月いち!雑誌批評:「国益擁護」醜くないか=山田健太
毎日新聞 2012年10月20日 東京朝刊
威勢のいい言葉が飛び交っている。「どうすれば勝てるのか」(「文芸春秋」11月号)、「中国をやっつけろ」(「週刊文春」10月4日号)を筆頭に、「週刊現代」の10月中の4号は、「中国が攻めてくる」(6日号)に始まり「中国よ、日本が勝つ」(27日号)まで、巻頭特集はすべて中国だ。ほかにも「野蛮な中国」(「新潮45」11月号)や「中国よ、あきらめろ!」(「週刊朝日」10月12日号)と読者を煽(あお)る。領土を守るために立ち上がろう、との国威発揚キャンペーンを思わせる勢いだ。記事中では、国防力の増強が主張され、防衛費の増額が当然との主張にも結びつく。戦争時の危機管理が想定されていない憲法に問題があるなど、これを機に放談の様相すら示している。
言論の自由の重要な要素が多様性であり、その意味で様々(さまざま)な論評が闘わされることは好ましい。しかしそのことと、メディアが一方的に中国叩(たた)きをすることが正しいかどうかは、考えねばならない難しい問題だ。「有事」に際してのメディアの姿勢は、その独立性をはかる最も良い指標であるからだ。いつもは政府に批判的であったメディアが、ここぞとばかり「国益」擁護報道をするさまは、醜くないか。主張が正反対の「世界」11月号も含め、執筆者が外務省関係者に偏りがちなのは、雑誌総体の力の限界を見るようで、あまりに寂しい状況である。
「週刊東洋経済」10月6日号は「国境から世界を知る」を特集、中国や韓国の基本的立場の整理ほか、日本の領有権の実情と歴史を分かりやすく伝えている。「週刊エコノミスト」10月9日号も特集「歴史から学ぶ中国」で、中国史を理解することで現在の中国の戦略を分析する。前者が横軸で後者が縦軸で尖閣問題を扱ったといえるが、こうした視点は日々の出来事に追われがちな新聞やテレビ等の報道を補う貴重な視点であろう。
メディアはナショナリズムを鼓舞しがちだ。オリンピック報道を見ても歴然だろう。とりわけ団体競技ともなれば日本選手個人の応援を超えて、国を挙げての「日本人の誇りをかけた闘い」と称して報ずる。領土問題を同一視はできないが、各誌は同じノリで「ニッポン、頑張れ」の空気を醸成しているように思え、居心地が悪い。=専修大学教授・言論法