[け]で始まる語句・ことわざ
鯨飲馬食(げいいんばしょく):【意味】「牛飲馬食」ともいう。多量に飲み食いすること。人並み外れた大食漢=豪傑が、講談にはしばしば登場して凡人をあきれさせる。(講談・慶安太平記、西郷南洲、落語・試し酒:「もろこしの言葉に鯨飲馬食ということばがあるが、きみののみっぷりなんざ、まさに鯨飲てぇやつだなァ」)
芸者商売仏のごとく花や線香で日を送る(げいしゃしょうばいほとけのごとくはなやせんこうでひをおくる):【意味】都々逸。芸者を呼んで払う代金を「花代」「線香代」(その計算のため線香一本の立ちきる時間を単位にした)というくらいで、まるで仏様のようなものである、ということ。(落語・たちきり:「芸者商売仏の如く花や線香で日を送る……船場。大阪のどまん中。……船場のご大家にありましたお噂でございます」)
系図買い(けいずかい):【意味】盗品売買のこと。または盗品ブローカー。「故買屋」で「けいずや」と読み、略して「ずや」ともいう。(落語・ちきり伊勢屋:「あっしの姿(なり)を見てお前さんは、『こりゃァ系図買じゃねえか』と思ってるンだろうが」)
傾城にかわいがられて運のつき(けいせいにかわいがられてうんのつき):【意味】遊里で遊女になまじ調子のいいことを言われてのぼせ、通い詰めになると、遊びの金に詰まってにっちもさっちもいかなくなってくる、ということ。ふられていればそういうことにはならない。次項とも関連。(落語・五人廻し、お見立て:「『傾城に可愛がられて運の尽』という狂句にある通り遊郭(くるわ)などは余り行くべき処ではございません」、指仙人、山崎屋、立波)(参照)→女郎買い振られて帰る果報者
傾城に咎なし、かよう客人に咎あり(けいせいにとがなし、かようまろうどにとがあり):【意味】「傾国に咎なし~」とも。(経済的事情などでよんどころなく)春をひさぐ女には罪はなく、そうした女を買う客がいるということにそもそも問題があるのである、ということ。吉田兼好が言った?(落語・五人廻し:「『傾城傾国に罪なし、通い給う賓人(まろうど)にこそ罪あれ』……なぞとは、ほほ、吉田の兼好も乙ゥひねりやしたね」)
傾城に誠なしとは誰が言うた(けいせいにまことなしとはたがいうた):【意味】(参照)→「女郎のまことと四角な卵、あれば晦日に月が出る」というが、中には例外的に実のある妓もいるのだ、という歌の文句。(落語・紺屋高尾、講談・清水次郎長:「親兄弟もなし、誰に孝行をしようと言ふ人も無いから、此人と一緒に死なうといふのは、傾城に實が無いとは誰が言つた、實が有る程通やせで。」、玉菊燈籠)
傾城の恋はまことの恋ならで金持ってこいが本当のこいなり(けいせいのこいはまことのこいならでかねもってこいがほんのこいなり):【意味】「傾城に誠なし」(講・安中草三郎)ともいい、遊女が客に対して「惚れている」というのは、稼ぎ目当ての、手管という名の嘘であって真に受ける方が馬鹿である。彼女たちの「恋」は「金持ってこい」の「こい」なのである。(落語・お直し:「『傾城の恋はまことの恋ならで金持ってこいが本当のこいなり』金をもってこいという恋なんですからな」、唐茄子屋)
傾城の涙で倉の屋根が漏り(けいせいのなみだでくらのやねがもり):【意味】女郎の流す空涙にころっと騙されて、先祖代々の財産を使い果たしてしまう大店の主や若旦那を皮肉った川柳。(講談・安中草三郎:「今日も明日もと吉原通ひをして、そうそう續く筈はない『傾城の涙で倉の屋根が漏り』」)
鶏頭となるも牛後となるな(けいとうとなるもぎゅうごとなるな):【意味】「鶏口」ともいう。小さな組織(会社)の長になる方が、大きな組織の末端に属するよりも良い、という俗諺。「史記」にある言葉「むしろ鶏口となるも牛後となるなかれ」などによる。(講談・夕立勘五郎:「鶏頭となるも牛尾となるな、人は小さくも頭にならなけりやア徃かねえ」)
芸は一文上がり(げいはいちもんあがり):【意味】技芸というものは習って覚えた者が上手になる。身分の高下は関係ない、という諺。(講談・相馬大作:「乱暴のようだが、芸は俗に一文あがりと申します、芸術というやつは習って覚えた奴が上手」)
