安倍晋三首相は31日の衆院本会議で、旧日本軍の従軍慰安婦問題への関与を認めて謝罪した河野洋平官房長官談話の扱いについて、自らは距離を置き、菅義偉官房長官に対応を委ねる姿勢を打ち出した。「日米同盟の立て直し」が懸かる訪米を2月下旬に控えており、人権問題に厳しい米国世論に配慮して予防線を張った形だ。
「筆舌に尽くし難いつらい思いをされた方々のことを思い、非常に心が痛む。この点についての思いは歴代首相と変わりはない」。首相は共産党の志位和夫委員長の質問に答え、慰安婦への同情を口にした。
昨年9月の自民党総裁選で首相は、強制連行を裏付ける資料がないことを理由に、談話見直し論を展開していた。しかし、31日の答弁では「河野談話は当時の河野官房長官によって表明されたものであり、首相である私からこれ以上申し上げることは差し控え、官房長官による対応が適当と考える」とし、自らは関与しない姿勢を鮮明にした。
首相答弁を受け、菅長官は記者会見で「学術的な観点からさらなる検討を加えることが望ましい」と語った。安倍政権は有識者による検討会を設け、「未来志向の安倍首相談話」の素案を練ることにしている。
2007年4月に首相が訪米した際は、「慰安婦問題を直視していない」という米世論の猛反発を受け、ブッシュ大統領(当時)との首脳会談で謝罪せざるを得なかった苦い経験がある。首相がこのタイミングで河野談話に関して菅長官にげたを預ける方針を明確にしたのは、慰安婦問題が日米間で再び火種となることを避ける狙いがあるようだ。
沖縄県・尖閣諸島をめぐる中国との対立が続く中、再登板後初の訪米を失敗させるわけにはいかないという危機感もあるとみられる。首相の姿勢について、外務省筋は「歴史問題で(米国と)ぎくしゃくするのはプラスにならない」と指摘した。(2013/01/31-20:01)