166億円のわな:振り込め詐欺の構図/下 「犯罪インフラ」 /神奈川
毎日新聞 2013年01月31日 地方版
◇ネット、携帯、口座…巧妙に利用 多重債務者らから入手
「通帳売ります」「高収入のアルバイトあります」−−。インターネット上には、他人名義の口座や携帯電話の売買、犯罪の求人情報があふれている。
警察庁は昨年5月、インターネット掲示板「2ちゃんねる」が削除依頼を受けたのに放置した違法な書き込みは、11年1年間で5068件あったことを明らかにした。このうち、口座売買に関するものは405件、携帯電話の売買は110件に上った。
手軽に情報をやりとりできるインターネット掲示板の悪用。警察は振り込め詐欺を助長する「犯罪インフラ」として分類している。
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小田原市の無職男性(41)は昨年6月、詐欺未遂容疑で磯子署に逮捕された。同9月に横浜地裁で開かれた公判で、事件に関わった経緯を振り返った。
家賃の支払いに困っていた。インターネット掲示板を見ていたら「高収入のアルバイト募集」という書き込みが目に留まった。連絡を取ってみると、男から「ある場所に行って、あるものを受け取って届けてくれたら5万円」と言われた。
まともな仕事ではないと思った。それでも、指示通りスーツを着て、横浜市磯子区の80代女性宅に現金を受け取りに行った。そこには磯子署員がいた。昨年9月、懲役2年6月、執行猶予5年の判決を受けた。
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横浜市鶴見区の無職男性(66)は昨年2月、港北署に詐欺と犯罪収益移転防止法違反の容疑で書類送検された。
ある日、携帯電話に見知らぬ男の声で、誘いの電話がかかってきた。「口座を作って指定した場所に送れば、30万円融資できる」
金に困っていた男性は、郵便局で口座を作り、指定された東京都内の私書箱にキャッシュカードを送った。その口座は数日後、振り込め詐欺事件の振込先に使われた。この私書箱には、多重債務者が作ったキャッシュカードが30枚以上、届いていたという。
なぜ、男性の連絡先が分かったのか。金融機関で借金を繰り返し返済に窮することもあったため「ブラックリスト」に男性の名前や連絡先が載っていた。捜査幹部は、ブラックリストが犯人グループに流れたとみている。
携帯電話や口座は、振り込め詐欺に欠かせないツール。犯人たちは足が付かないように、あの手この手で入手する。これも「犯罪インフラ」だ。