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はじめまして。
TRCブックポータル書評担当の辻と申します。
TRCブックポータルが開店してもうすぐ3カ月。ネット上で書籍という商品を取り扱う以上、お客様からいただく本のご感想は何より大事な宝物です。書評コーナーを開設することができて、心より嬉しく思っております。
私は以前、同じTRCが運営しておりました別のサイトでも書評の管理の仕事をしておりました。もしかしたら、私のことを既にご存じの方もいらっしゃるかもしれません。
その仕事を長くやっていて実感したことがありました。

・読書は単なる消費行動ではなく創造行為であり、本は読む人の人生を背負って初めて完結する。
・読書離れが叫ばれる中、本はネット上で熱い読者書評を得ることにより、感想を交換しあうコミュニケーションの中で力強く復活を遂げた。

以上の2点です。
本を読むこと、書評を読むことは、本を巡る人間の複雑な営みの豊かさに触れることと同じだと、痛感させられました。人と人が交わる生き生きとした営みとしての読書の姿を、何とか目に見える形にしたいのです。始まったばかりでまだまだ未熟な本コーナーですが、皆様からいただく熱い書評を一本一本熱く読み、熱く紹介していきたいと思います。どうぞよろしくお願い致します。

<2013.1.25 TRCブックポータル書評担当 辻和人>

★当店の投稿者の方が本を出版されました★
佐藤 けんいち著『人生を変えるアタマの引き出しの増やし方』
浦辺 登著『東京の片隅からみた近代日本』
呉座 勇一著『一揆の原理』



“佳霞”さん
『欲しがりません勝つまでは』の書評

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『境界知のダイナミズム』の書評

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毎週金曜日更新。 最近1週間の投稿分から「これは!」という書評をご紹介します。 書評も本も読み応えあり。オススメです!(今回は初回更新につき書評受付時からのオススメ書評を一挙掲載致します)

野口さん、宇宙ってどんなにおいですか? ★★★★★
紅葉雪/とても読みやすい本でした。中学生から高校生にもぜひ手に取ってもらいたいですね。
大人向け一般書として出版されているが、ぜひ、中学生や高校生といった学生たちにも手に取ってもらいたい一冊だ。野口聡一さん。言わずと知れた、日本の宇宙飛行士である。野口さんがISS(国際宇宙ステーション)にいた時、様々な地球の写真やISS情報をツイッターにのせ話題になったが、本書はそこで触れられていたことにも時折触れながら、インタビュー形式で進んでいく。インタビュアーは、大江麻理子テレビ朝日アナ。野口

謎のチェス指し人形「ターク」 ★★★★
藤豆/科学技術発展の道に現れた一つの「華麗な顔」。
 18世紀の半ば「チェスを指す自動人形」がウィーンで作成された。ターク(トルコ人)と呼ばれたこの人形は一世紀近くもの間「ほんとうに機械がチェスをしているのか」と人々を考えさせ続けた。「彼」は女帝マリア・テレジア、ロシア大公、ナポレオン一世などにも会った「有名人」。本書ではタークの生まれたいきさつからその消滅までが時系列で示される。ヨーロッパ各地をまわり、イギリスから海を渡ってアメリカまで続く旅は波

コケの自然誌 ★★★★
藤豆/『植物誌というよりしゃれた短編小説 』。どちらを期待するかで反応はわかれるかも。
 本書を読んでいくのは、コケの上の「哲学の道」を歩いていくような気分だった。 タイトルからは植物の生態の本のようにも思えるが、コケの情報と著者自身の個人的な生活感や自然観、哲学が混じりあっている。あとがきの説明によると「自然界についての事実や自然、科学的情報に依拠する一方、自然科学系の客観的な自然観察とは異なり、自然環境をめぐる個人的な思索や哲学的思考を含む」著作をネイチャーライティングというのだ

週末ナチュラリストのすすめ 岩波科学ライブラリー ★★★★
藤豆/豊富な昆虫や植物の写真が楽しい、「身近な生き物観察」入門。
 「見る」「拾う」「撮る」「飼う」「知る」などの章ににわけて、楽しみ方を紹介します。帰宅した玄関先にも訪れてくる昆虫はいるし、庭に生えている草にはチョウやガの幼虫もいるかもしれない。ガーデニングをきどって「食草」を植えれば、みてみたい昆虫を居ながらにして待つ楽しみもできます、と。 著者が自分で撮った(であろう)写真をたくさん使い、さらには「ペットボトルの再利用」などの気軽な観察器具の作り方なども入

ドングリの木はなぜイモムシ、ケムシだらけなのか? びわ湖の森の生き物 ★★★
藤豆/タイトルに魅かれて開くと、前半は少し「我慢して読む」ことになるかもしれない。
 「そうだったのか。やぱりそうだったのか」。帯にある日高敏隆さん(私は昆虫学者の日高さんのファンである)の言葉につられて読んだのだが、なかなかタイトルの「なぜ」までが遠かった。「びわ湖の森の生き物」というシリーズであることも理由なのだろうが、第1章は養蚕の歴史、第2章は家蚕と天蚕の教科書的な話。長年滋賀県で養蚕関係の仕事をしてきた著者がこの疑問にたどり着くまでの部分がかなり多いのである。 天蚕(ヤ

未来への周遊券 ★★★★
藤豆/未来への優しい想いが一巡り。
 未来は厳しいかもしれない。でもそれに向かって行こうという優しくて強い思いで作られている一冊である。 産経新聞に2008年から2009年にかけて連載されたという往復書簡。瀬名さんも最相さんも科学を扱った文章を書く方だが、それぞれの考える科学の視線が緩やかに触れ合いながら人間や未来への想いを優しくつないでいく。単行本の見開きという限られた字数で完結させることが文章をひきしめ、それを表す言葉も凝縮して

錯覚学-知覚の謎を解く 集英社新書 ★★★★★
Tucker/百聞は一見に如かず
「百聞は一見に如かず」という言葉がある。「人から話を聞くよりは、直接見る方がよい」という意味だが、人は、それほど正確に世界を見ているわけではないらしい。錯覚。同じ長さの線であるのに違って見えたり、直線なのに曲がって見えたり、同じ色なのに色の濃淡があるように見えたりすることがある。色のない所に色を見てしまったりすることさえある。そういう例を見た事がある人も多いだろう。しかも、実際は同じだ、と分かって

「夢の超特急」、走る! 文春文庫 ★★★★★
浦辺登/国鉄の叡智を傾けた東海道新幹線。
 東海道新幹線誕生秘話ともいうべき内容。 今では高速鉄道は当たり前のことだが、東海道新幹線が計画されたとき、それはまさに「夢」だった。日本の中心である東京。その東京に蒸気機関車が客車を牽引していた時代に電車を走らせる。それも、世界でも実現不可能といわれる超高速鉄道を敷設することは、どれほど困難をともなったことか。 もともと、日本の鉄道は世界標準よりもレール幅が狭いもので敷設された。大量に、高速に人

空海と日本思想 岩波新書 新赤版 ★★★
オリオン/ベルクソンと空海をつなぐ即身成仏論
 不思議な味わいをもった書物だ。大著をコンパクトに要約したチャート(海図)のようであり、いまだ書かれていない論考の骨格をなす命題を断定的に書きつけた覚書のようでもある。 西洋思想の「基本系」(思想の基本的なありようにして変奏されつづける基本モチーフ)をプラトン哲学の「美/イデア/政治」にみいだし、これとの対比のもとで日本思想の「基本系」となる空海の「風雅/成仏/政治」をあぶりだす。この空海思想が西

大阪 中公新書 ★★★★
オリオン/大阪都構想は政治的寓話を超えるか
 明治維新以来の大都市をめぐる制度と政治闘争の歴史を「市長対議会」「東京対その他の大都市」「大都市対全国(農村)」の三つの対立軸をもとに詳細にたどり、2010年に提唱された大阪都構想がはらむ古くて新しい課題(強いリーダーシップによる成長か、財政制約のなかでの分権・民営化による効率化の追究か)とそれが提示する選択肢(大都市が国家を超えるような自律性を獲得すべきか否か)を抽出して、橋下徹という「希有な

国の死に方 新潮新書 ★★★
オリオン/ゴジラ、あるいは国家の死を告げるリヴァイアサン
 映画「ゴジラ」が封切られた昭和29年11月、日本の政治は死に体だった。造船疑獄、指揮権発動、国会乱闘、警官隊の導入とつづく、政党再編前夜の政治的空白を、水爆大怪獣・ゴジラが襲った。 政治は空転する。壊れた原発のように大量の放射性物質をまき散らすゴジラ退治を、あろうことか民間の東京電力に委託する。映画の中の日本政府は、防衛力は最小にとどめ、いざというときはアメリカにお任せする吉田ドクトリンを地で行

コミュニティデザインの時代 中公新書 ★★★★★
こぶじい/体育会系のまちづくり
 一口に「まちづくり」と云ってもいろんなタイプがあるに違いない。その一例は次のとおりである。まちづくりの目的や理念を予め心に決めたうえで、そこから何をなすべきかを導き出し、そしてそれを自分たちで実行したりその実行を行政に求めたりする。あるいは、実行内容を予め心に決めたうえで、そこからまちづくりの目的や理念を導き出し、ひるがえって、予め心に決めた実行内容を、その目的などから導き出したかのように「なす

哲学の起源 ★★★★★
abraxas/デモクラシー神話の解体
社会構成体の歴史を見るとき、マルクスの所謂「生産様式」から見ていく見方では理解することが難しかった近代以前の社会や宗教、ネーションといった上部構造とのつながりが、同じく経済的土台である「交換様式」という観点から見ればよく分かるのではないか、というのが先に上梓された『世界史の構造』で、柄谷が提起した問題であった。柄谷が主張する交換様式には四つのタイプがあり、「A贈与の互酬、B支配と保護、C商品交換、

暇と退屈の倫理学 ★★★★
ソネアキラ/「情報の単なる奴隷」から解放されるために。
『暇と退屈の倫理学』國分功一郎の感想メモ。例によって、だらだらと。「資本主義の全面展開によって、少なくとも先進国の人々は裕福になった。そして暇を得た。だが、暇を得た人々は、その暇をどう使ってよいのか分からない。何が楽しいのか分からない。自分の好きなことが何なのか分からない」たとえば主婦は洗濯をかつては手洗いしていた。それが電気洗濯機によって新たな時間が生まれた。で、どーした。寝転がっておせんべいか

