Androidが売れるのは「良いから」じゃなくて「安いから」
良い端末もあるけど、それは主力じゃないと。
スマートフォン市場で、Androidのシェアが拡大し続けています。その理由について、米Gizmodo編集部のサム・ビドル(Sam Biddle)記者は、必ずしも「Androidが良いから」ではなく「安いから」では? と考えています。その考えを裏付けるデータもあるようです。
以下、サム記者です。
iPhoneが生まれたとき、それは事実上唯一のスマートフォンにして誰もが欲しがる製品でした。それまで存在しなかったものだからです。スマートフォンといえばiPhoneでした。数年後、アップルはグーグルに負け始めています。少なくとも、スマートフォンの販売台数という意味では。一体何があったんでしょうか?
お金のない人たちが、スマートフォン市場に登場したんです。
いつだって高価で、みんなが欲しがつ、素敵に面取りされたiPhoneと、その他大勢のスマートフォンの違いは明らかです。iPhoneはユニバーサルに良いものと認識されています。Androidフォンもかなり良い、または価格に見合う程度に良い、と思われています。そしてどんな新しい機能よりも、その価格こそがAndroidの最大の特長です。グーグルに人民のためのスマートフォンメーカーの地位を与え、Androidフォンを民主的ガジェットたらしめているものです。一方でアップルは、ブルジョア的地位をますます強固にしています。
iPhoneが発売されたその日から、それは誰もが憧れるブルジョア商品でした。高価で、派手じゃないのにファンシーで、小金持ちの白人たちはそれを自分の家の神童のように愛しました。それは俳優とかモデル、ラッパー、学者、収入以上にぜいたくに暮らすグラフィックデザイナーといった人たちのスマートフォンでした。歴史上、iPhoneほどに階級を表すガジェットはありませんでした。
というのも発売当初の価格は、4GBモデルが500ドル(約4万4000円、為替は現在のレート、以下同)、8GBモデルが600ドル(約5万3000円)でした。2年間の契約付きでその価格です。それでも数十万台が売れ、AT&Tのサーバーがアクティベーションの負荷に耐えられずダウンしたほどでした。
その後Android陣営からも最初のスマートフォンを200ドル(約1万7700円)前後で売り出しましたが、非常にニッチなギーク以外は気にもかけませんでした。
でも今、状況ががらりと変わっています。Androidフォンが、世界中でアップルを追い抜いています。今月初め、サンフランシスコ・クロニクルでは以下のように伝えています。
IDCの調査によると2012年7~9月期、アップルやサムスン、HTC、RIMといった世界の製造業は1811万台のスマートフォンを出荷。IDCではその75%にグーグルのAndroid OSがインストールされているとする。アップルのiOSは全体の15%に搭載。Androidの市場シェアは、前年同期比で91%上昇した。
これはものすごい成功です。Androidの質も向上したとはいえ、売れている理由はその価値だけではありません。また、Nexus 4やGalaxy S IIIといった端末はハードウェアとしても、スマートでよく考えられたソフトウェアとしても優れていますが、それらがAndroid最大の武器ではありません。
Androidの成功は、ソフトウェアや精鋭ハードウェアではなく、ZTE WarpとかLG Motionとか、サムスンのCaptivateといった、それぞれ100ドル(約8800円)、50ドル(約4400円)、1セント(約88銭!)とかの端末が実現しているのです。Androidのシェアは、こういった最低限の、二流の、ドリトスの袋とかバーゲンのセーターみたいに売りさばかれる端末が作り出しているんです。その価格は売るためのものであり、iPhoneのようにじらしたり、欲しがらせたりするためのものではありません。そしてそれがうまくいっているんです。
Pew Research Centerが行った「インターネットと米国人の生活プロジェクト」の最近の研究では、次のようなことがわかっています。つまり、Androidはお金のない人が選ぶスマートフォンなんです。調査回答者のうち、年収3万ドル(約265万円)以下の人のうち、Androidユーザーは22%でしたが、iPhoneユーザーは12%に過ぎませんでした。もう少し年収が上の層でもこの傾向が見られ、年収が5万ドル(約442万円)以下の人ではAndroidが23%、iPhoneが18%でした。これらのデータは、収入が少ないほどAndroidを選ぶ確率が高いことを示しています。
