社説

原発政策の転換/民意を無視してはならない

 国政与党に返り咲いた自民党の幹部から、2030年代の原発ゼロを掲げた民主党の「脱原発路線」見直しの発言が相次いでいる。
 開会中の通常国会の代表質問では、民主党の岡崎トミ子副代表(参院宮城選挙区)らの質問に、安倍晋三首相は「ゼロベースで見直す」と白紙に戻して検討し直す考えを示した。
 昨年末の衆院選で自民党が訴えたのは原発ゼロではなく、「原発依存度の縮小」が中心だった。同党は以前から脱原発に消極的で、その意味では驚きに値しない政権奪取後の「原点回帰」と言えなくもない。
 だが、見直しを言いだすのであれば、原発ゼロに至った経緯とその重みにも十分留意しなければならない。
 民主党政権は昨年、福島第1原発事故後のエネルギー政策をめぐって、仙台市や福島市など全国各地で国民の意見を聴き、その結果を踏まえ原発ゼロを目指すと決めた。
 世論の広範な後押しを受けた政策目標だったことは明らかだ。本格的な見直しに着手しようとするのであれば、多くの国民を納得させられるだけの理由付けが必要だ。
 きちんとした議論や説明の積み重ねがないままなし崩し的に見直すのは、国民の声を無視することに等しい。
 見直しに最初に触れたのは茂木敏充経済産業相だった。就任早々、「再検討が必要」と明言し、使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出すサイクル政策についても「放棄する選択肢はない」と話した。
 安倍首相は昨年末、新たな原発の建設を容認する姿勢も示した。年明け後、「直ちに判断できる問題ではない」と後退させたが、原発新設にまで言及する政権がゼロ政策に理解を示すことはあり得ないだろう。
 仮に原子力政策を仕切り直すにしても、民意の在りかを探る努力を惜しんではならない。
 30年代の原発ゼロ目標は、「意見聴取会」や「討論型世論調査」などを繰り返し、時間をかけて世論を吸い上げた結果だった。
 脱原発を求める意見が多数を占めたため、期限を設けて原発ゼロを打ち出さざるを得なかったのが実情だ。公正な意見聴取が土台になったことを自民党政権は忘れてはならない。
 政府や政党ではなく、世論が主体になって実現させた政策目標である以上、簡単に捨て去ることはできないはずだ。
 当面の課題としては原発再稼働の是非がある。新政権スタート直後の昨年末、福島県富岡町の遠藤勝也町長は「政府だけで再稼働を決めるのは絶対反対だ」と、国民的な議論を経た合意形成を条件に挙げた。
 原発事故で全町民が避難している富岡は、いわば原子力の光と影を共に体験した自治体だ。被災地は今も影の部分に苦しむ。被災者らの声に耳を傾けないまま原子力政策を決めていくとしたら、原発事故以前に戻ることでしかない。

2013年02月01日金曜日

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