明るい部屋 ★★★★
ソネアキラ/写真は人の記憶が色褪せるように、褪色し、消滅する。
バルトは久しぶりに読む。何が好きだろ。単純に好きというところからだと『遇景』になる。モロッコのサウダージ感が、散文詩のような文体に描かれていた。「私は写真が三つの実践(三つの感動、三つの志向)の対象となりうることに注目した。すなわち撮ること、撮られること、眺めることである」と、ツカミはOK。「「写真」のノエマ《それはかつてあった》が、あるいは「手に負えないもの」である」フッサールの提唱した「ノエマ

わかりやすいアフガニスタン戦争 新しい眼で見た現代の戦争 ★★★★
消印所沢/原稿埋めに苦労した模様
 生活・文化についての調査,やや手抜かりあり. それとは対照的に,アフガーニスタン交通事情,詳細. 歴史は専門書をなぞっただけのような印象. インド総督副官バーンズ,英軍代表マクノーテンの暗殺などのテロ活動. 西側顔負けの手回しの良さを見せつけた,通信衛星打ち上げとSAM配備. 1割に達したアフガーン政府軍(DRA)兵士脱走. 冬は停滞,春に活発化,夏は酷暑のため一段落,秋に再活発化という,カレン

驕れる白人と闘うための日本近代史 文春文庫 ★★★★★
浦辺登/今後の日本と日本人が進むべき指針が見えてくる。
「歴史は勝者によって作られる」という。 そういう観点から日本の近代史を見ていくと、矛盾点は多々ある。 しかしながら、歴史の教科書は古代から始まり、一年間の授業時間が残り少なくなると、超特急で終了するか、打ち切りとなる。意図的に歴史の教科書がそのように作られているのか、カリキュラムが作為的に構成されているのかは、わからない。それこそ、池上彰さんではないが、歴史は現代、近代から学ばなければ問題点は解明

明治大正見聞史 中公文庫 ★★★★★
浦辺登/明治大正という近代に学ぶ。
 明治大正という時代に朝日新聞の記者として時代を描いた内容。 日本が新しい時代として迎えた明治、大正だが、その時代の息吹というものを感じる。自身が進学した明治学院でのキリスト教への傾斜から、時代の変動が事細かにつづられている。 明治天皇の大喪、乃木将軍夫妻の自決、それを報道する新聞社の編集室の騒動ぶりが窺えて、興味深い。 三井物産の社員の夏の賞与が四十か月分もあったなど、風俗史としても面白い。 ま

値段の明治大正昭和風俗史 正 ★★★★★
浦辺登/庶民の暮らし向きを知る。
 調べ物をしていて、その当時の値段はいくらだったのか、と疑問に思うことがある。現在の物価に換算できないものがあったり、すでに庶民生活から消滅してしまったものもある。 たとえば、総理大臣の給料。一銭五厘など、当時の貨幣が存在しないので、比較対象は大変困難だが、その移り変わりを見るだけでも面白い。 江戸風鈴など、ほとんど見かけないものは、その当時の暮らし向きを想像するしかない。 ただ、この本で面白いの

十八史略の人物学 ★★★★★
浦辺登/人間の本質とは。
 人間の本質は変わらない。 そう思い至ったとき、「人間とは何か」を的確に知るガイドブックとして求めた。 今では、漢文じたいを教え学ぶ機会はめったにない。しかし、漢籍を読むことは素読として武士の教養だった。訳のわからぬものを読んで、それが何になる、今の合理性を求める時代はそう声をあげるだろう。 今でも、根強いファンを持つ夢野久作だが、二歳にして祖父の杉山三郎平から素読を仕込まれた。福岡藩の藩校教授で

現代語訳吾妻鏡 12 宝治合戦 ★★★★
佐々木 眞/鎌倉を飛翔した謎の黄色い蝶とは?
本巻では鎌倉御家人の最強であったはずの三浦氏一族が武装蜂起したにもかかわらず哀れ北条一門の軍門に降る。寛元5年・宝治元年1247年の宝治合戦である。「吾妻鏡」では御霊神社付近に拠点があった安達景盛一族が挑発したために三浦氏が決起したかのように記述されているが、これは北条側がみずからの陰謀を糊塗するためのでっちあげ記事だろう。悪辣な北条ばらは、当時競合していた安達・三浦両御家人を計画的に退治するため

実朝私記抄 ★★★★
佐々木 眞/亡き芥川賞作家による右大臣実朝の悲劇的な物語
私が住んでいる鎌倉の小邑には二人の有名人が住んでいた。一人は日本画家の小泉淳作氏、もう一人は芥川賞作家の岡松和夫氏であったが残念ながらお二人とも本年一月に相次いで逝去された。本書はその岡松氏が綴られた鎌倉幕府の第三代将軍右大臣実朝の悲劇的な物語である。鎌倉は中世の武家の都であるが、そこは殺戮と阿鼻叫喚の死都でもある。源氏ゆかりの将軍のみならず頼朝の御家人の代表的存在である畠山氏も和田氏も三浦氏も、

詭弁論理学 中公新書 ★★★★★
Tucker/舌先三寸
本書を買ったのは、今を遡ること10年くらい前。たしか、その頃、中公新書でも10本の指に入るロングセラー、と聞いていたのを(かすかに)覚えている。奥付を見てみると、1976年に初版が発売され、今回読んだものは1998年の第41版。先日、新聞の片隅に中公新書の発行部数ランキングが載っていたが、そのベストテンの中に本書もランクインしていた。懐かしさとともに、まだ本書を手放していなかったので、久しぶりに読

世界から飢餓を終わらせるための30の方法 ★★★★★
想井兼人/「明日、なにを食べますか」
「昨日、なにを食べましたか」 唐突にそう聞かれても、すぐに答えられないかもしれない。このことは、ある意味で「食」が日常に溶け込んでいることを示している。食べられることが当たり前ということだ。幸福なことと言える。しかし、私たちが知らないところで「食」が非日常である人が大勢いることも認識しなければならない。幸福の大きさと非情さを理解するためにも。 国連食糧農業機関によると、世界で6人に1人が生きるため

なぜ院長は「逃亡犯」にされたのか ★★★★★
消息子/そういう状況下で逃げ出す度胸はないのが普通
 福島第1原発の事故直後、避難区域に病院があると聞いて、これはえらいことだぞと思った。百人単位で入院患者はいるだろうから、移動することも難儀だろうが、それだけの人数を引き受けられるガラガラの病院なんてどこにもないだろう。 そうしたら原発から4.5キロの双葉病院で患者を置いたままスタッフがいなくなったというニュースが流される。私はすぐにその後の訂正ニュースもみた。一部のマスコミは何かというと病院を悪

「フクシマ」論 ★★★★★
消息子/「中央」によって蹂躙された「ムラ」の代名詞「フクシマ」
 ブラックな話です。眉を顰めて聞いてください。 被災地では、雇用がなくて困っているという。そこで中央の資本と国家の補助で企業のプラントを建設することにする。津波で図らずも更地ができているから、そこに大きなプラントを作る。 まずは建築業で雇用が創出される。そしてプラントが稼働したら、住民はそこで働くことになる。反対運動も起こるだろう。そこは金をばらまいて懐柔する。何しろ、プラントができれば出稼ぎしな

ある男 ★★★★
よっちゃん/明治維新とはなんであったか?当事者でないわたしらはなんらかの整理をしたうえで、あとづけの答えを出してみるのだが、そこに生きた人たちは整理する余裕などはなかったのだ。
分厚い農民層からなる社会を支配する核としての機構は「藩」であった。一般の人々からみれば一番えらいのはお殿様、一国一城の主であって、徳川家の将軍は眼前になかった。日本国などという概念はなかった。すなわち藩主が生活の全てを統治していたのだ。ところがある日、薩長の食いつめものたちが新政府をつくり、おらがの殿さまを排除し地元の実情など全く知らない中央政府が統治にすることになった。困った困ったと………何が困

無罪 ★★★★
よっちゃん/法曹のプロたちがしのぎを削る完璧なリーガルサスペンス
1988年に刊行された『推定無罪』の続編である。と言っても、わたしは『推定無罪』を読んでいない。ハリソンフォード主演の映画は見ているが、実はこの記憶も定かでない。ただ、「推定無罪」という言葉に当時は奇妙な語感を覚えたが、このときしっかりと意味を覚えたものだ。被害者の体内にあった精液の血液型がハリソンフォード演ずる主人公のサビッチ検事のそれと同じだったという記憶があって、本編『無罪』では20年間保存

義烈千秋天狗党西へ
よっちゃん/水戸藩はなぜ回転維新の先頭に立てなかったのか?
タイトルの「義烈千秋」には義公光圀と烈公斉昭の志は千秋に続くという意味が込められていると著者は述べている。 「千秋に続く」とは「永遠なれ」であろう。「君が代は 千代に八千代に………」と同意義かな。幕末、明治維新。西南の雄藩では下級武士層から幾多の英雄を輩出したのだが、わが故郷の水戸藩からは一人の英傑も生まれず、血みどろの内ゲバばかりが歴史に刻まれている。あれだけの熱き魂のたぎりがあったのだ。タイミ

64 ★★★★
よっちゃん/組織の壁に立ち向かう孤独の魂、あの横山秀夫の完全復活だ
『半落ち』『クライマーズ・ハイ』  のエッセンスをさらに濃厚に味付けしたフランス料理のフルコースは腹にずしんとこたえます。昭和64年にD県警で起きた少女誘拐殺人事件は「64ロクヨン」と呼ばれている。身代金2千万円が奪われ、少女が死体で発見された事件は未解決のまま、14年が過ぎた。三上警視は刑事部・捜査2課の次席であったが、思いもよらぬ異動で、警務部広報官に追いやられた。鬱々とした毎日を送っている。

魔法無用のマジカルミッション 創元推理文庫 ★★★★★
うみひこ/待ちに待ったニューヨークの魔法の物語。いよいよセカンドシリーズの始まりだ
 魔力がない、まるでない。それが、このシリーズの主人公、免疫者=イミューンのケイティ。普通の人間はほんの少し魔力を持つが故に、魔法世界の生き物や妖精や魔術師たちの目くらましにより、その存在に気がつかないのだけれど、全く魔力がない人間は、逆に目くらましの魔法が効かないので、ノームやら妖精がやたらと見えてしまうという。そんな物語の舞台は何と現代のニューヨーク。 テキサスの田舎から出て来て働くケイティは

