テレビ東京プロデューサー・伊藤隆行「中身は二の次、まずはタイトルありきです」

[2011年10月24日]


弱小局、テレビ東京で次々とヒット番組を生み出している伊藤P。彼いわく「爪楊枝」でどう戦うのか?

『モヤモヤさまぁ~ず2』『やりすぎコージー』などアイデア勝負の野心的な番組を仕掛け、テレビ業界で名をはせるテレビ東京プロデューサー伊藤隆行(通称“伊藤P”)。最下位テレビ局にもかかわらずヒットを飛ばすその企画力と発想力とは? “最強の弱者”を自負する伊藤Pの「モヤモヤ仕事術」に迫る。

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―テレビ東京は、ほかのキー局とは一線を画した、独特のイメージがあります。そうしたなかでヒット番組を作る極意はどんなところにあるのでしょう。

「うちは他局さんと比べると非常に弱いです。おカネもありませんし、人気者のタレントが喜んで出演してくれるわけでもありません。そもそも人気者は、そんなにうちに出る必要はないですからね(笑)。

じゃあ、どうやって戦えばいいのか? 竹槍ならまだしも、うちには爪楊枝(つまようじ)ぐらいの武器しかない。だったらもう、大きなモノを巻き込んでいくしかないんですよ。『釣りバカ日誌』のスーさんじゃないですけど、極端な話、周りにお金や人脈をたくさん持った人がいたら、その人を巻き込んで、そのお金や人脈をひっぱってくればいい。

ちょうど今、うちの局では(3年後の)開局50周年の企画募集が全社員へかかっているんですけど、僕は自分の企画の共同立案者に『だーしま』って、うちの島田社長の名前を書いちゃおうかと思ってるんです(笑)」

―大胆ですね(笑)。

「人気者はなかなかテレ東には出てくれないと言いましたけど、それでも『こういう感じだったら出てもいいよ』って部分は必ずあると思うんです。そのなかに、『他局では絶対に通らないけど、うちならできる企画』があるはず。そこをうまく突ければ巻き込んでいけると思うんです」

―伊藤さんの代表的番組といわれる『モヤモヤさまぁ~ず2』もテレビ東京ならではの番組と好評ですね。

「さまぁ~ずさんの最大の面白さっていうのは、僕は瞬発力だと思うんです。コントも素晴らしいけど、想定外なことが起きたときの面白がり方が日本一面白い。でもスタジオではそれを表現できないから、外に出て散歩してもらおうと思ったんです。そこで、さまぁ~ずさんにも楽しんでもらい、彼らを巻き込むことができれば、他局より払っているおカネは安くても勝負になるかもしれない。僕は、仕事=巻き込むことだと思ってます」

―他者を“巻き込む”ためには企画力がキモになってくると思います。企画を発想する上で大事にしている部分は?

「ひと言で言うと、まずは“恥部”をさらすってことですかね。そもそも『これが面白いんです!』って企画書を書くことは、基本的にはけっこう恥ずかしい作業というか、勇気がいることだと思うんです。だって、『なにそれ?』とか『これ面白いの?』って周りからは陳腐に思われるかもしれない。けど、そういう企画が番組になると非常にアホらしく、すてきに映ったりすることがあるんですよ。

僕は自分が大事にしていることや、本当に思っていることって自分の中の“恥部”にあると思うんです。企画書にせよ番組にせよ、それを表現のなかに入れていくことが大切ではないかと」

―恥部こそ、その人の本質ということですね。

「そこをきちんと見せないで、タレントやスタッフを巻き込もうとしても誰にも伝わらない。当然、視聴者もついてこない。だから恥部をさらしてこそ一人前だと思います。バカなことを言って怒られるもよし、反感を買うのもよし。そうした周りからの反応でしか自分自身を客観視できないですから。カッコつけたって面白いモノは生まれないんですよね。僕だって若い頃はバカだバカだと言われすぎて、人間が1、2回ぶっ壊れていますからね(笑)」

―これまでヒット番組を数多く手がけた伊藤さんですが、失敗談なども教えてください。

「弱者の歴史観から言うと、どこかの二番煎じや三番煎じの番組を作ると総スカンを食らうんですよ。『まあまあ数字取れるだろう』『まあまあ面白いよね』ってやったときに、びっくりするような数字が出ちゃう(苦笑)。

以前、他局の某名物チャリティ番組のような募金をメインにした番組を作ったことがあって、自分ではけっこう成立しているかと思ったけど結果は大惨敗(苦笑)。あの時、うちにはそこは求められてないんだなと痛感しましたね」

―だったら思いっきり尖(とが)ったほうがいいと。

「例えば、『やりすぎコージー』の都市伝説なんかは最初、どう転ぶかわからなかったんで、すごく怖かったんです。だけど、スタッフには『視聴率は3%か15%のどっちか。真ん中に球を落とさないようにしよう』って言いました。結果、真ん中になってもいいけど、やるならどちらかにしっかり振り切る覚悟がないと。中途半端にやって半端な数字取るぐらいなら、らしくやって惨敗したほうがまだ納得がいくじゃないかと」

―伊藤さんの手がける番組は、ほかにも『人妻温泉』『怒りオヤジ』など、タイトルが非常に印象的です。どのようなこだわりがあるのでしょうか。

「僕はタイトルを一番大事にしています。極論を言っちゃえば、中身は二の次で、まずはタイトルありきです。逆に、先に内容があって、後から一生懸命タイトルを考えた番組ってだいたい失敗に終わるんですよ。

タイトルがかわいいと、中身が不細工でもかわいく思えてくるんですよね。だから僕は、思いつくままに、『あっ、こんなタイトルの番組があったらいいな』って思ったらメモするようにしてます。そこでピンときたら、もうほとんど番組が出来上がっているといってもいい」

―タイトルは番組の命、ということですね。

「最近、ブランディングって言葉をよく聞きますけど、それってテレビ番組においてもすごく大事なことだと思うんです。タイトルがひとり歩きしだすと、初めて番組は世間で認知されて、ブランド力をまとう。すると、スポンサー獲得だったり、社会的な反響だったり、視聴率の何倍もの価値が出てくるんです。

じゃあ、制作費をかければブランディングができるかといったら決してそうじゃない。そこは各局、各番組に平等にチャンスが与えられていると信じてます」

(取材・文/石塚 隆、撮影/山形健司)

伊藤隆行(いとう・たかゆき)
1972年、東京都出身。1995年、テレビ東京に入社、編成部に配属される。98年、制作に異動。『人妻温泉』『やりにげコージー』『モヤモヤさまぁ~ず2』などを手がける。映画『お墓に泊まろう!』を監督したり、著書『伊藤Pのモヤモヤ仕事術』を執筆するなど、活動は多岐に渡る。

『伊藤Pのモヤモヤ仕事術』(集英社新書) 新書判/256ページ、798円(税込)

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