大量虐殺的強姦

国連人権促進保護小委員会 第56回会期
2004年7月24日-8月13日
議題3:司法制度、法のルールと民主主義

発言者 前田 朗
国際人権活動日本委員会
2004年8月10日
ジュネーブ

「大量虐殺的強姦」

 議長、国際人権活動日本委員会(JWCHR)は、法的証拠、証拠ルール、捜査当局の態度、性犯罪者の遺伝学的データベースの創設などを含め証拠収集に焦点を当てたMs.Lalaina Rakotoarisoaによる性暴力に関する罪および責任を確立する困難さについての拡張作業文書(E/CN.4/Sub.2/2004/11)を歓迎します。

 われわれはまたMs.Francoise Hampson による重大なる性暴力行為の有罪化、捜査、訴追に関する作業文書(E/CN.4/Sub.2/2004/12)も歓迎します。Mrs.Hampsonはその見事な作業文書で戦時の状況における重大な性暴力の有罪化、捜査、訴追の困難性の理由を研究しています。これら犯罪はどちらもさまざまな地域で異常に広範囲に、また、高頻度で発生しています。この犯罪が広範囲で発生しているため、犯罪者に対する有効な法的手段がとられていません。外国で行われた行為に対する司法権の問題など、たとえこの犯罪が法的困難性を引き起こすことがあるのかもしれないが、このような不作為がこれらの犯罪を重大視しないという一般的な怠慢の原因になっています。

 この点からわれわれは以下の事実、すなわち、「戦時に国家庇護のもとに行われた虐殺的強姦」が典型的な不処罰の例であることにご注目いただきたいと考えます。

 議長、女性に対する人権侵害の言語道断の例としては、戦争の武器として性的暴力を利用することがあります。

 したがって、戦時における女性に対する暴力は女性に対する暴力に関する前特別報告者Ms. Radhika Coomaraswamyの主要な問題のひとつでありました。

 20万人ものコリア、中国、台湾、フィリピン、オランダ、インドネシア、マレーシアの女性たちが第2次大戦中「慰安所」においていわゆる「慰安婦」として強制的に働かされました。これらの女性たちの圧倒的大部分が自らの不運のなかで生き延びることができませんでした。彼女たちは、病気、非人間的仕打ち(しばしば拷問も含む)、また、栄養不良などで閉じ込められた兵舎で死んでいったのです。その他、戦争末期、殺されたり、前線で放棄されたりしたものもあり、それらの多くは、生き残りの被害者の証言によれば、最後の爆撃下でさえ、たこつぼのなかで犯されました。  

 Ms. KIM Hak-Sungは1991年に自分が性的奴隷であったことを告白した最初の韓国女性となり、彼女の告白はこの問題に歴史的展開をもたらすことによって決定的役割を果たしました。被害者が勇気をもって告白することはその後の最近の性暴力の被害者がその事実を訴えるときの勇気を与えています。これらの女性の努力はこれらの犯罪の不処罰に終止符を打つために貢献しているのです。

 まさに、ICCローマ規約およびICTYICTRの判決に強姦や性的虐待の特別の項目を挿入することは女性の権利を擁護すること、および、戦時における女性に対する暴力、およびその犯罪者への不処罰に終止符をうつことへの重要なステップなのであります。

 このような多数の前進があるにもかかわらず、日本政府は女性に対する暴力の前特別報告者Ms.Coomaraswamyの報告書(E/CN.4/1996/53/Add.1, E/CN.4/1998/54 and E/CN.4/2003/75)、また、制度的強姦、性的動例制度、奴隷的慣行に関する特別報告者 Ms. Gay McDougallの文書 (E/CN.4/Sub.1998/13, E/CN.4/Sub.2/2000/21) および人権小委員会の決議に耳を貸そうともしていません。

 特別報告者たちは、帝国日本の軍による性的奴隷制は国がスポンサーとなった女性に対する暴力の例であると明白に述べています。日本政府は可能な限りすべての事実を公開すること、犯罪を認めること、誠実な自己反省と謝罪をおこなうこと、個々の被害者に国家賠償を行うこと、これら経験をすべてわれわれの歴史の一部として記録すること、そして、次代に教訓として引き継ぐことなどの責任を果たさねばなりません。

 さらに、経済的、社会的、文化的権利委員会は2001年9月に、日本の第2回定期報告書(E/C.12/1/Add.67)に関する最終見解において日本軍による性奴隷の問題に対する懸念を表明しました。

 特別報告者たち、社会権委員会、また、大多数の被害者は、日本政府がこれらの問題についての道義的責任を果たすために行ったさまざまな活動を認めながらも、これらでは不充分であると述べています。彼らは戦前の日本政府には、国家として公にかつ正式に謝罪し、被害者に賠償する道義的責任ばかりか法的責任まであり、という観点から批判しています。しかしながら、不幸にして、日本政府はいまだ何も行っておりません。何か行ったとするならば、日本政府はMs. Coomaraswamy がその報告書 (E/CN.4/2003/75)で述べたように「戦時強姦は戦争犯罪や人道に対する罪ではない」と主張したことのみです。日本政府のケースは性的奴隷制に関する罪や責任を確立するための困難を示すよい例になっています。

 われわれは2003年第74回会期におけるILOの条約勧告適用専門家委員会の報告書を想起したいと考えます。専門家委員会は1996年以来5度目の決定として性的奴隷制度は日本政府が1932年に留保なしに批准したILO条約第29号(強制労働)の違反を構成すると再確認しました。ILOの委員会は以下のように述べています。

 「この条約に関連して(日本)政府からの報告書が2004年度内に提出されることになっており、委員会は政府に対しこの時点で上記通報についてのコメントおよびこの問題についての新規の決定、法制、政府の行為について発生するいかなる変化についてもコメントすることを要請する」(2004年発行、ILO CEACR:1930年第9号強制労働条約に関する個別コメント:日本)。

 われわれはこの点で日本の地方裁判所で本年3月26日に出された判決を歓迎する。新潟地方裁判所は日本政府と会社に対し、第2次大戦中日本で強制労働させられた中国人に対して賠償として8,800万円を支払うよう判決しました。日本の裁判所が政府と会社に戦時奴隷的労働に対し支払いを命じたのは最初であります。

 議長、これら性的奴隷制の犠牲者たちは現在でも重大な身体的損害および精神的トラウマに悩まされています。彼女たちは人権侵害や尊厳の侵害に苦しんでいます。彼女たちの尊厳はこれらの責任者からの誠実な罪の認識と相応な賠償がない限り回復されないでしょう。時間はあまり残されていません。1940年代にいわゆる「慰安婦」として奉仕させられたMs. KIM Sun-dok (83 )はソウルの病院で本年6月30日亡くなりました。自宅で日本兵に強姦され、フィリピンで1年間性的奴隷として扱われたMs. Gertrude Balisalisa (84)は、3週間前の7月19日に死去しました。だれがすべての生存者の死亡を待ち望んでいるのでしょうか?

 結論として、われわれは小委員会が犯罪者に対する処罰の権利および性的奴隷制度の被害者に対する社会的な救済方法をさらに推し進めることを要請します。

 ありがとうございました。