山椒大夫・高瀬舟・阿部一族 改版 角川文庫 ★★★★★
導在あわい/少女は静かに、だがきっぱりと、大人になることを拒絶した
文豪・森鴎外の代表作『山椒大夫』が執筆されたのは大正4年(1915)、今から一世紀近く前です。中世の語り物である説教節『さんせう大夫』がもとになってはいますが、著者が肉づけし作り上げた短編小説です。消息を絶った父親の行方を尋ねて、14歳の安寿と12歳の厨子王は母親と旅に出ます。道中、人買いに捕われた姉弟は、母親と生き別れとなり、山椒大夫のもとに売られて、働くことになります。疲れを知られまいと快活に

眠狂四郎無頼控 3 改版 新潮文庫 ★★★★★
saihikarunogo/美しくも恐ろしい白鳥主膳の登場、東慶寺に入る女たち
『眠狂四郎無頼控(三)』最初の『二人狂四郎』は、龍勝寺の離れで眠狂四郎の帰りを待っている美保代が、夢の中で、歌舞伎の「土蜘蛛」を見るところから始まる。舞台では、眠狂四郎が源頼光になっていて、美保代が、その侍女の胡蝶になっているのだ。ところで、「土蜘蛛」は、明治時代になってから作られた歌舞伎だ。だから、天保年間初期のこの頃、美保代が、たとえ夢の中でも見るはずがない。でも、作者はそんなことわかってたの

眠狂四郎無頼控 4 改版 新潮文庫 ★★★★★
saihikarunogo/お杉婆登場、いや、辰野おばば登場!!
いやもう、吉川英治の『宮本武蔵』最大のヒロイン、お杉ばばにそっくりの、辰野おばばの大活躍ぶりに、抱腹絶倒! その思い込みの強さ、息子への思い入れの強さ、武蔵ならぬ眠狂四郎への敵愾心、復讐心の強さ、お通ならぬお園さんへのこれまた敵愾心、復讐心の強さ、それに武芸が達者で言うことなし!!ちなみに、お園さんは、結核にかかっているらしいのも、お通に似ているし、また、内職に写本をしている点は、同じく結核にかか

眠狂四郎無頼控 5 改版 新潮文庫 ★★★★★
saihikarunogo/『眠狂四郎無頼控』発表当時の日本人の考え方が気になる……
『眠狂四郎無頼控』の名の下に収められた百篇の短編集中、後半最大の敵、土方縫殿助との対決が、いよいよ、迫る。なにしろ、土方縫殿助は、いやらしいやつなのだ。清らかで美しい武家娘をわざと着飾らせて、犬に強姦されるところを、将軍徳川家斉に見物させようとしたり、やはり清らかで美しい切支丹の尼僧を、公儀に定められた法によってではなく、秘密裏に、性的嗜虐趣味を満足させるために、わざと残虐な方法で火あぶりにすると

余寒の雪 文春文庫 ★★★★★
saihikarunogo/余寒の雪が眼に滲みる
短編集だが、表題作『余寒の雪』が一番おもしろかった。みちのく仙台の二十歳の娘知佐は剣術が得意で、別式女になることを夢見て修行に励んでいる。明るくさっぱりしていて、勝気で負けず嫌いの性格や、両親や親戚たちが、彼女の将来を心配して結婚させたいと願っているという家庭状況は、まさにあの池波正太郎の『剣客商売』の三冬そっくり。そして、心配した親族一同にだまされて、江戸の八丁堀の同心の家に、後妻として嫁ぐため

終わりの感覚 CREST BOOKS ★★★★★
abraxas/平穏な人生の意味を問う「歴史とは何か」という問い
高校時代の歴史の時間、老教授の「歴史とは何だろう」という問いに、主人公トニー・ウェブスターは「歴史とは勝者の嘘の塊です」と答えている。斜に構えて見せたつもりだろうが、紋切り型の使いまわしにすぎず、主人公の凡庸な人となりを現している。老教授は「敗者の自己欺瞞の塊であることも忘れんようにな」と生徒を諭す。同じ問いに主人公の親友エイドリアンは「歴史とは、不完全な記憶が文書の不備と出会うところに生まれる確

2666 ★★★★★
abraxas/厖大なテクスト群を呑み込んだ超重量級の小説
A5版二段組855ページというボリュームを持つ超巨編。かなり無理して要約すれば、ベンノ・フォン・アルティンボルディという小説家をめぐる物語といえよう。作家は亡くなる前に全五章に及ぶ長編の一章を一巻とした全五巻の形で刊行するよう家族に言い残したという。たしかに、ロレンス・ダレルの『アレクサンドリア四重奏』を想像してもらえればいいと思うが、あのスタイルで刊行されても特に問題はないように思う。一章がそれ

新編バベルの図書館 1 アメリカ編 ★★★★★
abraxas/古今東西から集められた珍味佳肴の饗宴
かつては作家別の分冊という形式で同出版社から刊行された「バベルの図書館」シリーズを、数人の作家を出身国別にまとめたものである。新編を名乗ると同時に、以前はペイパーバックの体裁であったものが、上質の紙に余白を充分とった角背ハードカバー、函入りの堅牢な造本となり、書架に蔵するに足る体裁となったのは何よりである。一冊にまとめるにあたり紙数の制限もあって、どの作家も短篇が多くなるのは当然のことだが、そこに

火山のふもとで ★★★★★
abraxas/いかな日にみねに灰の煙の立ち初めたか
これがデビュー作というから畏れ入る。編集者という経歴のなせるわざか、よく彫琢された上質の文章で綴られたきわめて完成度の高い長編小説である。1982年、大学卒業を目前にした「ぼく」は、村井建築設計事務所に入所がきまる。所長の村井俊輔は戦前フランク・ロイド・ライトに師事した著名な建築家。事務所は夏になると、スタッフ全員で浅間山麓にある山荘「夏の家」に転地し、そこで合宿、仕事をするのが慣わしだった。今夏

むこうだんばら亭 新潮文庫 ★★★★★
saihikarunogo/重いもの、暗いもの、汚いものをともに抱えていけるなら……
以前、同じ作者の『さざなみ情話』を読んだことがある。あれは、利根川の水運で働く高瀬舟の船頭と河岸の飯盛女の物語だった。あれの続編のような気持で、『むこうだんばら亭』を読んだ。あのふたりも、おそらく、房総の「いなさ屋」のある港町に行き着いて、暮らしているのだと思いたい。「いなさ」とは、南東の風のことである。(「いさな」だとくじらになってしまう。何度も間違えそうになって困った)「いなさ屋」の主人も、河

十二単衣を着た悪魔 ★★★★★
紫月/悪魔じゃなくて、いい女?
派遣で働く青年が源氏物語の世界へと、異世界タイムトリップするお話です。設定自体が奇想天外なのですが、本書のもっとも特殊なところは、弘徽殿の女御にスポットを当てているところ。源氏物語といえば、スーパーヒーローである光源氏を始め、藤壺の女御や紫の上、桐壷の更衣なんかに人気が集まるところですが、弘徽殿の女御は脇役な上に悪役。スポットライトが当たることは珍しいんですよね。でも、主人公・雷(らい)の突っ込み

空の拳 ★★★★★
オクー/角田光代「空の拳」、これはスポー ツ小説であり、青春小説であり、人間小説でもある。
 作者の角田光代は輪島功一のボクシングジムに10年も通っているそうだ。そんな彼女のボクシング小説、期待が高まる。まず何といってもいいのが試合のシーンだ。「Number」などのルポや沢木耕太郎の本も読んでいるが、これはもう実際にやっている人間にしか書けない的確な描写で素晴らしい。それは、後半になって登場人物のランクが上がって来るほどに熱を帯びてくる。観客たちの興奮、会場の熱気までもが伝わって来て、こ

艶笑滑稽譚 第1輯 贖い能う罪他 岩波文庫 ★★★★
佐々木 眞/お洒落で愉快なおふざけポルノ大全
本書は、おふらんすの文豪バルザックが彼の生涯でもっとも力を入れた珍無類な世紀の奇書の第一弾である。かのフランソワ・ラブレーの顰に倣い、ヴェルヴィルをお手本として1832年に腕によりをかけてでっちあげたお洒落で愉快なおふざけポルノ大全であるが、これほど正月にふさわしい書物もないだろう。ここに登場するのは絶世の美女や偽りの処女たち。そして高名にして色好みのフランスの王侯貴族や司祭、女房寝とられ亭主たち

艶笑滑稽譚 第2輯 明日なき恋の一夜他 岩波文庫 ★★★★
佐々木 眞/R17指定岩波ワンダーポルノ文庫
パート2に入ってバルザック選手のエロ噺のおもしろさといかがわしさはますます快調なり。第八話の「ムードンの司祭の最後のお説教」もかのフランソワ・ラブレー師に仮託した文豪の筆が異常なまでに冴えわたり、当時の権力者たちを徹底的にパロった皮肉な諷刺が見事であるが、もっと凄まじいのは第九話の魔女裁判の顛末じゃ。ムーア人の超絶的美女が次々にお固いカトリック司祭や王侯貴族たちを色香をおとりに血迷わせて陥落させ、

東京プリズン ★★★★
佐々木 眞/主人公の切迫した息遣いがダイレクトに伝わって来る
15歳でなぜかアメリカの中学校に入れられた少女の苦悩、果てしなき自問自答と襲いかかる過去の亡霊と幻影の数々、16歳で卒業試験に課せられた模擬ディベートの異常な体験、天皇の戦争責任と日本の戦後史について総括、などなど著者その人の自分史と実体験を生々しく想起させる主人公の切迫した息遣いがダイレクトに伝わって来る1冊である。天皇の戦争責任のありやなしや、をテーマとするかつての敵国でのディベートに余儀なく

ジャコバン派の独裁 小説フランス革命 ★★★★
佐々木 眞/革命にも山あり谷あり嵐あり
1793年10月16日、ひょんなことから国王ルイ16世をギロチンに送り込んだものの、フランス革命を遂行する革命家とサンキュロットたちの前途には不気味な暗雲が立ち込めていた。ヴァンデ県のみならず全国の地方のあちこちで、革命に不満を懐く農民、貴族が武装して「ヴァンデ軍」を組織したのみならず、イギリスを中心に、オーストリア、プロイセン、スペイン、ナポリ、ローマ、ロシアまで加わった「対フランス大同盟」が結

