遠婚時代:しあわせのかたち/7止 「結婚」のカタチ離れて
毎日新聞 2013年01月10日 東京朝刊
2人は、東京都内の大手自動車メーカーに勤務する同僚。00年12月からつき合い始め、1年後、ケンジさんがプロポーズした。その後、ケンジさんが病気で倒れ、1年間入院。「妻は夫の籍に入り、夫に守られるもの」と思っていたチエさんは、考えが変わった。「病気や失業で、どちらがいつ倒れるか分からない。一方的に守られるのでなく、互いが自立して支え合う関係が夫婦の本当の姿なのではないか」。ケンジさんもチエさんの考えを支持した。
08年秋、チエさんは米カリフォルニア州へ転勤した。米国では結婚後、夫婦別姓はもちろん、互いの姓をつなげて名乗ることもできる。夫婦どちらかの姓を名乗る日本式の結婚には違和感を覚えたチエさんも「対等な関係で向き合える、こんな婚姻スタイルならいいな」と思った。09年秋、籍を入れない事実婚を念頭に、ケンジさんは「結婚しよう」と2度目のプロポーズをした。
11年7月、同州の裁判所で結婚の手続きを済ませ、米国の結婚証明書を取得。同年9月に帰国し、翌月、長男を出産した。ただ、日本では婚姻届を出しておらず、今後も提出するつもりはない。「人生を共に歩むパートナーがいるのはすてきなこと。ただ、夫婦どちらかが相手の家に入るという感覚の日本式の結婚が、私には合わなかっただけ。夫がいても子どもができても、私の人生は私のもの。家族を理由に何かをあきらめたくないし、彼にもあきらめてほしくない」
長男はケンジさんが認知し、チエさんの姓を名乗っている。いつか息子にも、両親の選択を説明するつもりだ。理解してもらえるかどうかは、今後の自分たちの生き方次第だと思っている。【中村かさね】=おわり
◇夫婦別姓制度に反対根強く
法制審議会は96年、夫婦が同姓・別姓を選べる選択的夫婦別姓制度導入を含む民法改正案を答申。これを機に事実婚をめぐる議論が高まった。法案提出までこぎつけたこともあったが、「家族の一体感を損なう」など反対も根強い。
内閣府が20歳以上の男女5000人に行った「家族の法制に関する世論調査」(06年)では、選択的夫婦別姓制度導入が「必要ない」は35%で、前回(01年)の29.9%を上回った。一方、「構わない」と答えたのは36.6%で、前回の42.1%から5.5ポイント減少。国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査(10年)によると、18〜34歳の未婚男性の73.5%、未婚女性の67.4%が「男女が一緒に暮らすなら結婚すべきだ」と答えた。