特集ワイド:韓流ブーム続く中、朝鮮語学者の嘆き−−元大阪外大教授・塚本勲さん

毎日新聞 2013年01月28日 東京夕刊

大阪・鶴橋の通称キムチストリートを歩く塚本先生。「戦後の闇市やったころも知ってます」=大阪市東成区で、竹内紀臣撮影
大阪・鶴橋の通称キムチストリートを歩く塚本先生。「戦後の闇市やったころも知ってます」=大阪市東成区で、竹内紀臣撮影
「ハングル塾つるはし」は36年になる。「貧乏学者ですから、運営はきついですわ」と塚本先生=大阪市天王寺区で、竹内紀臣撮影
「ハングル塾つるはし」は36年になる。「貧乏学者ですから、運営はきついですわ」と塚本先生=大阪市天王寺区で、竹内紀臣撮影

 ◇辞書もない時代に在日社会に分け入り、死にものぐるいで研究

 ◇北も南もわけわからん 竹島でぎゃーぎゃー言うし、いつまでも謝れ謝れやし

 竹島問題などで日韓のギスギスが続いている。韓流ブームで隣国の言葉の学習者は増え、理解も進んだかに見えるが、大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)朝鮮語学科教授だった塚本勲さん(78)は浮かない顔である。なぜか? わが恩師でもある先生に朝鮮語と歩んだ人生を聞いた。【鈴木琢磨】

 モウモウと焼き肉の煙が立ちこめる大阪は鶴橋で久しぶりに会った先生、髪の毛は真っ白、ちょっとしゃべりづらそうだった。右手が小刻みに震えている。7年前に脳梗塞(こうそく)で倒れたらしい。「このあたりで飲んでて、突然、バタンと。幸い軽くて。韓流ドラマ? テレビでいっぺん見ましたかなあ。くだらんからもう見てませんわ。女房はよく見とるらしいんですがね、アハハ。まあ、どんなきっかけであれ、朝鮮語を学ぶ裾野が広がったのはよろしいが、もっとまともな取り組みがあってええんと違いますか。そもそも大学は学問するところでしょ。それなのに韓国人の会話の先生ばっかり集めとる」

 大阪市生野区生まれ。京大で言語学を専攻し、日本語の起源に興味を持った。一衣帯水の朝鮮半島の言葉を知る必要があったが、辞書も学習書もない。朝鮮戦争が終わって間もない1950年代半ばのことである。「それはそれは孤独でした。在日朝鮮人社会に分け入るしかなく、京都の朝鮮中高級学校で日本語とロシア語の非常勤講師をしながら、1世の教員から習いました。ツテを頼り、韓国から密航してきた青年の生きた言葉を採集してカードにし、単語を覚えたりもした」。そして63年、戦後初めて国立大学の朝鮮語学科が大阪外大に開設され、専任講師になった。あれからちょうど50年−−。

 「戦前は東京外大にもありましたが、韓国併合後、外国語ではないとの理由でなくなり、私立の天理大のみで続けられていただけで。朝鮮半島に背を向けてきた日本の朝鮮研究は100年遅れた、と思っています。その遅れを取り戻すため、若かった私は死にものぐるいでした。まずは辞書だ、と。それまでは朝鮮総督府の辞典しかなかったですから。先祖伝来の土地を五つ売り、消費者金融にも通い、資金を捻出して。編さん過程では南と北の政治対立も持ちこまれる。もうくたくた。学生諸君にも迷惑かけたしな」

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