ポーランドのアウシュビッツを訪ねたことがある。第2次大戦中にユダヤ人ら100万人を殺害したナチス・ドイツの強制収容所跡地。今は国立博物館となり遺品を展示している。収容者から奪った無数の旅行かばんに胸を突かれた
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児童書「ハンナのかばん」から。13年前、日本のNPO法人ホロコースト教育資料センターに「ハンナ・ブレイディ」の名前入りのかばん(複製)が届いた。代表の石岡史子さんが教材用に遺品の貸し出しを博物館に依頼していた
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ハンナのことをもっと知りたい。石岡さんは現地に飛んだ。調べると、ハンナは旧チェコスロバキア生まれ、1944年にガス室に送られ13歳で死亡した。収容所で離れ離れになった兄のジョージが奇跡的に生き延び、カナダで生活していることが分かった
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石岡さんや子どもたちは手紙を書いた。ジョージさんの返信にはハンナの写真が同封されていた。ジョージさんはその後来日。ハンナを守れなかった痛恨の思いを打ち明け、涙した。物語はカナダで本になり、日本でも翻訳された
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ヒトラーが首相に就任、ナチスが政権を奪ってきょうで80年。ナチスはユダヤ人への嫌悪感を巧みに吸い上げた。なぜホロコーストが起きたのか。研究は続き、近年は市民の関わりが重要テーマだ。特定の民族への嫌悪感は権力に利用され暴走する恐れがある。いつ、どこでを問わずに。