そしてそれは単に収入だけの問題ではありません。年収と相関する他の社会経済的要因も同じ傾向を示しています。米国のセンサスのデータでは、黒人とヒスパニックの世帯の収入(そして支出)の中央値は、白人世帯のそれより10~20万ドルも低いとされています。そして統計的に見て、黒人やヒスパニックの世帯ではAndroid利用率が高いのです。スマートフォンユーザーのうち、黒人やヒスパニックの人たちのAndroidユーザーはiPhoneユーザーより12ポイントも多いんです。また、どの人種でも高校卒業以下の人がAndroidユーザーの38%を占めていて、iPhoneユーザーでは31%です。
これは偶然ではありません。Boost MobileやMetroPCSといった、低所得者に多く利用される安価なプリペイド携帯キャリアのチラシはAndroid一色です。サムスンのようなアジア企業でさえ、低所得者層を惹きつけようとしています。NBCのニュースサイトGriotではこの点を昨年指摘していました。
「家族写真」と題する(サムスンの)新しいコマーシャルでは、サムスンのGalaxy Note IIで休暇写真を撮る家族が描かれる(下の動画参照)。そのほとんどがアフリカ系アメリカ人。「家族写真」はサムスンがアフリカ系アメリカ人を広告に起用する最初の例ではない。11月にはSports IllustratedでSportsman of the Yearに輝いたレブロン・ジェームズ(プロバスケットボール選手、黒人)もGalaxy Note IIのコマーシャルシリーズに出演、そこではマイアミの都会的黒人コミュニティが映し出された。レブロンは広告の中でGalaxy Note II片手に自分の日常を見せて回った。マイアミの豪華な家での朝食や、街中で立ち寄るフードトラック、地元の黒人向け理髪店での散髪、そして彼の所属するマイアミ・ヒートの試合。
サムスンがアフリカ系アメリカ人をターゲットとしたのはまさに正しい。彼らはスマートフォン市場でもっとも急速に拡大しているデモグラフィックだからだ。
一方、アップルが最近白人以外で広告に起用したのは、誰もが愛するサミュエル・L・ジャクソンだったり、ウィリアムズ姉妹(ともにプロテニス選手)だったりです。いずれも黒人ですが、きわめて裕福です。それ以外は、白い手のクローズアップとか、白人のゾーイ・デシャネル(画像左の女優)といった具合です。
アップルは、低所得者層向けゲームには加わらないでしょう。理由の一部は、頑固(または賢明)すぎて、HTCとかモトローラとかより安い価格で価格重視のユーザーを取りに行こうとはしないということです。それがiPhoneの神秘性を保っているのかもしれませんし、だからもうかるのかもしれません。iPhoneはつねにAndroidより高価な選択肢でしたし、その地位から降りると考えられる理由はありません。
Androidメーカーには、そんな地位も制約もありません。彼らは自由にAndroidを使えて、グーグルには一銭も払わず、そこで節約した分安い端末をユーザーに提供できます。そんな端末のほとんどは、チープで遅くて全体的にダメですが、それでもスマートフォンです。
何百万人という人たちにとっては、それで十分なんです。誰もが最先端を求めているわけじゃありません。安価なAndroidフォンでも、InstagramやTwitterを使ったり、音楽を聞いたりメールをチェックしたりできます。僕らはつい、「スクリーンの大きいベストな電話以外、誰が使うの?」とか、「2コア以下の端末、何それ?」なんて小馬鹿にしがちです。でもそれは、ナードたちのシリコンの塔の中の声なんです。200ドル、300ドルという電話も買えない人がたくさんいて、これから買えるようにも多分ならないんです。そんな多くの人はただ基本的なことができるものを求めていて、RetinaディスプレイとかLTEとかはいらないんです。そして最低限の費用しか払いたくないんです。
Android端末を安価にして普及させるグーグルの戦略は正しいかもしれませんが、同時に破壊的な戦略でもあります。グーグル製品を使わせるためになるべく多くの手段を用意し、スマートフォン市場をじゅうたん爆撃してるんです。品格なんて知らない、とにかくユーザーを取ってこいという戦略です。アップルは資本主義の歴史全体において価値ある企業として残るかもしれませんが、グーグルはどうでしょう。でも、Androidがメーカーに採用され、安価なガジェットのOSのであり続ける限り、彼らはアップルに対する脅威です。いつかは僕らの方が、マイノリティみたいに感じられてくるのかもしれません。
Sam Biddle(原文/miho)
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