古井由吉自撰作品 3 栖 椋鳥 ★★★★★
佐々木 眞/森羅万象を無慈悲に切断するメスの純白のきらめき
本巻に収められたのは一九七九年刊行の「栖」と八〇年の「椋鳥」の長編二作である。長編というてもそのおのおのが六から八つの短編小説から成り立っていて、ある意味ではそれぞれが独立した小説世界を構築していると評してもよろしい。結ばれた数珠の一つひとつに男と女の激烈な戦いともたれあいが透けて見えて、また似たような男女が繰り広げる似たような悶着が繰り拡げられているとなりの透明な数珠に繋がってゆく。鎌のような月

黒王妃 ★★★★
佐々木 眞/東西南北今も昔も、信心ほど恐ろしいものはない
 イタリアのメディチ家からフランス王家に輿入れし、国王アンリ2世の王妃となった一代の女傑カトリーヌ・ドゥ・メディシスの半生を描く著者お得意の史伝小説である。 夫が騎馬槍試合における不慮の事故で亡くなって以来、彼女は常に黒衣を纏ったことから、「黒王妃」と呼ばれるようになったという。ここで興味深いのは当時フランスでは喪に服す着衣は白であったにもかかわらず、あえて黒を選んだことである。 服飾史研究家の増

アンデスのリトゥーマ ★★★★
佐々木 眞/今も昔も人身御供
人類は、共同体の維持・持続・発展のために生贄や人身御供を必要としてきたが、それはなぜだろうか。おそらくは共同体の成員に対してあえて「平等な人為的脅威」を課すことによって、より共同体の精神的肉体的紐帯を緊密に強化しようとする政治的な深謀遠慮によるものだろう。「平等な人為的脅威」を天慮に置き換えるために、古代ギリシアなどでは共同体の誰を生贄にするかについて神託が下されていたが、近現代では血統や異民族や

少年飛行兵の絵 ★★★★
佐々木 眞/乱れたこころが少しは慰められる
「世上乱逆追討耳に満つと雖も、之を注せず、紅旗征戎吾が事にあらず」という白居易の言葉をかみしめながらこういう本を読んでいると、いつの世も人の暮らしと心は変わらないよと亡き著者がそっと呟くのを耳にしたようで、乱れたこころが少しは慰められる。これは著者が横浜で高校の教師をしていた自分の思い出をもとに書かれた私小説風の小説だが、登場する人物や風景がすべて懐かしく、嫌なところがないので気持ちよく読めるのだ

エンジェルフライト ★★★★★
Tucker/「死」と向き合う
海外で亡くなった日本人、日本で亡くなった外国人の遺体を家族の元に返す「国際霊柩送還」専門会社エアハース・インターナショナルの人々に密着したドキュメンタリー。その業務の性格上、どうしてもきつい表現が多いので、万人に勧められる本ではないと思う。その点を除いても(海外で死亡してしまうかは別にして)「死」は誰もが必ず経験(?)することだけに、そう何度も読み返せるものではない、と感じた。(内容が不快という訳

春を恨んだりはしない ★★★★★
wildflower/多面的な<現実>を窺い知るために
一昨年前の夏に発刊された池澤夏樹氏の作、写真は鷲尾和彦氏。「自然の脅威から、社会の非力を経て、一人一人の被災者の悲嘆、支援に奔走する人たちの努力などの全部を書きたかった」ため2011年内に発表された記事に大幅に加筆校正を加えた随想録。これまでに執筆された作品の知見をも含め再構成に時間を掛けたというだけあって、今回の東日本大震災の「あの日あの時」をつぶさに語りつつそこに留まらぬ広がりがある。タイトル

歌の翼に 未来の文学 ★★★★★
消息子/微熱に浮かされたような物語の調子は、若い頃、誰もが経験した、世界に出て行くことへの不安と期待のリズムである
 おそらく歴史に名を残すような芸術家は、幼時よりその才能を示し、本人も周囲もその才能に巻き込まれるように芸術家に育っていくのである。もちろん本人や周囲の努力が必要ないといっているのではない。しかしその努力すらも才能に引きずられるように発揮されていくように見える。他方、そうした天才の周囲には芸術家になりたいという思いだけで努力をくりかえす多くの人たちがいる。 そして『歌の翼に』は後者の物語なのである

都市と都市 ハヤカワ文庫 SF ★★★★★
消息子/ディック−カフカ的世界には超自然的なものが介入するが、ミエヴィルの描くこの世界には「不思議なことなど、何もないのだよ」
 都市と都市、ヨーロッパのはし、バルカン半島のあたりにあると思われる二つの都市国家、ベジェルとウル・コーマは「地理的にはほぼ同じ位置を占める」。ほぼ同じ場所を占めるという紹介文の記述がまずわからなかった。いったいどういうことか。 それは『アンランダン』の裏ロンドンのように同じ場所だが異次元、というようなSF的に現実離れした設定ではまったくなく、実現可能だが政治的に現実離れした設定なのである。二つの

去年はいい年になるだろう 上 PHP文芸文庫 ★★★★★
消息子/去年はいい年になるだろうが、お先は真っ暗
 タイムマシンがあったらどう使うかという話は語り尽くされた感があって、過去の過ちを正すとか、ギャンブルの結果をあらかじめ調べておいて、大穴を当てるとかは陳腐な例である。もっとも、過去に戻ってやり直したいと思うことが多々にあるのが人間なのであって、もう少し大局的にみると、正したい歴史が無数にあるのが人類である。それでは歴史を遡って世直ししましょう、というのが本書のメイン・アイディアである。 そういう

夏への扉 新訳版 ★★★★★
消息子/だからいつまでもこの小説は支持されるのだろう
 福島正実訳の文庫版が出たのが1979年。その頃、翻訳されていて手にはいるハインラインの長編はほとんど読んだ。『夏への扉』も文庫が出てすぐ読んだのではなかったか。それから30年、もっとも原始的な時間旅行法で未来に旅してきたよ。その間に、「猫を愛するすべてのひとたちに」捧げられた本書の被献辞者にぼくもなった。30年後の未来では、新訳が出たのだけれど、これがバリバリの新人訳かと思いきや、ベテラン小尾芙

ハーモニー ハヤカワ文庫 JA ★★★★★
消息子/この解法は十分論理的に思えるのにも拘わらず、やはりこの解は違うのではないかと思う
 WHO憲章だったか、健康である権利というのを学校で習ったとき、不健康でいる権利はないのかなどと思ったのは、やはり私も思春期だったのだ。しかし、その後、健康への圧力は強まり、健康増進は法律で定められ、たぶん、人生の価値を名誉でも財産でもなく、健康に置くと言う人(本音はどうあれ)が増えたのではないだろうか。手狭になった病院が郊外に移転するとそのまわりに家が建ち、ショッピングセンターができるなどという

ブラックアウト 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ ★★★★★
消息子/これは時間旅行なのだ。しかし……
 第二次世界大戦中の日本の様子については、書物やドラマなどでそこそこに知っていると思うのだが、はて、イギリスがどうだったかなど、とんと知らぬ、本書を読むまでは。 すなわち、ロンドンはナチスによる空襲にあって、灯火管制が敷かれていた。灯火管制、英語ではブラックアウト。 2060年のオックスフォード大学史学部では、タイムマシンを使って、学生が過去の時代に旅行してフィールドワークをしているという設定のシ

後藤さんのこと ハヤカワ文庫 JA ★★★★★
消息子/今年のは発売後15分で売り切れたりしている銀河帝国の話をうちの家族で読むのはまず私だけだろう
 宇宙開闢のような出来事でも、超光速旅行のようなものでもある、と私は思う。芥川賞受賞作家の作品を受賞前から読んでいたことなど、私にとってはほとんどあり得ないような出来事なのだ。ちょっとうろたえながら、受賞作を読むのでもなく、『後藤さんのこと』を読むのであるが、私にとって後藤さんは『パトレイバー』のあの後藤さんだったり、メールアドレスがgoto@のあの後藤さんだったり、年賀状でしかお会いしなくなった

量子怪盗 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ ★★★★★
消息子/火星の怪盗ル・フランブール
 電子書籍がさらに普及し、ネット書店が電子書籍書店に変わったりする昨今、かつてのハヤカワSFシリーズの復刻というべき体裁のビニールカヴァー付ソフト・カヴァー、小口塗り、やや黄色い紙の手に馴染む「紙の本」を出す早川書房の心意気をまず称えておきたい。 しかし中身は旬の作家たちのSFで、バチカルピだの、このライアニエミだのエキゾティックな名前も並ぶ。ライアニエミはフィンランドからイギリスに渡った人。 ニ

屍者の帝国 ★★★★★
消息子/ネクロパンクの登場
 伊藤計劃の絶筆、『屍者の帝国』は長編のプロローグのみであるが、頗る魅力的な設定が示されている。19世紀後半のロンドン、優秀な医学生の「わたし」ジョン・ワトソンは、指導教官セワード教授と、特別講義にやってきたヴァン・ヘルシング教授に軍の仕事に就くことを誘われる。そこで会った特務機関のMは諮問探偵を弟に持つという。まずはシャーロック・ホームズとストーカー『ドラキュラ』の登場人物が出てくるわけである。

去年はいい年になるだろう 下 PHP文芸文庫 ★★★★★
消息子/期待を裏切らない急展開とその余韻
 星雲賞は日本SF大会のファン投票でその年の最も優れた作品に贈られる賞である。直木賞・芥川賞のようにプロが選ぶ賞よりも、ファンから直接支持されるのは作家冥利に尽きるものがあるのだろうと推測される。そして本書は星雲賞受賞作である。 未来から人類に福祉をもたらすガーディアンの到来という大きな出来事を、「僕」山本弘の自伝小説的な視点から描いていく。2001年当時に執筆していた『神は沈黙せず』はガーディア

ΑΩ 角川ホラー文庫 ★★★★★
消息子/「超空想科学 怪奇譚」などという副題が付いているが、角川の編集者はアホか?
 地球に2つの異星生物が降下する。赤い玉を青い玉が追っている。青い玉の宇宙人は誤って人間を死なせてしまったため、彼に同化して命を繋ぐとともに、地球上で活動する基盤を得る。普段は人間として活動するが、敵である赤い玉の生物と戦うときには、銀色の巨人に変身する。しかし、地球上ではその変身形態は短時間しか維持できない。 それは『ウルトラマン』のストーリーだろうって? 『AΩ』のストーリーです。 明らかに『

