の資金ぐりを支援したためで、日銀にはその必要がなかっただけだ。そしてFRBも金融危機が落ち着いたあとは、マネタリーベースの増加率を抑えているので、上の図を見ればわかるように2011年以降の増加率は日銀のほうが大きい。

問題はそんなことではないのだ。Woodfordが多くの研究をサーベイしていうように、ゼロ金利ではマネタリーベースの残高にも増加率にも意味がないのである。標準的な理論では、物価水準は金利の変数であり、マネタリーベースは金利を下げることで物価に影響するので、ゼロ金利ではきかない。将来の予想は多少は影響するが、それは長期にわたって金利を上げないというコミットメントだけで、マネタリーベースとは無関係だ。

村上氏はいまだに「マネタリーベースが増えると物価が上がる」と素朴に信じているらしいが、これはKrugmanもバカにしている19世紀の古代マネタリズムであり、次の図のようにアメリカでも成り立たない。リフレ派も、そろそろ目をさまして21世紀に戻ってきてはどうだろうか。



村上氏も経済学部は出たようだから、Woodfordの論文ぐらい読むことをおすすめしたい。アゴラはすべての立場の人々に開放している討論の広場なので、彼の反論も歓迎する。

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経済学者。株式会社アゴラ研究所代表取締役

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