社説

所信表明演説/安全運転で消えた安倍色

 二度目の首相就任から1カ月余。思惑通り円安、株高が進み、経済立て直しに国民の期待が膨らむ。政権の滑り出しは、上々と言っていいだろう。
 だが、どこか慎重。持論を抑え込んで安全運転に専念するのは、今夏の参院選対策のためだろう。民主党が反転攻勢の足掛かりさえ見いだせずにいる中、首相の言いぶりには余裕も感じられる。
 第183通常国会が28日召集され、安倍晋三首相が就任後初となる所信表明演説を行った。
 2013年度予算案提出後の3月にも、施政方針演説が見込まれている。「本編はそちらで」ということなのか、きのうの演説は簡潔ではあるけれど、物足りなさが残る内容だった。
 「危機突破」を掲げながらも、それを持論である憲法改正や集団的自衛権行使容認と結び付ける短兵急な論法を慎んだ。
 演説で首相自身が触れた通り、6年前の政権投げ出し批判を「教訓として心に刻んで」いることが影響していよう。衆院選大勝が、民主党政権の敵失によってもたらされたことも多分、理解している。
 理念を語るより、実利を求める。首相の謙虚さは、民意が半信半疑であることを見極めた上での政治的判断にほかならない。
 他方で、デフレ脱却を政権最大の目標に掲げるのは、それが国民の一大関心事でもあるからだ。共同通信社の直近の世論調査によると、安倍内閣の支持理由は「経済政策に期待できる」が33.7%で最も高かった。
 経済政策でロケットスタートを切った首相は財政出動に加えて、日銀の金融緩和、6月までにつくる成長戦略の「三本の矢」で成長率の底上げを目指す。
 7月に予定される参院選は、いわば「中間考査」。これで衆参のねじれを解消できれば、首相は憲法改正など「戦後レジーム(体制)からの脱却」に踏み込む腹づもりだろう。
 教育改革の司令塔として設置された「教育再生実行会議」も、当初はいじめ対策など社会的関心が高いテーマで成果を出そうとしている。だが、その後は「道徳教育の充実」など本丸に切り込むのは必至だ。
 保守色の強い「安倍カラー」を脱色し、衆参両院で多数を取ったら、宿願達成に動く。これが安倍政権の基本戦略だろう。
 しかし、参院選対策のために自身の政治哲学を封印するのだとしたら、それは便宜主義にすぎない。小出しの政権構想など、あり得ない。首相はビジョンを披歴することをためらうべきではない。
 首相は東日本大震災からの復興を加速させることを強調した。既に復興予算の大幅増額や復興庁の機能充実方針が示されており、後は成果を目に見える形で出していくことだ。
 演説で、被災した小学生が「小学校を建ててほしい」と語ったエピソードを紹介した。「過去を振り返るのではなく、未来への希望を伝えたことに強く心を打たれた」と首相。今度は政治が希望を提示する番である。

2013年01月29日火曜日

Ads by Google

△先頭に戻る

新着情報
»一覧
特集
»一覧
  • 47NEWS