天獄と地国 ハヤカワ文庫 JA ★★★★★
消息子/そのたび頭の中で上下をひっくり返しながら読むロボット対戦SF
 『AΩ』に次ぐ、小林泰三のSF長編第2作。 「天国と地獄」ではなく「天獄と地国」であるのが、設定を語っている。大地は頭上にあり、下は星海。落ちるということは遙か真空の宇宙空間に吸い込まれてしまうわけであり、これが天獄。人々は大地に穴を穿って住み、乏しい資源とエネルギーをやりくりして何とか「村」を維持している。大地の下には独立した岩塊「飛び地」があり、ここには空賊が住み、村を襲っては資源とエネルギ

虐殺器官 ハヤカワ文庫 JA ★★★★★
消息子/終わりなき戦争と平和
 エクリチュールとは死者の国である。とラカンが言ったかどうか知らないが、似たようなことは言っているはずだ。 だから本書も死者のものであり、実際、作者はもう鬼籍に入っている。この小説を書いているときにどれほど自己の死を差し迫ったものと感じていたのかは知らないが、冒頭からおびただしく死のイメージに満ちている。当然、これは戦争の物語なのではあるが。 9.11から少し未来の世界。先進国はテロ対策に管理を強

ゴーレム100 未来の文学 ★★★★★
消息子/耳元で常にウソウソウソウソと囁かれ続けながら読まされるフィクション
 アルフレッド・ベスターは伝説である。 『分解された男』(別名『破壊された男』、しかし『解体された男』くらいがいいんじゃないかな)も『虎よ、虎よ!』もその内容はさっぱり忘れてしまったが、強烈な印象だけが残っている。 アルフレッド・ベスターは天才である。 天才には初期に大傑作をひとつぶたつ飛ばしただけで終わりとか、あとは鳴かず飛ばずといったタイプがいるが、やはり彼はそれに近いのではないかと思う。『

禅銃 ハヤカワ文庫 SF ★★★★★
消息子/ワイドスクリーン・バロックのひとつの典型
 ワイドスクリーン・バロックなる術語はブライアン・オールディスがそのSF史書『十億年の宴』でチャールズ・L・ハーネスの作品を評して作り出した言葉だが、件のハーネスがほとんど訳されないまま、この術語が日本では一人歩きして、やれこれはWSBだ、いやそうじゃない、といったことになっている。 ここでオールディスがバロックという言葉を使ったところがミソで、17世紀の芸術をロココの時代の人々が、悪趣味、品がな

不確定世界の探偵物語 創元SF文庫 ★★★★★
消息子/タイムマシンの実用化によって過去が改編され続けて現在が不確定になってしまった世界における探偵物語
 この連作短編型の長編が書かれた1980年代初めは、伝説のSFファン鏡明が小説をものし始めた時期で、私も大いなる期待を持ってSFマガジン連載の『我らが安息の日々』を読んだりしたけれど(いまだに単行本化されていないのだ)、『不確定世界の探偵物語』のほうは新書で出版されてもなぜだか読まずじまいだった。タイムマシンの実用化によって過去が改編され続けて現在が不確定になってしまった世界における探偵物語とい

宇宙へ ★★★★★
紅葉雪/さすがです。……完敗、ノックアウトされました。
宇宙と地上をつなぐエレベーターが作られ、誰もが宇宙へいける時代の幕開けの、2031年。地球から3万6千キロメートルのステーションが、主人公・原田拓海の職場だ。拓海は「静止軌道」にある「ステーション」の「メンテナンスマン」。宇宙エレベーターの保守が仕事だ。本作は、その拓海が職場で体験していくことを4編の中編で追っていく、いわゆる「お仕事」小説ともいえる。とはいえ舞台は宇宙。全てが生半可ではない。さら

きみが見つける物語 友情編 角川文庫 ★★★★★
紅葉雪/このシリーズ、うまいです。
出版社は『巧い』。でも読者にとっても『旨い』シリーズではないかと…。「十代のための新名作」とサブタイトルにあるが、十代の人たちだけに独り占めされるのは絶対に勿体ない、というのが正直なところか。最近、いろいろな作家の作品が一冊にまとまっている、いわゆるアンソロジー系が増えているが、これもその一つ。この本を手にしたのは、出版された直後だったと思う。坂木司さんの「秋の足音」が所収されていると知って、正直

あと少し、もう少し ★★★★★
チヒロ/走る姿がキラキラまぶしい。
三浦しをんさんの「風が強く吹いている」中学生ヴァージョンといった趣。 中学生の駅伝だからと言ってバカにしてはいけない。 みんなそれぞれに、自分の区間をいかに早く走り抜けるか考え続ける。 大会本番のレース場面と、その選手がなぜ走ることになったか、数ヶ月前に戻って語られる。 真面目にとりくんできた子、ちょっと不良だった子、人のためになるように、という生き方をしてきた子、不幸を知られたくなくて虚勢を張っ

リアル・シンデレラ 光文社文庫 ★★★★★
楊耽/リアル・シンデレラは、自由を得て
童話「シンデレラ」について調べていた編集プロダクションのライターが、「シンデレラは幸せになったのか」と疑問を持つことに端を発するリアリズム小説です。この疑問に意気投合したプロダクションの社長から、知り合いの女性「倉島泉」を紹介され、取材を始めます。「幸せになったシンデレラ」とは、本当はこのような人の事を言うのではないか。物語は、倉島泉の半生を描いています。僕は、まず、次のような中年の無駄話を聞いて

終業式 角川文庫 ★★★★★
楊耽/僕が一番好きな恋愛小説
僕が一番好きな小説です。恋愛小説として大好きです。今までも沢山恋愛小説を読みましたが、この小説が一番です。他の恋愛小説と、何が違うのか。少々考えてみました。一言で言ってしまうと、それは「僕の身の丈にあっている。」と言うことです。もちろん、傷心の海外旅行での出会いとか、クルーザーで港の夜景を見ながらのデートとか、そういう恋愛小説も好きなのですけれども、そこには「僕」がいません。そうです、「終業式」を

ハルカ・エイティ 文春文庫 ★★★★★
楊耽/ハルカのように生きることが出来たなら
「ハルカのように人生を送ることができたなら。」と、うらやましく思えた一冊でした。冒頭の第一章「ハルカ80(エイティ)」で、著者自身がモデルと思われる小説家の紹介で上京した現代のハルカが瑞々しく描かれた後、第二章「少女」で舞台は大正時代に戻り、ラストの第十二章「恋人」は一九七六年。ハルカの成長と彼女が築いた家庭、彼女の人生が描かれています。「ハルカのように人生を送ることが出来たなら。」は、ようやく全

愛おしい骨 創元推理文庫 ★★★★★
mikimaru/薄いベールが、ゆっくりと一枚ずつはがされる
20年前のある日、森にはいった少年のうち、弟が帰らなかった。行方不明のまま月日は流れ、軍で優秀な捜査官となっていた兄が、故郷にもどる。周囲の慰留努力もむなしく、彼は退職し、故郷の街へ。そこに何があるのか。なぜ彼はもどったのか。そこでは老いた父、その面倒を見てくれている同居家政婦の住む家に、夜な夜な一本ずつ、弟の骨がとどいていた——。実に、設定がいい。かき集めてもせいぜい千人程度と思われる街。たいて

漱石俳句探偵帖 文春文庫 ★★★★★
浦辺登/さすが、文豪漱石の俳句。
 文豪夏目漱石は小説家として知られる。 しかしながら、その漱石が生涯、およそ2500に上る俳句をものにしていたことなど、あまり知られていない。漱石の親友、正岡子規があまりに名句を多く残しているため、その存在感が薄いからかもしれない。 本書を手にしたのは、温泉好きの漱石が九州は二日市温泉に残したひとつの俳句について知りたかったからである。残念ながら、それについての記述はなかったが、漱石の人となりを窺

春を恨んだりはしない ★★★★★
wildflower/多面的な<現実>を窺い知るために
一昨年前の夏に発刊された池澤夏樹氏の作、写真は鷲尾和彦氏。「自然の脅威から、社会の非力を経て、一人一人の被災者の悲嘆、支援に奔走する人たちの努力などの全部を書きたかった」ため2011年内に発表された記事に大幅に加筆校正を加えた随想録。これまでに執筆された作品の知見をも含め再構成に時間を掛けたというだけあって、今回の東日本大震災の「あの日あの時」をつぶさに語りつつそこに留まらぬ広がりがある。タイトル

夜の写本師 ★★★★★
十五夜/芳香ただよう良質の幻想文学
 表紙のイラストの流麗なイメージそのまま、知のきらめきと幻想性と、それから全体をつらぬく品のよさ。ほのかな色気。どこか海外のファンタジーを思わせるんだけど、ハヤカワFT文庫とか、創元推理文庫でおなじみの。でも、・・・何々みたい、とは思わせない設定の独自性。一文一文ゆっくりと読み味わいたい、愛すべき作品です。 魔法、魔道。魔女、運命、宿命、生まれ変わり。 先入観も何もなく、主人公が翻弄されるこの世界

何者 ★★★★★
十五夜/救いはそれぞれに
 ラスト、「○○者」って、怖い言葉だなあ。読後、しみじみと思いました。 何だか自分のことを言われた気がして。いや、私はブログもツイッターもやらないけれど。実は、時々、まわりの人(おもに勤務先の人々)がアホに見える時がある。そしてそんな自分が一番の阿呆だと嫌気がさす。他人を評する自分にどんな価値があるというのか、と落ち込むので。 あまり書いてしまうとネタばれになるのでこのぐらいにしておきますが、いや

あたたかい水の出るところ ★★★★★
十五夜/進化する木地さん
 木地さんは、大好きな作家さんで、いつも新刊を心待ちにしています。(マイナークラブハウスのシリーズの続きも、まだ・・・ですかねえ。) デビュー作の「氷の海のガレオン」からずうっと、繊細で早熟な、迷える少年少女を描き続けてこられた木地さん。今回は、なんというか、温泉大好き少女もの?NHKの火曜日の夜10時前後にやっている全6話ぐらいの単発ドラマで実写化しても違和感なさそう。(この枠のドラマ、一癖あっ

人間仮免中 ★★★★★
十五夜/壮絶に気高く
 2012年度のマンガ、書籍のランキングの上位に上がった作品で話題になったのでご存知の方も多いと思います。作者自身の壮絶な体験を綴ったコミックエッセイ、と一言ではとても表現できないあらすじは省略させていただくとして、もしかして内容や絵に抵抗がある方もいらっしゃるかも。それぐらい唯一無二の一冊です。私は好きです。卯月さん、よくぞよくぞ生き抜いてくれました。奇跡的に命が助かって、この本を上梓して頂いた