芸は死ぬまで修行(げいはしぬまでしゅぎょう):【意味】武芸でもなんでも、およそ芸というものは「これで良し」という境地はなく、死ぬまで修行研鑽を積まなければならないものである、ということ。(講談・寛永御前試合:「もうその方の腕前であれば十分じゃけれども、芸は死ぬまで修行じゃから、一度回国修行をして参れ」)
芸は身を助ける(げいはみをたすける):【意味】何か技術を身につけておくと、もしもおちぶれたときにも、なんとかそれによって食っていける、という教訓。「毛吹草」に「げいは身をたすくる」とある。(落語・梅若礼三郎、軒付け:「なァ、芸は身を助けるというて、まァ結構なこっちゃ」)《い》
警蹕の声(けいひつのこえ):【意味】貴人が出入りする際、先払いが周囲を戒めるために発する声。(講談・天一坊、落語・佐々木政談:「『シィーッ……』警蹕の声で」)
桂馬の高上がりは歩の餌食(けいまのたかあがりはふのえじき):【意味】「桂馬の高跳び」ともいう。将棋の駒の「桂馬」(一つ間を隔てて斜め前に飛び進む)がぽんぽん進みすぎて「歩」に取られてしまうように、身分不相応な地位に昇進して失敗したり、能力を発揮できないこと。「ピーターの原理」ともいう。(落語・将棋の殿様:「桂馬の高上りは歩の餌食と云う譬えの通りで、桂馬を取りました」、浮世床)
鶏鳴暁を告ぐる(けいめいあかつきをつぐる):【意味】朝が来ることを大仰に表現したもの。(講談・安中草三郎、落語・五人廻し:「もはや鶏鳴暁を告ぐるから、いかんとも術なしでげす」)
下戸の薬知らず、上戸の毒知らず(げこのくすりしらず、じょうごのどくしらず):【意味】下戸は酒を少し飲むと薬になると知ってはいるが飲めない。上戸はたくさん飲むと毒だとは知っていても酒をやめられない、ということ。よくできた諺。かつて清涼殿の殿上の間で、飲める者の席を「上の戸」、飲めない者の席を「下の戸」と分けたのが「下戸」「上戸」の由来であるという俗説がある。(講談・小山田庄左衛門、落語・居酒屋:「下戸の薬知らず、上戸の毒知らず……これもうまいお言葉で、下戸のお方は少し召しあがるとお薬になるということを知っていて飲めませんし、また上戸の方は、こんなに飲んでは毒だな、ということをご承知でやめられません」)
下戸の肴荒らし(げこのさかなあらし):【意味】酒を飲まない人は料理ばかりを食い荒らす、ということ。(講談・太閤記:「併し某は下戸でござる、下戸の肴荒しとかお肴が頂戴いたしたいものでござる」、落語・三軒長屋)
下戸の立てたる倉もなし(げこのたてたるくらもなし):【意味】酒を飲まず、その分貯蓄したからといって、倉を建てたという奴の噂は聞かない、という禁酒の無意味さを述べた言い回し。(落語・縁結び浮名の恋風:「其中にも上戸は下戸を掴へて『下戸の立てたる倉もなし』」=清正公酒屋、ズッコケ)
芥子が辛けりゃ唐辛子は甘い(けしがからけりゃとうがらしはあまい):【意味】侍に「けしからん」と言われた町人が口答えするときのセリフにある洒落。「~唐辛が隠居する」とも。(講談・笹野名槍伝、小金井小次郎:「何が怪しからねえ、芥子が辛けりやア唐辛は甘えや、まごまごしやアがると打擲るぞ」)
下司の智恵は後から出る(げすのちえはあとからでる):【意味】「下司の智恵と猫の睾丸は後から出る」とも。思慮の浅い人間は、必要な時には良い考えが浮かばず、物事が済んでしまってからアイデアを出すので役に立たない。「毛吹草」に「げすのちゑはあとにつく」とある。(落語・引越の夢:「下司の智恵と猫の睾丸は後から出るなんてェことをいうが、どうにもしょうがねえな」)
血気未だ定まらずこれを戒むる色にあり(けっきいまださだまらずこれをいましむるいろにあり):【意味】血気盛んな若い頃は、ことさら色欲を控え自分を戒めなければならない、という教訓。(講談・猿飛佐助:「血気未だ定まらずこれを誡むる色にあり。伊勢崎五郎三郎は楓を押し倒して馬乗りとなり」)(同義・参照)→若き時血気将に盛んなりこれを慎むこと色にあり、人生若いとき戒むべきは色にあり、人若き時心未だ定まらず、之を慎むこと色にあり
