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津波と闘ったクロマツをベンチに
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完成したベンチを前にする、左から田中さん、赤穂さん、風間さん |
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ぬくもりある滑らかな手触りだが、よく見ると木目の中に虫食い跡やカビの青い色が残っている。林業や製材、建築、塗装など木材関連の業者、団体でつくる「三八地域県産材で家を建てる会」(田中裕会長)が製作したクロマツのベンチは、東日本大震災で被災した八戸市市川地区の、海岸防災林が素材だ。海水をかぶり、塩害で立ち枯れたクロマツは、流通している木材と違ってきれいな状態ではないが「震災を忘れてはいけない」と、ありのまま残した。あの日から1年10カ月、津波と闘ったクロマツに、震災を語り継ぐ新たな役割が与えられた。
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三八地域県民局、同会などによると、市川地区の防災林は推定8メートルの大津波や、流されてきた船、車が民家に直撃するのを防ぎ、その後、約4千本が海水の塩分で立ち枯れた。同会は、その中から20本を選び、伐採、乾燥、組み立て、塗装を分担し、ベンチ9基を製作した。
使える部分を切り出し、熱を加えて2〜3週間かけて2段階で乾燥。曲がりも「個性」として残し、同じ大きさ、形のものは一つもない。立ち枯れてから時間がたっていたため虫がつき、カビの青い色素が内部に浸透していた。品質に影響はないが、通常なら見栄え良くするため削ったり、塗装で隠したりするところを「これも震災がもたらしたもの」と生かした。
「地場の木が震災被害を軽減してくれた。森の恵みを忘れてはいけない」と田中会長。「もっと、地場の木材に目を向けてもらいたい」と赤穂一夫副会長。塗装した風間輝光さんは「樹脂をしっかり染み込ませ、震災を忘れないよう、長く使えるようにした」。言葉に、暮らしの糧となる木への感謝と、クロマツへの敬意がにじむ。
地場木材の利用促進へ同会を設立したのは1998年。東北新幹線八戸駅開業時にも県産材のベンチを贈った。食の安全・安心や、地産地消が叫ばれる中「なぜ地場木材に関心が薄いのか」と、街づくりや地域貢献の観点からも問題提起する。
ベンチは昨年10月末の県に続き、八戸市、JR八戸駅、市川地区の浜市川保育園など各所に近く贈る予定。三八地域県民局はベンチに合わせて掲示してもらおうと、市川地区の被災状況やクロマツが漂流物を食い止めた写真等の木製パネルをつくった。田中会長は「ベンチを通して震災の記憶を長く語り継ぎ、併せて地場の木材の良さを感じてほしい」などと話した。
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