母がしんどい ★★★★★
十五夜/共感とやるせなさ
 人並みはずれてわがままでキレキレのお母さんに育てられた一人娘の実録コミックエッセイ。う~ん、私も今もって実母との適正な距離感がつかみきれずに苦労しているから、ホント、母と娘は難しい。そして一人目の彼氏の太郎さん、この方もキレキレで作者を束縛するんです。それがまたじわじわ怖いのです。今は太郎さんとは別れて、よきパートナーにめぐまれた永子さん、本当に良かったです。 自分を束縛、支配しようとするお母さ

シナリオ 復活の日 角川文庫 ★★★★
みなとかずあき/1980年公開角川映画のシナリオ本
1980年に公開された角川映画『復活の日virus』のシナリオです。映画を監督した深作欣二と有名な脚本家高田宏冶がメインで書いた脚本だったのでしょう。それに、グレゴリー・ナップ(いろいろ検索してみましたが、よくわかりませんでした)が参加しているので、外人キャストの分はこの人がセリフにしていたのではないでしょうか。また、たぶん撮影前の完成稿なのでしょう。完成した映画そのままではないのではないかと思い

復活の日 ★★★★★
みなとかずあき/「すごい」を連発させられてしまう、早すぎた日本SFの傑作
小松左京が亡くなってから、氏の作品を読み返している。このところ好きだった作家が相次いで亡くなっていくので、あの人の小説、この人のエッセイ、などと読んでいて、なかなか読み進まないのだが、この『復活の日』は、それ以上になかなか読み進むのが大変な1冊だった。決して難解だとかいうわけではないのだが、圧倒されてしまうことがしばしばあり、結果時間がかかってしまったということか。驚き、圧倒されたことはいくつかあ

松丸本舗主義 ★★★★★
佐々木 なおこ/1074日、700棚、5万冊、65坪の松丸本舗劇場!
私はだいたい激しく後悔することなどあまりない性質なのだけれど、今回は激しく激しく後悔しました。なぜ、私は2012年1月2日に、丸善丸の内本店にあった本屋さんの中の本屋さん「松丸本舗」に行かなかったのか?と。存在を知らなかったとはいえ、残念すぎます。ちょうど1年前の年末年始、数年ぶりに東京へ行きました。家族そろって東京の名所あちこち、おきまりのディズニーランド…。新幹線を使ったので、東京駅は確実に。

本にだって雄と雌があります ★★★★★
佳霞/本が増えるのは、本に雄と雌があるから子どもができる・・・から?
 本は増える。油断しているとき、ふと「ブ○ク・オ○」閉店セール、閉店前日から「80%引き」、魔の街、神保町で「え!こんな古本屋が?」ネットで「ポイント使えます」罠がいっぱいだ。しかし、この物語の語り手の祖父、深井與次郎いわくあまり知られておらんが、書物にも雄と雌がある。であるからには理の当然、人目を忍んで逢瀬を重ね、ときには書物の身空でページをからめて房事に励もうとし、果て跡継ぎをもこしらえる。 

魚舟・獣舟 光文社文庫 ★★★★★
佳霞/異形の者とは何か。乖離の物語。
 異形の者とは一体何を指すのでしょうか。 一応、人間を基準(正)として、それと異なるから異形。では人間が正なのかどうか、は人間が決めているだけなのだ、ということにこの本を読んで改めて考える。  短篇5篇と中篇1篇から成りますが、短篇の共通テーマは「異形」です。 その中でも特に突出しているのが表題作『魚舟・獣舟』 全ての物語が、未来を想定しているSFですが、出てくる名前は日本人の名前ばかりです。 異

ネザーランド ★★★★★
佳霞/心の中はいつも異邦人
 ガラスや陶器の器など壊れやすいものをこわした時、破片が散らばる。 この物語はまさに「壊れて散らばってしまった破片」をかきあつめるようなものです。 起承転結がきちんとあるわけではありません。  主人公、語り手のハンスという34歳の男性は、アメリカ、ニューヨークで大手銀行の証券アナリストをしている。妻は弁護士。ハンスは名前の通り、オランダ生まれです。 妻はイギリス人。そして妻がニューヨークで仕事を見

ことり ★★★★★
佳霞/静かに降る雨が地面に音なく吸い込まれるような物語
ざあざあと雨音が響くような豪雨でなく、いつの間にか雨が降っている。そして、その細い雨足が地面に音もなく吸い込まれていく。それがずっと続く。時々、雨がやんで、雲の合間に陽の光がさす。地面の土は音もなく落ちた雨を、水を音もなく吸い取る。そして、「雨降って地固まる」にじわじわなっていく。その水は、地面にしみこみ、地中の生き物、草木の命の源となる。 小川洋子さんの小説で男性が主人公のものは、静かな雨です。

くろねこ軒の焼き菓子Recette ★★★★★
mikimaru/基本に忠実、手作り感いっぱいの焼き菓子
個人で注文形式のお菓子屋さんを営む著者のレシピ本。掲載内容の吟味がすばらしい。そして説明が丁寧でわかりやすいだけでなく、この本には最大の強みがある。なんと、「現場(キッチン)で開いても勝手に閉じにくい」。本のサイズとページの重みのバランスが、それを可能としている——よほど隅のページを開いているなら、話は別かと思うが。これはいいな。ほかの料理本も見習ってほしい。さて、内容の吟味についてだが、たとえば

冠婚葬祭のひみつ 岩波新書 新赤版 ★★★★★
mikimaru/ユーモラスに、大胆に、そしてわかりやすく
たった百年のあいだですら大変化を遂げてきた日本の冠婚葬祭。マナーだ、しきたりだというが、実は何らかの事情(あるいは関係者の思惑)などから、あっというまに流行ってしまっただけのものもあるようだ。本書では、慶事と弔事を大きな柱として、明治から昭和のおさらい、そして今後の少婚多死の時代を、著者の斎藤美奈子がユーモラスに、ときに皮肉たっぷりに、読み解いていく。ゼクシイなどの結婚情報誌が「晴れの場」の市場を

被差別の食卓 新潮新書 ★★★★★
mikimaru/世界の被差別地域を訪れ、そのソウルフードを食べ歩く
大阪の被差別部落に伝わっている、ごく狭い範囲でのローカルフードに自分の味覚のルーツを実感している著者が、世界の被差別地域を訪れて、そのソウルフードを食べ歩く。広い意味ではアメリカのフライドチキンなど黒人食文化にはじまり、ヨーロッパのロマ(かつてジプシーと呼ばれていた人々と重なる流浪の民)、イラクのロマと交流し、ブラジル、ネパールを訪ねては食事をともにする。普通の階級の人が食べないような食品部位をう

大使館の食卓おうちで簡単レシピ集 ★★★★
mikimaru/掲載内容は幅広いが、簡潔に詰めこみすぎ
BSフジで放映されている同名テレビ番組のデータを再掲した本で、料理は1カ国につきほぼ見開きの量で2〜3品目ずつ、簡潔に紹介されている。その番組は見たことがないが、大使館関係者(シェフ)もしくは大使やご家族が料理の腕をふるうこともしばしばあるようで、番組放映時の雰囲気も画像でうかがえる。料理写真は全般的に発色がよく、適度に読者の目を引く。残念なことに、ざっとページをめくっての印象としては、コンパクト

おうちで手軽に世界のレシピ 別冊宝島 ★★★★★
mikimaru/簡略さに重きをおいているが、料理の種類としては楽しめる
ハンガリー料理の掲載されている本はないかと検索していて見つけたムック。わたしは時短料理にさほど興味はなかったが、買ってみて初めて「あ、15分以内にできるものばかり」と気づいた。そういう目的で本を探したことがなかったし、多少は偏見もあるのだが(手をかけた料理のほうが美味しいというわけでもないだろうが)、結果としてこの本は、かなりお買い得と思う。肉がメイン、魚がメイン、5分以下でできるおつまみ、野菜や

ドイツ菓子大全 ★★★★★
mikimaru/生地で勝負のドイツ菓子
ユーハイム本店のドイツ製菓マイスターである安藤明氏の監修本。バウムクーヘンファンにはありがたいことに、約10種類の配合と生地作りが紹介されている。生地の味わいが勝負のドイツ菓子。見た目の繊細さはフランス菓子には及ばないが、質感のある素材重視の味わいは、写真からも伝わってくる。ほとんどの菓子類は業務用サイズで書かれているが、いくつかは24cmの丸型で作れるトルテもあり、家庭用に計算しなおして作ること

アイスランド大使の食卓 TOKYO NEWS MOOK ★★★★★
mikimaru/見た目は大胆に、素材の持ち味を活かした食卓
2008年から、港区高輪の住宅街にあるアイスランド大使館の3階大使公邸に暮らす大使ご一家。日常的な風景をまじえつつ、広いキッチンを駆使して作り出される大使夫人の料理を紹介する。海の幸に恵まれ火山島であるなど、日本にも通じる環境であるせいか、料理は魚介などを中心に、形をそのまま見せる大胆で美しいものが多く、日本人の食欲を大いにそそる。肉としてはラムと鶏、そして魚介ではロブスター、タラ、サーモン、カレ

香港粉麵飯 ★★★★★
mikimaru/家庭向けレシピではないことを、まず念頭におく
最初に注意すべき点として、「ちょっと料理が好き」という程度では、この本にあるレシピの大半は敷居が高い。「中華料理の本格食材を買える店を知っている」、「手間は惜しまない」などがクリアされてからでないと、ついていけないかもしれない。なお、わたしの場合は「そっくりに作れなくてもいっか」「何かの参考にはなるし」という程度で満足できるので、たいへんおもしろく読んだが、せっかく本を買ったのだから実際に作りたい

元気がでるツボの本 オレンジページムック ★★★★★
mikimaru/手と足が暇な時間というのは、意外にある
パソコンの画面をざっとチェックしているだけの時間、音楽を聴いたり、なんとなくテレビを見ているだけの時間。そんなとき、そのままの姿勢でツボを押してみて体調がよくなることがあるなら、楽でいいし、しかも安上がり。時間をそのために割いているわけではないから、気負いもない。どうせ手と足は何もしていない時間なのだから。読んで数日なので、効果があるかどうかはまだわからないが、胃腸を整える、血流をよくして肩こりを

