社説:女子柔道暴力 「戒告処分」でいいのか
毎日新聞 2013年01月31日 02時30分
女子柔道のロンドン五輪代表選手らが全日本女子の園田隆二監督らから暴力やパワーハラスメントにあたる行為を受けていた。暴力を伴うスポーツ指導が学校の運動部活動だけでなく、オリンピックのメダル争いをするトップスポーツの場においても行われていたことになる。歴史と伝統ある競技団体として、全日本柔道連盟(全柔連)はおざなりの処分で済ますのではなく、原因究明と再発防止に向け、柔道ファンを含めた多くの人が納得するような実効的な対策を望みたい。
「女子日本代表チームにおける暴力及びパワハラについて」と題する告発文が昨年12月、15人の連名で日本オリンピック委員会(JOC)に提出され、全柔連が園田監督に聞き取り調査をしたところ、認めた。練習での平手、竹刀での殴打や暴言、負傷している選手への試合出場の強要などを挙げ、全柔連に指導体制の刷新を求める内容だという。
実はロンドン五輪終了後の昨年9月下旬にも「園田監督が暴力行為をしている」との通報が全柔連に入っていた。聞き取り調査の結果、全柔連は「ほぼ事実」と断定し、園田監督に始末書を提出させ、厳重注意処分で済ませていた。
その後、16年リオデジャネイロ五輪に向けて、園田監督の続投が決まったことで、選手たちは抜本的な対策をとらない全柔連への不信を募らせた可能性が高い。そして、統括団体であるJOCに対し、スポーツ界では極めて異例といえる集団告発に踏み切ったのだろう。
監督と選手という絶対的な上下関係の中で選手は監督の指導方針に従うことが要求される。少しでも異を唱えれば、海外派遣や強化合宿などの選手選考で不利益を被るかもしれないと選手は思いがちだ。そのため理不尽と思えるような指導に対しても我慢せざるを得ない。学校の運動部もほぼ同じ構図だ。
選手たちの勇気ある告発に対して全柔連は倫理推進部会を開き、今月19日付で園田監督と元強化コーチに文書による戒告処分を言い渡した。解任せず続投させる理由として本人が反省していることなどを挙げている。告発した選手たちはどう受け止めたか。
現職の警察官でもある園田監督の選手への暴力行為は、全柔連が把握しているだけでも10年8月〜12年2月の計5件で、半ば常態化していたことをうかがわせる。選手との信頼関係を再構築するため全柔連としてすべきことは、まず指導体制の刷新を検討することではないか。暴力排除の覚悟を疑われるような処分で済ませていては、いくらメダルを獲得しても国民に夢と勇気と感動を与えることなどできないだろう。