特集ワイド:「ネット世論」は世論にあらず 「ゾウは細長い」と錯覚も!?
毎日新聞 2013年01月22日 東京夕刊
◇同質性の高い人、共感し合い先鋭化 既存メディアにより実態以上の印象
「ネット世論」という言葉を最近よく聞く。昨年の衆院選で政党支持を尋ねたオンライン投票の結果やツイッターなどのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で目立った言論の傾向が、大手メディアの世論調査の結果と大きく異なったのがきっかけだ。「ネット世論」の正体って何?【小国綾子】
通信社のロイターが昨年、衆院選前に実施したオンライン調査「総選挙で誕生する新政権の中心となるべき政党は」の投票結果がツイッターやブログで注目された。日本未来の党の支持率がトップの自民党に迫る勢いだったからだ。同時期、Yahoo!のサイト「みんなの政治」が次期政権の枠組みを尋ねたネット投票でも、支持政党で未来が自民の次に多かった。ところが報道各社の世論調査では、未来の支持率はわずか数%。この差に「自公圧勝を示す世論調査は間違いではないか」という声が高まった。
総選挙の結果、未来の比例代表の得票数は全国平均で6%、小選挙区を含む獲得議席は9議席にとどまった。
両者の乖離(かいり)について、世論調査に詳しい政治学者、菅原琢(たく)東大先端科学技術研究センター准教授は「そもそもネット投票は世論調査とはまったく別物」と説明する。「世論調査は無作為抽出によって回答者を選ぶことで、有権者全体の意見分布を『世論』として示します。一方、ネット投票は無作為ではなく、特定の意見の人々が互いに呼びかけあって結果を動かしたりする。ネット投票の結果を『世論』と呼ぶこと自体が誤りなのです」と指摘する。
ロイターも調査について「読者のリアルタイムのセンチメント(感情)を把握するもので、選挙の結果を予測するものではない」と話す。
ネット投票以外の代表的な「ネット世論」の場に掲示板やSNSがある。菅原さんは「例えば中国や韓国への極端な嫌悪を表明するような人は日常生活では触れる機会が少ないが、ネット上では同じ意見の人々が集まって活発に発言するために目立つ。この結果、極端な意見が実態以上に大きく見えてしまい、『世論』として扱われ、『若者の右傾化』とみなされたりする」と説明する。
数年前、菅原さんが新聞社の世論調査結果を分析したところ若者の方が「憲法9条改正」に慎重で「右傾化を示す数字はなかった」。また麻生太郎氏や小沢一郎氏が「ネット上で人気」と言われるのも、100人に満たないごく少数の人々が掲示板に何度も繰り返し書き込むことで印象付けられた側面があるという。