軽井沢週末だより ★★★★★
佐々木 なおこ/冬の軽井沢もいいですね(●^o^●)
「軽井沢は、冬の寒さは厳しいけれど雪が少ない土地だから、木の枝に雪が積もる代わりに”霧氷”といって、氷の粒のようなものがびっしりと枝の表面をおおうんです。光があたるとキラキラして、それは美しいですよ」伊藤まさこさんが行きつけの軽井沢フレンチレストランのシェフがそう教えてくれました。”霧氷”の現象が本格的に見られるのは1月以降だそうで、まさに今の時期ですね。「軽井沢野鳥の森」を思いきりざくざくと歩き

ふみこよみ ★★★★★
佐々木 なおこ/今年はもっと春夏秋冬を楽しみたい!
新年に思うこと。今年はもっと季節の移り変わり、春夏秋冬を楽しみたい…。そんな思いにぴったりの本がありました!大好きな随筆家の山本ふみこさんによる最新エッセイ、です。サブタイトル「春夏秋冬 暮らしのおと」をみて、思わずにんまりしてしまいました。(●^o^●)ふみこさんが大切にしている季節のきまりごと、お楽しみ、提案などなど、月別に紹介してあります。いろんなところで、これ素敵!これわくわくする!これ今

パリの子育て・親育て ★★★★
佐々木 眞/パリで妊娠、出産した女性のひたむきな育児奮闘記
さきに「フランス映画どこへ行く」で私(たち)が全然しらなかったおふらんす国の映像産業の実態についてビシバシ蒙を啓いてくれた著者が一転してレポートするのは、なんとご本人の子育て体験である。この本には、パリでフリージャナリストとして活躍する著者がフランス人男性のジル選手と巡り合い、妊娠、出産、そして育児に奮闘した10年間の記録がありのままに記されている。国内での出産だって一騒動なのに、異国、ましてやフ

片づけの女神 ★★★★
葉虫っち/自分らしい人生を見つけ出すための片づけ
どうしても片づけられない人種にとって、片付けに成功するということは、「(自分にとっては)とても非現実的」という意味合いで、おとぎ話の中の成功譚に近いものがあります。そんなわけで、「片づけ」というジャンルは、実はファンタジーとは相性がいいのではないかと、前々から思っていました。本書では、いわゆる「汚部屋(おへや)」に住む女子大生のもとに、身長30センチほどの小ぢんまりとした女神が現れて、片づけに必要

日本の七十二候を楽しむ ★★★★★
wildcat/「めぐりくる季節や自然を楽しむ暮らしの歳時記」
二十四節気七十二候に興味を持ったのは、愛聴しているインターネットラジオがきっかけである。クラシック音楽の専門チャンネルなのだが、二十四節気七十二候にからめて季節の話をするコーナーがあるのだ。1月4日には小寒と芹乃栄う(せりさかう)、1月7日には七草粥、1月10日には水泉動く(すいせんうごく)、1月11日には鏡開きについて話していた。今の暦は太陽暦だが、旧暦(太陰太陽暦)が生活の中から完全に姿を消し

終盤のメカニズム マイナビ将棋BOOKS ★★★
ココちゃん/難解な終盤本
詰将棋解答選手権最多の5回優勝を誇る宮田六段の終盤指南書が発売されました。「最初の方は易しいが、第6章などはかなり難しく」「さまざまな棋力の方が楽しめる内容だと思う」とありますが、基本的な手筋や詰めろ・必至の概念などについての解説はなく、ある程度知っているものとして話が進められるので、「易しい」第1・2章でも最低限5級から初段ぐらいの棋力は必要かと思います。第1章は「寄せのメカニズム」で、必至の問

石田流の基本 最強将棋21 ★★★★
ココちゃん/升田式石田流の入門書
まず最初にですが本書には初版では誤植がありますので、浅川書房のHPで正誤表および訂正をチェックされることをお勧め致します。「力戦振り飛車の雄」戸辺六段の「石田流の基本」の待望の続編は「早石田と角交換型」です。「早石田」といってもすぐに▲7四歩と仕掛けるタイプのものではなく、まずは玉を囲いそれから攻める、いわゆる升田式石田流が解説されています。現在の定跡では後手に正確に対応されると7七桂型では手が作

永瀬流負けない将棋 マイナビ将棋BOOKS ★★★★
ココちゃん/個性派若手棋士
2012年度新人王戦・加古川青流戦でダブル優勝の永瀬五段の初著作です。強さだけでなく独特の「受け」と千日手を好むという謎の棋風で注目の若手棋士です。本書は31局の将棋から1局ごとに中盤を中心に序盤や最終盤も加えたテーマ図を3~5個挙げ、見開き2ページの対話形式(「仮想されたアマ強豪との掛け合い」とのこと)での解説で構成されています。執筆協力がアマ強豪の美馬和夫さんなので、美馬さんが相手を担当されて

夜の小学校で ★★★★★
佳霞/夜の小学校は閉ざされているのではなく、広がっている・・・どこかへ。
 夜の学校は「恐竜みたいだ」と書かれていたのは大島弓子の漫画だったのですが、学校だけでなく、職場も「昼の顔」は知っています。 しかし、夜になると・・・閉ざされた学校は実は眠っていないのですね。 眠っているのは人間だけ。  「ぼくは、桜若葉小学校で夜警の仕事をすることになった。」  今時、夜警が必要な小学校なんてあるのだろうか?でも、この小学校には時々、不思議な事がおきる。 不思議というより、とても

伊藤まさこの雑食よみ ★★★★
ツキノ・ハルミ/暮らしの中にとけこんだ「本」のエッセイ。「雑食よみ日記」が特にいい。
スタイリスト・伊藤まさこさんの本エッセイ。書評集ではなく、日々の暮らしの中での本の読み方、もしくは本のある暮らしについて書かれています。『ダ・ヴィンチ』(2008年12月号~2011年2月号)に連載された「伊藤まさこの雑食よみ」を再構成、大幅に書き下ろしが加えられたものです。スタイリストの仕事は 「ミセス」「LEE」「芸術新潮」などの雑誌媒体を中心に、 料理、食器、雑貨、洋服などていねいでセンスの

くまとやまねこ ★★★★★
wildcat/心の軌跡とともにある絵本
初めて手にしてから4年、手元に置いてから3年半ぐらい経っているだろうか。この作品は、私の心を映す鏡のようだと思う。本屋で初めて出会った時は、号泣しそうになり、連れて帰ってくることができなかった。手元に置けるようになった頃は、「くま」と自分を重ね合わせ、物語の経過と自分の心の軌跡を重ね合わせて読めるようになっていた。なかよしのことりが死んでしまったこと、どこに行くにもことりをいれた箱を手放せなくなっ

戦争を取材する 世の中への扉 ★★★★★
紅葉雪/子どもたちの目つきが、まさに真剣そのものでした。「戦争」を、彼らなりに感じてくれたのだと思っています。
実は以前のbk1時代(2011年11月)に、この本の書評を書いたことがある。それから1年と少し。まさかこの本が山本さんの最後の著作となってしまうとは……。前の書評ではこのように書いていた。「著者の山本さんはジャーナリスト、ノンフィクション作家となっている。本人は「はじめに」の中で戦争ジャーナリストという職業を次のように述べている。「私は世界の戦場を取材して、テレビや新聞、雑誌で報道するジャーナリス

カモのきょうだいクリとゴマ ★★★★★
Tucker/カルガモフェチに捧げる書
ある日、子供達が家に持ち帰ってきたのは、6個のカルガモのタマゴ。近所の田んぼのあぜ道にカルガモの巣があったのだが、大雨で巣は流されてしまい、カルガモ母さんも姿が見えない。そのままではカラス等の餌食になるか、腐ってしまうかのどちらか。もうすでに2個はカラスに食べられてしまっている。そこで、残ったタマゴをひろってきたのだった。本来、野鳥を飼うことは禁止されているが、「リハビリ」という名目で、育てる事に

さがしています ★★★★★
藤豆/「残されたもの」のかすれていく声が聞こえます。
 写真に撮られているのは広島の原爆の跡に残された「もの」たち。 食べてくれる人を探しているのは、食べられることなく焼けてしまった弁当箱。 熔け残った鉄瓶が探しているのは、お湯を沸かすための「ほんものの」火。 ボロボロの靴が探しているのは、はいていた子供がいなくなったから。 表紙の鍵は・・・何をさがしているのでしょう。 写真からインスピレーションを得た詩集、というのでしょうか。「もの」というのはとき

ユリの絵本 そだててあそぼう ★★★★★
藤豆/正確で優しいタッチの絵が好感度。大人の参考にもなる「育て方」。
 子供向けの優しい文章で観察や育て方、利用方法などを示し、巻末には専門家がさらに詳しい説明を補うという構成の絵本仕立てのこのシリーズ。本書ではユリについて、一般的な栽培の仕方や種類の説明だけでなく、球根からの芽の出方、種の形、発芽の様式など、あまり見かけることのないユリの形態も説明されていて勉強になる。自分で花粉をめしべにつけて交配させてみる、などはちょっと上級の技術かもしれない。野菜の時期ごとの

炎路を行く者 偕成社ワンダーランド ★★★★★
藤豆/燃え立つような想いを持て余す十五歳のころ。
  「自分が生きている世界と重なるようにもう一つの世界が存在する」世界で生きる人たちを書いた「守り人」シリーズ。本書はそのシリーズの「外伝」である。シリーズ自体は「天と地の守り人」三巻で完結しているので、シリーズ全体のイメージが出来上がってしまった後で外伝をさらに読むことを迷う人もあるかもしれない。しかし、読んだ一人として、私は読んでよかった、と感じた。 収められているのは皇子チャグムを各国の争い

赤毛のアン 新潮文庫 ★★★★★
きゃべつちょうちょ/少女たちと、少女だった人たち、少女でありつづける人たちへ。
去年の秋に赤毛のアンのシリーズ最新作として、「アンの想い出の日々」が刊行された。これは、よくあるほかの作家によるオマージュの二次創作ではなくて、モンゴメリの遺稿を「完全な形で復元した」原稿を本にしたものである。この本についてはすこし複雑ないきさつがあり、感慨を深くしたファンの人も多かったのではないかと思う。新潮文庫の「アンの想い出の日々」を手に取ったときにふと思った。これは、村岡花子訳のアン・シリ

宇宙人のしゅくだい 講談社文庫 ★★★★★
みなとかずあき/童話といえども、小松左京は小松左京だった
その昔この講談社文庫版を買っていたことも忘れて、自分に子どもがいつかは読むようになるのではないかと思って、新たに『宇宙人のしゅくだい(講談社青い鳥文庫40-1)』を買ってしまっていました。どちらも表題作「宇宙人のしゅくだい」をはじめとする童話集ですが、こちらは「おちていた宇宙船」も収められています。このバージョンは結局再刊されていないようですね。カバー装画やさしえ・カットは、あの九里洋二です。子ど