結構毛だらけ猫灰だらけ(けっこうけだらけねこはいだらけ):【意味】「け」で始まることばを並べて「結構」を茶化すときに言う語呂合わせの入った文句。「ありがた山のほととぎす」あるいは「おけつの回りはくそだらけ」と続く。(講談・寛永三馬術、落語・お直し、能狂言:「よろしいどころじゃござんせん。大変よろしい大結構……結構毛だらけ猫灰だらけ、てえぐらい」)
煙くとも後は寝やすき蚊遣かな(けむくともあとはねやすきかやりかな):【意味】教訓入り川柳。蚊を追い払うために木や香をたくが、最初はそれが煙たく感じても、いずれ蚊がいなくなり寝やすくなるので我慢すべきだということ。今は将来のために多少辛いことも辛抱しなさい、という教訓。(講談・清水次郎長:「『煙くとも後は寝やすき蚊遣かな、我慢してゐろ』『オヤオヤ情ねえなァ』」、祐天吉松、緑林五漢録~扇町屋の邂逅、落語・蚊いくさ)
外面如菩薩内心如夜叉(げめんにょぼさつないしんにょやしゃ):【意味】女の顔は優しく美しいが、その実、内心は恐るべきものであるから騙されてはいけない、ということ。中世以前からあった言葉らしい。(講談・大久保彦左衛門、天保六花撰:「外面如菩薩内心如夜叉、ああ女はおそろしい」、妲妃のお百、新吉原百人斬り、落語・お直し、猫久、無学者=浮世根問、血脈、地見屋)
家来の落ち度は主の落ち度(けらいのおちどはしゅうのおちど):【意味】家臣のしでかした不始末は、そのまま主君の不始末として受け止められるということ。主人を持つということには相応の覚悟が必要なのである。(講談・猿飛佐助:「家来の落ち度は主の落ち度、予が詫びをいたす」)
家来を見ることは主に如かず(けらいをみることはしゅうにしかず):【意味】家来のことはその主人がもっともよく知り抜いている、という日本的な主従の絆をいう諺。(落語・滑稽義士:「己れは人を、見損なつたことのない人間だよ、人を見ることは如ないつもりだ。家来を見ることは主に如かず、子を見ること、親に如かず」)(参照)→子を見ること親に如かず
下郎の業は仕易い(げろうのわざはしやすい):【意味】「下司の業は仕易い」とも。ちゃんとした侍からすれば、中間などの下郎の仕事は簡単なものである、ということ。「下賤(げす)の事には慣易い」(落語・お祭佐七)という言葉もある。(講談・笹野名槍伝:「下郎の業は仕易いといふが、權三郎の權平の奉公振りはといふと、決して主人にばかり取り入らうとは努めませぬ」、三家三勇士)(参照)→女は口のさがなき者
下郎は口のさがなき者(げろうはくちのさがなきもの):【意味】身分の低い者はとかく口が軽いので、悪事の片棒を担がせると露見の元になりやすい。そこでしばしば口封じされてしまうのだが、その際の悪い侍などのきまり文句。「小僧は~」(落語・隅田の馴染め)とも。(講談・加賀騒動:「知れたことだ、下郎は口のさがないもの、鄕右衛門が刀の錆となつて往生しろ」、大岡政談お花友次郎、寛永三馬術、落語・夢金、禍は下)(参照)→女は口のさがなき者、口さがなきは女の習い
毛を吹いて傷を求める(けをふいてきずをもとめる):【意味】毛を吹き分けてまで小さな傷を探すこと。他人のあら探しをすること。また、そういう余計なことをしたために、かえってヤブヘビに自分の欠点を暴露してしまうこと。(講談・太閤記:「止めなさい止めなさい、毛を吹いて疵を求めるようなものである」、西郷南洲、落語・孝女お里)
喧嘩すぎての棒千切(けんかすぎてのぼうちぎり):【意味】喧嘩が終わってから棒っきれ(千切は両端が太くなった棒、ちぎり木ともいう)を持ってくること。遅くて今更役に立たないこと。手遅れであるということ。「毛吹草」に「いさかひはてゝのぼうちぎりき」とある。(講談・幡随院長兵衛:「と後悔をしたが、喧嘩すぎての棒千切、今更仕方がない」、相馬大作)《い》
喧嘩に被る笠はない(けんかにかぶるかさはない):【意味】「売られる喧嘩に被る笠はない」とも。喧嘩をしたら、勝とうが負けようが、どっちみち無事では済まない、ということ。(講談・幡随院長兵衛:「喧嘩に被る笠はない。身に降りかゝる火の粉なら拂はなければならぬ道理」、祐天吉松)
