遠婚時代:しあわせのかたち/7止 「結婚」のカタチ離れて
毎日新聞 2013年01月10日 東京朝刊
◇婚姻届出さず家族に 対等な関係尊重し合い
さまざまな理由で、結婚から遠ざかる未婚者たち。一方で、パートナーと出会いながら、「結婚」という制度上の形式に、あえて距離を置いて生きる人たちもいる。
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今月2日。箱根駅伝の号砲をテレビで聞いた後、東京都世田谷区の公園で白い息を吐きながら並んで走る男女がいた。都内の私大教授のユキコさん=仮名=(49)と、料理人のアキラさん=仮名=(49)。一緒に暮らし始めて16年。互いにかけがえのない存在だが、籍は入れていない。
出会いは17年前。都内の行きつけのバーで、何度か顔を合わせるうちに意気投合した。学問研究と料理。互いに未知の世界で勝負する姿に刺激を受け、引かれ合った。
それぞれの両親に結婚相手として紹介したが、式は挙げず、婚姻届は提出しなかった。当時、ユキコさんは別の大学の専任講師。すでに論文を出版するなど、研究成果を発表していた。職場で旧姓を使うケースは珍しく、改姓すれば積み上げたキャリアが途切れるような気がした。「結婚後も旧姓のままでいたい」。妻は夫の姓を名乗るのが当たり前と思っていたアキラさんは驚いたが、「彼女のような仕事をしていれば、もっともかも」と思い、ユキコさんの気持ちを尊重した。
30代後半、子どもがほしかった。でも、現在の大学に転職したばかりで、妊娠はためらわれた。アキラさんも独立に向けた準備で忙しく、結局、タイミングを逃した。
03年、アキラさんは独立し、都内に念願の自分の店をもった。開店を機に、2人は「遺言書」を作った。弁護士に依頼し、財産の処分の権限や相続の権利を明記した。「法律上は他人の2人。だからこそ、きちんとしておきたかった」。06年には世田谷区に100平方メートルのマンションを7000万円で購入。ローンは、「婚約者」として互いが保証人となり、共同名義で返済計画を組んだ。生命保険は「内縁」関係で手続きし、互いを受取人にした。2人の死後、遺骨は両家の墓に分骨して納めることにしている。
住所は同じでも、世帯は別。法律上は赤の他人だ。ユキコさんは言う。「でも、戸籍が一緒の夫婦と何も変わらない。いろいろな家族のカタチがあっていいと思っています」
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ケンジさん=仮名、東京都世田谷区=(40)とチエさん=仮名、同=(36)も、元の姓を名乗る事実婚のカップルだ。