足に魂こめました 文春文庫 ★★★★
木の葉燃朗/20年前のカズと、今のカズと
 サッカーのカズこと三浦知良選手に取材したノンフィクション。元々は、1993年に『週刊文春』に連載され、同年9月に単行本として刊行された本。Jリーグが開幕してブームを巻き起こし、日本代表はアメリカW杯の最終予選を控えた時期。当時からカズはスターであり、サッカー関連以外のメディアでも多く取り上げられた。 この本は、時事的なテーマを取り扱った内容ということもあってか、文庫化されることがなかった。しかし

名作アニメの風景50 ★★★★★
きゃべつちょうちょ/思い出の風景が、未来へとつながる瞬間
タイトルどおりに、名作アニメの原風景を探しに行く本である。画面で見たあの景色は、こんなにもうつくしく現存している!!まず、そのことに感動をおぼえる。「魔女の宅急便」で、キキが箒で飛びまわるどこまでも青い海と空。「アルプスの少女ハイジ」で、ハイジがペーターとダンスをおどる牧場。「ピーターラビット」で、動物たちが人間臭いドラマを演じる森と湖。そして「赤毛のアン」の舞台、モンゴメリがカナダのゆりかごと呼

六〇年代ゴダール リュミエール叢書 ★★★★
佐々木 眞/若きゴダールの黄金時代を回顧する
題名の通り、この偉大な映像作家の一九六〇年代の作品についての製作過程と撮影現場の実態をくわしく掘り下げた七〇〇頁になんなんとする長編力作です。ゴダール研究家の著者は、冒頭の「勝手にしやがれ」(これは恣意的な悪い邦題です。原題は「息も絶え絶え」。本作だけは一九五九年の製作)を皮切りに、六〇年の「小さな兵隊」、六一年の「女は女である」、六二年の「女と男のいる舗道(原題「自分の人生を生きる」)、六三年の

名画の謎 旧約・新約聖書篇 ★★★★★
佳霞/神から作られたアダムとイブにへそが描かれているのは?
 中野京子さんの『名画の謎』ギリシャ神話編に続くのは、旧約・新約聖書編です。聖書 というのは西洋絵画において、メジャーなモチーフで、キリスト教徒ではない日本人の私にとっては、名画です、と展示されても解説読まなければわからないものも多くあります。  中野京子さんは宗教を語る怖さは十分ご承知で、最初に「信仰の問題や教義解釈には踏み込まない」と名言されており、さらに、あとがきで「熱心な信者の方からしたら

美術館にいこうよ! ★★★★★
佳霞/美術を観る人たちの無意識な芸術活動
 この写真集は写真にコメントはありませんが、写真を撮ったカメラマン、 エリオット・アーウィットはまえがきでいきなり「スポーツ観戦は非常に退屈します」 しかし、「芸術的かつ歴史的価値のある作品の収集、保存研究、展示、歴史的解釈にいそしんでいる組織」の方が受けがよい、と。 エリオット・アーウィットはニューヨーク在住のカメラマンですが、世界の美術館、博物館に行くのが大好き・・ここまではいいのですが、撮影

フェルメール光の王国 翼の王国books ★★★★★
佳霞/絵画の専門家ではなく、ひとりの生物学者がフェルメールの絵に仮説をたてる。文章と写真の配し方がゆとりある美術鑑賞本。
 最近になって、絵は本物を見たいと思う。 様々なメディアで名画は見られるけれども、やはり画家が描いた絵に対峙する、ということが一番いいことなのではないかと思います。  この本は美術館の美術書コーナーにあって手にとってみたのですが、最初は絵画評論家のフェルメール研究本かと思っていました。 しかし、著者、福岡伸一さんは生物学者です。そして初出はANAの機関紙『翼の王国』に連載されたものでした。  以前

マーラー 叢書・20世紀の芸術と文学 ★★★★★
消息子/マーラーの頭の中というかぎりではあるが、恐らくこの世に存在した第11交響曲の姿が一瞬ひらめいた
 CDブックレットに解説が付くという形態が長らく続いているため、作曲家の評伝にはクリシェがつきまとう。ちょうどインターネットで誤った情報がコピーにコピーを重ねて流通してしまうように、自分できちんと資料に当たらない「音楽評論家」たちが、既存の文章を参照しながら解説を書き飛ばすからだと思う。たぶんその程度の原稿料しかもらっていないんだとは思うけれど。 グスタフ・マーラーの評伝はもう結構あるから、新たな

チャイコフスキーがなぜか好き PHP新書 ★★★★★
消息子/数年前、急遽、チャイコフスキイの弦楽セレナードで舞台に乗ることになった。1カ月で合奏から脱落しない程度に難しい譜面をさらわなければならず、文字通り気が狂ったように練習した。自分のパートをさらうのはきつかったが、合奏練習に行くとそれは喜びに変わった。冒頭のノスタルジーをかきたてられる旋律、見たこともないのに「ロシアの大地」などという言葉が頭に浮かぶ。他方、第1楽章主部のテーマの何たる典雅。あるいは
 数年前、急遽、チャイコフスキイの弦楽セレナードで舞台に乗ることになった。1カ月で合奏から脱落しない程度に難しい譜面をさらわなければならず、文字通り気が狂ったように練習した。自分のパートをさらうのはきつかったが、合奏練習に行くとそれは喜びに変わった。冒頭のノスタルジーをかきたてられる旋律、見たこともないのに「ロシアの大地」などという言葉が頭に浮かぶ。他方、第1楽章主部のテーマの何たる典雅。あるいは

文化としてのシンフォニー 1 18世紀から19世紀中頃まで ★★★★★
消息子/シンフォニーの仮想敵は宮廷オペラ
 オーケストラ・コンサートにおける花形は交響曲である。CDでも交響曲の人気は高い。 しかし、交響曲とは何かと定義するのとなるとこれは難しい。本書では、ひとまず「大規模作品の一部としてではなくそれ自体が独立・完結した形で、コンサート等においてオーケストラによって演奏される、多楽章の音楽作品」と記されているが、そのような定義をした途端にそこからするりと逃げ去ってしまうのが交響曲である。「多楽章」といっ

文化としてのシンフォニー 2 19世紀中頃から世紀末まで ★★★★★
消息子/シンフォ2ニーの敵にして味方は交響詩
 文化としてのシンフォニーの歴史をたどる大著の第2部。第1巻はシンフォニーの発生とそれがベートーヴェンにおいてドイツ音楽の頂点とみなされることで、その後の世代にシンフォニー作曲の難題を突き付けることになるまでが描かれ、メンデルスゾーンとシューマンまで言及が進んでいた。 第2巻は19世紀、とりわけ後半が対象となる。まずはベルリオーズが登場。彼においてすでにシンフォニーへの標題音楽の導入という予兆が示

マネー・ボール RHブックス+プラス ★★★★★
拾得/パラドクシカルなマネーボール理論
 ブラッド・ピット主演で映画化されてヒットしたのみならず、「スポーツにデータ分析の考え方を導入すること」の象徴ともなった本作。すでに様々な所で紹介され、つい読んだ気になってしまう1冊になったのではないだろうか。それでもなお、読んで面白いといえる1冊である。私も映画を見てから手にとったクチである。 本書のことを「データ野球の紹介」と一括してしまうと、なんだか面白味が感じられないだろう。しかし本書は、

アクションゲームサイド VOL.A ゲームサイドブックス ★★★★
木の葉燃朗/資料としても、ゲームのガイドブックとしても価値ある一冊
 順番に説明すると、この本は雑誌『GAMESIDE』のバックナンバーから、アクションゲームに関する特集・連載を再編集・加筆修正したもの。『GAMESIDE』は2010年に休刊しているのだけれど、その後『シューティングゲームサイド』、『アクションゲームサイド』と、ジャンル別雑誌として刊行されている。特徴的なのは、幅広い時代のゲーム機のゲームを対象としていること。ファミコンやその同世代のゲーム機から、

虚構新聞 2013 宝島SUGOI文庫 ★★★★★
Tucker/USO800完全準拠
ウソニュースを配信しているサイト「虚構新聞」2011年~2012年にかけて掲載されたニュースのうち特に好評だったものに一部、加筆・修正を行い書籍化したもの。単純に笑いを取ろうとしている記事から、風刺を込めつつ笑える記事にしたものまで多種多様な記事が収録されている。少しだけ欠点を挙げるとすれば、目次にすべての記事のタイトルが掲載されていない、という点。("etc."となっている)

滅びし獣たちの海 幻冬舎コミックス漫画文庫 ★★★★★
Tucker/海は広いな、大きいな 怪物は潜むし、船は沈む
海が舞台の短編5編からなる。「レッドツェッペリン」「鯨鬼伝」「アウトバースト」「罪の島」「滅びし獣たちの海」「アウトバースト」のみ海は関係なし。星野之宣と聞くとSFを思い浮かべる人が多いだろうが、これらの5編はどちらかというと「宗像教授」シリーズのテイストが強い。印象に残ったのは「鯨鬼伝」「アウトバースト」「罪の島」の3編。「鯨鬼伝」江戸時代、捕鯨の村であり、村民全員が隠れキリシタンでもある村に漂

マギ 1 少年サンデーコミックス ★★★★★
十五夜/躍動感、ワクワク感
 マギ、面白いです!連載後、あっという間に人気が出てまたたく間にアニメ化、しかも時間帯は日曜5時という、アニメ放送時間のエリートキャリアコース。面白さ保障付きです。序盤こそゆっくりと物語がはじまりますが、3巻あたり、主要キャラが出揃ってからのドライブ感が素晴らしい。 少年マンガならではの、まっとうな正義感を持つ少年少女。とりまく魅力的な脇役人。私は、特にマギとウーゴくんの絆がツボです。私もウーゴく

Blue Moon ★★★★★
マコ/☆30歳で普通にアイドル♪
内容は特に刺激的な部分は感じません。ただ凄いなあ・・・と思うのは、30歳で普通にアイドル写真集を出して、内容はハミ尻すら無い普通のアイドル写真集。アイドルであることに違和感がなく、この年と言われるような年齢ではありませんが、でもそれができてしまって、受け入れられてことが凄いなあ・・・と思う作品です。顔は痩せすぎて、誰?見たいなところもありますが、大きく強く目を見開くと、ああ”深田恭子”だ・という感