社説:原発新安全基準 「猶予」で骨抜きにするな
毎日新聞 2013年02月01日 02時31分
原発の新しい安全基準の骨子を原子力規制委員会がまとめた。東京電力福島第1原発の過酷事故の背景のひとつに、安全基準の甘さがあったことを思えば、今回は妥協は許されない。
新基準は既存の原発にも適用される。大規模な改修が必要となる場合もあるだろうが、それにかかる時間やコストを考えれば規制がゆがむ。田中俊一・規制委員長は「コストのことは全く頭にない」と述べているが、当然のことだ。
対応できない施設が淘汰(とうた)されていくのは健全な姿であり、規制委は今後も政治や行政、産業界からの独立性を貫いてもらいたい。
新安全基準は、地震・津波対策も、設計基準や過酷事故対策も強化しており、その点は評価したい。福島の事故前は、津波に対する基準があまりにおざなりだった。新基準はこれを厳格にし、活断層の評価も従来よりさかのぼり約40万年前以降を考慮するよう求めている。地震の揺れだけでなく、断層のずれによる施設の損傷も考慮の対象となる。
福島の事故では、すべての電源が長時間喪失し、原子炉が冷却できなくなった。新基準は、電源の多重性や多様性を求めており、電力事業者はしっかり受け止めてほしい。
対策を取っても事故は起こりうるというのが福島の教訓であり、過酷事故対策を法的に義務づけたのも当然だ。航空機事故やテロ攻撃なども可能性が否定できない以上、考慮に入れる必要がある。
安全基準が新たに求める免震重要棟のような「緊急時対策所」、放射性物質をこし取るフィルター付きベント装置、原子炉の冷却を遠隔操作できる第2の中央制御室など「特定安全施設」も必要不可欠だ。福島の事故では、免震重要棟が事故対策の拠点となった。これがなければ、事故はさらに拡大したに違いない。
一方で、気になるのが重要な施設の設置に対する「猶予期間」だ。
規制委は地震・津波対策には猶予期間を置かない方針だが、緊急時対策所や特定安全施設、一部のフィルター付きベントなどについては、一定の猶予期間を設ける可能性がある。
その際には、こうした重要施設が設置されないままに事故が起きた場合に、どう対策が取れるかが示されなくてはならない。納得のいく事故対策ができないのであれば、猶予を許すべきではない。
電力事業者にも再認識を求めたいことがある。国の安全基準は最低限守るべき基本線であり、原発の安全を守る一義的な責任は事業者にあるという点だ。安全基準が厳しいと訴えるより先に、安全確保の決意を新たにしてほしい。