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原発の過酷事故に備えた新しい安全基準案を、原子力規制委員会がまとめた。これまでは安全神話のもと、電力会社の自主的な取り組みにゆだねてきたが、「事故は起きる」ことを前提に[記事全文]
国内でテレビ放送が始まってから、2月1日で60年になる。若者のテレビ離れがいわれて久しい。だが、NHKの調査で国民全体では平日に平均3時間28分と、今も最も見られている[記事全文]
原発の過酷事故に備えた新しい安全基準案を、原子力規制委員会がまとめた。
これまでは安全神話のもと、電力会社の自主的な取り組みにゆだねてきたが、「事故は起きる」ことを前提に法律で義務化する。先日公表された地震・津波対策とあわせ、7月までに詳細を詰める。
安倍政権は「安全性が確認された原発は動かす」方針だが、発想が逆だろう。危ない原発、動かさない原発を仕分ける基準として位置づけるべきだ。
過酷事故への対策には、欧米各国でとられている主な規制を盛り込んだ。完全に実施されれば、原発の安全性が向上するのは確かだ。
ただ、建設や整備に時間がかかるものもある。このため、一部については猶予期間を設ける方針だ。
電力各社は火力発電の燃料費が経営を圧迫しており、再稼働を急ぎたがっている。猶予期間も条件もできるだけ緩くしてほしいというのが本音だ。
しかし、ずるずると対応が遅れることがあってはならない。少なくとも、免震や自家発電の機能をもつ「緊急時対策所」の設置などは、再稼働の必須条件とすべきだ。
改正した原子炉等規制法は、過去に建設した原発であっても最新の安全策を反映させる「バックフィット」を義務づけた。
今後、原発に関わる新たな知見が出るたびに、すべての原発は新たな安全基準への対応を求められる。猶予期間の有無にかかわらず、「これでよし」は訪れない。
当然、費用もかかる。だが、「料金の値上げで回収すればいい」「減価償却が終わるまで原発の寿命を延ばせばいい」といった従来型の発想は、もはや許されない。
古い設計思想に基づいた原発を放置しないためにも、規制委は運転期間の40年制限を厳格に適用しなければならない。
かかった経費を料金に転嫁できる「総括原価方式」の見直しなど、電力改革も政府が着実に進める必要がある。
そうすれば、電力会社自ら、「安全投資か廃炉か」の経営判断もしやすくなる。
いくら安全対策を講じても、原発が抱えるリスクはゼロにはならない。なにより、使用済み核燃料や高レベル廃棄物の処分策が決まっていない。使用済み燃料をどこに保管し、最終処分場をどう確保するのか。
こうした点を考えれば、おのずと動かせる原発は限定されてくるはずだ。
国内でテレビ放送が始まってから、2月1日で60年になる。
若者のテレビ離れがいわれて久しい。だが、NHKの調査で国民全体では平日に平均3時間28分と、今も最も見られているメディアだという。
テレビが放送される電波は周波数に限りがある公共財だ。国から免許を得て電波を使っている放送局には、それを役立たせる社会的な責任がある。
だがチャンネルをかえても、毒舌のゲストやお笑い芸人、若いタレントがならぶ番組ばかりじゃないか。そんな不満が世間に広がっている。
テレビ局の収入増につながる視聴率にあまりにとらわれる現状は、いびつと言うしかない。
「視聴率と性別・年代別のターゲットに振り回されている」「(人気ものをそろえる)吉本興業のタレントを出演させないぐらいの決断をしないと、変わらない」
評論家の言葉ではない。民放キー局の役員たちから漏れ出る本音だ。一方で、高齢の視聴者が多く、若者に見てもらいたいNHKには「民放化している」「番組の宣伝が多すぎる」という批判が根強い。
一番見られているメディアとはいえ、調査会社によると、午後7〜10時の総世帯視聴率(関東地区)は昨年、63・9%に減った。10軒に4軒近くは見ていない計算だ。
茶の間で家族そろって同じ番組を見る。そんなかつての生活のあり方が様変わりした。本を読んだり、スポーツで汗を流したり。思い思いの時間をすごせるのは豊かさともいえる。
日本が世界2位という新聞や雑誌、ゲーム、映画、音楽などのコンテンツ市場で、売り上げが最も多いのは地上テレビ番組だ。国内で満足していたテレビ局が番組輸出に力を入れだしたのは、広告収入が落ちこんだ最近になってだ。
2010年度の番組輸出額は63億円で、うち半分近くをアニメが占める。国をあげて支援する韓国は05年に日本を逆転し、10年には165億円になった。
日本の番組輸出で最近の成功例といわれるのが、80カ国・地域に販売されたTBSのドラマ「JIN―仁―」だ。日本で好評だった作品が、外国の視聴者に届く王道をいった。
補正予算で、番組の海外への普及に前例のない170億円が計上された。字幕や吹き替えを半額ほど補助し、国をこえる共同制作を支援する。番組の輸出は日本への理解も増す。そんな番組を作る力をつけることが、質の向上にもつながる。