いじめの連鎖を断とうと奮闘する現場を取材しました。
文部科学省の緊急調査で判明した、2012年度前半のいじめの認知件数は14万4,054件。
滋賀・大津市での中学生の自殺を発端に、あらためて社会問題化する中、自民党はいじめ防止対策基本法案の骨子案をまとめ、29日から議論を始めました。
一向になくならない、いじめ。
その連鎖を断とうとする奮闘する現場を取材しました。
滋賀・大津市の会場にはじけるメロディー。
ここで観客を盛り上げているのは、大津市在住のバンド「ジェリービーンズ」。
一見、普通のライブに見えるが、実は彼らにはもう1つの顔がある。
ジェリービーンズのメンバーは「(始めるきっかけは?)僕ら不登校で、もともとバンド組んだきっかけ自体が不登校だったので」と話した。
メンバーは、それぞれがいじめなどの原因で、小中学校時代に不登校を経験している。
その経験を生かし、2011年、バンドのメンバーでNPO法人「マイペースプロジェクト」を結成。
バンド活動を通じて、いじめや不登校の問題を投げかける。
ライブに来た生徒は「何かしら過去を持って生きていたので、そこはすごく共感できたりとかして」と話した。
これまでに県内外100近くの小中学校などで演奏している。
曲の合間に語られるのは、彼ら1人ひとりが経験した、不登校やいじめによる身近な人たちの死。
ボーカル・山崎史朗さんは「その日は、母親に『きょうもう死んでくるわ』って言ってそのまま、飛び降りて亡くなりました」と話した。
ボーカルの山崎さんは、小学生の時に、同じクラスの女の子がいじめられているのを見て、不登校になった。
高校生になった山崎さんが耳にしたのは、その子の自殺だった。
「マイペースプロジェクト」・山崎さんは「やっぱり僕らが、過去を本当にもう包み隠さずというか、語るんですね。何も恥ずかしい、昔は恥ずかしいし、呪ってた過去なんですね。今は本当にこう胸を張ってステージに立ててるんですけれども、僕らは僕らなりに言える大丈夫を、1人でも多くの人に届けたいなと思いまして」と話した。
自民党は29日、いじめへの対応を定めた、いじめ防止対策基本法案の骨子案をまとめ、議論をスタートさせた。
骨子案には、いじめによって生命や身体の安全が脅かされている場合、学校は、犯罪行為として警察へ直ちに通報することが明記された。
また、いじめた子どもや保護者への指導を継続的に行うことも義務づけた。
いじめ防止に向け、政治が動き出す中、大切な家族を失った遺族は、草の根での活動を続けている。
全国いじめ被害者の会の代表を務める、大沢秀明さんは「どんな立派な条例をつくろうと、法律をつくろうと、(学校側が)根本のいじめがなかったということにすれば、どんなものでも事後対策になってしまうわけです」と話した。
大沢さんは1996年に、息子の秀猛君を中学3年という若さで亡くした。
全国いじめ被害者の会・大沢代表は「本当にいじめられてたんだと知ったのは、遺書を残してくれてたから、ああ、いじめられていたんだということがわかったんです」と話した。
8年間にわたり、いじめと自殺の因果関係を訴え、裁判を続けてきた大沢さん。
しかし、判決では「学校側が自殺を予測することは不可能だった」との判断が示されたという。
大沢さんは自らの体験を生かし、7年前から同じように子どものいじめに悩む家族への相談を開始した。
「トラブルという言葉がまた使われ出しました。いじめやなしに、トラブルという言葉」と話す相談者に、大沢さんは「それがあの人たちの常とう手段。だから、けんか・トラブルとして、なかったことにしましょうねっていうね、そこになるわけです」と話した。
この日、大沢さんが相談を受けていたのは、兵庫県に住む家族。
小学校1年の子どもが、複数の児童から暴力や言葉によるいじめを受け、一時、不登校の状態が続いていたという。
相談をした母親は「歩道橋の真上から帽子を取って落とした。あと『死ね』と言った。全く話を取り合ってくれないので、そういういじめのことについても、加害者の保護者に伝えてくれない状態で」と話した。
相談件数は、大津市の事件以降急増し、月1,000件近い相談が寄せられるが、学校や教育委員会は、いじめをなかなか認めようとしないという。
全国いじめ被害者の会・大沢代表は「認めなければ、加害者を教育するということができなくなるわけです。それでそれをやらないということは、いじめる人がどんどんどんどん増えていく。いじめる人が増えていけば、今度はいじめられる人も増えていくっていうのが、今の現状です」と話した。
いじめによる悲劇を二度と繰り返させない。
強い思いを乗せた草の根活動は、いじめの芽を丹念に摘み取っていく。