玄関つきの洒落(げんかんつきのしゃれ):【意味】または「羽織袴の洒落」ともいい、堂々と照れも恥ずかしげもなくぶちかます(駄)洒落のこと、と飯島友治氏は筑摩書房版「古典落語」の「一人酒盛」の解説で述べているが、実は「玄関つきの洒落」とは、諺や成句の前半を元のままにし、後半を洒落に置き換えた形式をいうらしい。(落語・一人酒盛:「無冠の太夫おつもり…ッて、いけないかい、玄関つきの洒落は……」)
現金掛け値なし(げんきんかけねなし):【意味】掛売り(要するにつけをきかせること、後払い)せず、現金取引をするから、売値を正しくし、掛け値をしない(後払い分の利息を価格に含まない=現金払い、正札通り)という販売方法。元禄時代に三井越後屋呉服店が始めた。ここから、「正真正銘嘘偽りのない」という意味の形容に使われる。(落語・高田の馬場、白銅:「『真正の電車代ぢやアねえか』『エゝ現金懸価なし………』」=五銭の遊び)
賢者の一失愚者の一徳(けんじゃのいっしつぐしゃのいっとく):【意味】「智者の一失、愚者の一得」。智者にも千慮の一失(時には過ちをおかす)ということがあり、愚者にも千慮の一得(たまには役に立つことをする)ということがある。(講談・天保六花撰:「賢者の一失愚者の一徳と申す古諺あり」)
けんつく(けんつく):【意味】つっけんどんに言う、語気強く叱りつける。「剣突」「拳突」。(講談・小金井小次郎、落語・厩火事:「『どこをあそんであるいてやがるんだ』と、いきなりけんつくを食わせるんですよ」、永代橋他)
けんのみを食わせる(けんのみをくわせる):【意味】「剣の峯を食わせる」の略。きつい口調で叱り飛ばす、遠慮なくぽんぽん言う、つっけんどんな口を利く、啖呵を切る、などの意味。「けんつくを食わせる」こと。(講談・誰が袖の音吉、落語・芋俵:「夫から俺がケンノミを喰わせるんだ、間抜ツ」、芝浜、骨違い)
剣呑剣呑(険難険難)(けんのんけんのん):【意味】「険難」は「危ない」「危険」。「いやぁ危ない危ない」と恐れること。(講談・重の井子別れ:「えゝ、もう本陣の座敷なんていふものアツルツル辷つて、劍呑で歩かれねえ(「重の井子別れ」)」、富蔵藤十郎、落語・紙入れ、七段目、素人占い、樟脳玉)
玄蕃(げんば):【意味】火事の時、消火用の水を運ぶ担い桶。(落語・鼻利長兵衛:「玄蕃へ水を一ぱい汲んで来て、水鉄砲で、土蔵(くら)の窓へチウチウやりやアがつた」)
犬馬の労を厭わず(けんばのろうをいとわず):【意味】主君や他人のために惜しみなく力を尽くすこと。(講談・高田の馬場:「又それがしも犬馬の労をいとわず御奉公つかまつります」、山中鹿之助、加賀騒動、無筆の出世)
見物の下知に従うへぼ将棋(けんぶつのげちにしたがうへぼしょうぎ):【意味】下手な素人将棋は、見物している人が差し出がましくいちいち指図するのに影響されて、余計勝負を危うくする。無責任な第三者の意見に左右されるような自信のない態度では、所詮勝ちはおぼつかない、ということ。(落語・碁どろ:「見物の下知にしたがうへぼ将棋……なんてえますが、たしかにそんなことがございます」)
権柄ずく(けんぺいずく):【意味】権力を背景にして、人を高圧的な動作や言動によって扱う様子。虎の威を借る狐、というところ。(講談・天一坊:「『しばらく控えておれ』権柄づくに湯呑み場に待たせておきましたが」、小金井小次郎)
源平藤橘四姓に枕を交わす(げんぺいとうきつしせいにまくらをかわす):【意味】「源平藤橘」は源氏、平氏、藤原氏、橘氏。いわゆる「四姓」。のちに「日本人のあらゆる家系のもと」を意味する。遊女が誰とでも寝る、ということをややこしく表現するとこうなる。(講談・加賀騒動、慶安太平記、安中草三郎:「たとへ源平藤橘の四姓に枕をかわす浮川竹の勤めをして居ても、花山だけは決して親の遺言を無にするやうな事はなからうと思ふが」、爆裂お玉、落語・反魂香)
けんもほろろの言葉(けんもほろろのことば):【意味】「けんけんする」(つっけんどんにあしらう)を、雉の鳴き声「けんけんほろろ」にかけた表現。無情・邪険でとりつく島がない様子。にべもないこと。(講談・柳生二蓋笠、越後伝吉、小金井小次郎、藤原銀次郎、落語・清正公酒屋:「何百遍お前さんが頼もうとも引く事は出来ないとケンもホロロの挨拶」、唐茄子屋)
編:松井高志・2004-
| 固定リンク
| コメント (0)
| トラックバック (0)