インチキ大学・ニセ学位(続)
この記事は2005年4月27日にアルクのサイトにある「ビジネス英語雑記帳」に掲載した記事ですが、文中登場するアナハイム大学からの執拗な抗議にあって、アルクの担当者が困りきっていたので、気の毒になり、こちらに移しました。この「アナハイム大学」、今でこそようやく認可が下りて正規の教育機関になったものの、認可を受ける前の数年間、「大学」と称して学生を集めていたという事実は厳然としてあるわけで、今になって、それを知られないようにしようというのは姑息です。いわば、無資格診療をしていたニセ医者がようやく免許を取ったところで、過去の汚点をもみ消そうとしているようなもので、かりにも大学を名乗る機関のやることではないと考えます。
ビジネス英語雑記帳の4月14日号に載せた「インチキ大学、ニセ学位」という記事の中で、ニセ学位は社会に害を及ぼしうるからこそ問題なのだと書きましたが、果たせるかな、今、社会面をにぎわせている薬事法違反事件の主犯格、足立なんとかという女性社長は、我が国でよく名前の出るディプロマミルで、この種のものとしては、おそらくパシフィックウェスタンと双璧をなすホノルル大学でインチキ博士号を取得して、それを売り物にしていました。
http://khon.at.infoseek.co.jp/chosha/a008.htmlでの記述を見ると、米国ハワイ州ホノルル大学認定健康科学博士号取得、とあります。
このホノルル大学というのは何か憎めません。いかにもありそうな大学名だし、ハワイ大学に入りそびれた連中がのんびりと南国で勉強している感じがあって。ただ、実際は、キャンパスがなく、従って教室や図書館もなく、オフィスだけと言います。そんな得体の知れない連中に4000ドルぐらい払うと誰でも博士号をもらえてしまうのです。
実は某大手出版社のサイトに、堂々と著者名のあとに(ホノルル大学教授)と表示してある例があるのです。上記記事で、出版社がこういったインチキ学位ないし大学を、知らないとは言え、後押しする格好になっているのは問題ではないかと指摘しましたが、まるで問題意識がないようです。語学物を出されている出版社の方々は、今一度、例のインチキ大学リストをご覧になり、ご自分たちの関与している執筆者達の経歴を洗い直してもいいのではないでしょうか。
食品の不当表示が一時社会問題化しましたが、調べる手だてのない消費者の信頼を裏切っているという意味で、本質的にはそれに通ずるものがあります。法務部門まである立派な出版社が万一、こうしたディプロミルに関わっていたことが露見するに至れば恥の上塗りというものでしょう。
なぜ、英語関連の雑録的ブログであるこの場でインチキ学位をとりあげるかと言えば、英語関連の著者にこの種のディプロマミルがらみの肩書きをうたっている人が多くて気になるからです。一生懸命、英語を勉強しようという人にしてみれば、学位あるいは教授の肩書があれば、一段と信頼できるような気がしてそういった本を買うことでしょう。権威に弱いわが国の風土を考えるとなおのことです。だからこそ、その学位や肩書きが空っぽなものでしかないのは一層罪深いと言えるわけで、知る由もないまま裏切りにあっている人々が気の毒でなりません。
追記:
(1)このディプロマミルの問題については、メアリー加藤という方が実際の例を素材にした、読み応えのある シリーズ物を書いてらっしゃいます。実におもしろいと共にその浸透ぶりには考えさせられます。圧巻は、デイブスペクターや戸田奈津子といった有名人が「博士」の肩書き付きで嬉々としてポーズを取っている何とか同窓会理事の名簿です。
(2)有名人と言えば、ウォーキングの権威とされている、デューク更家さん。Wikipedia のエントリーを見ると、「学位は体育学博士(ニューヨーク国際学士院)。<中略>2005年より池坊短期大学教授。2006年4月より出身校の大阪経済大学の客員教授を務める」となってますが、この何とか国際学士院というのは、関係者の間では知られたディグリーミルですので、このお方、善人っぽいだけに、心配になります。
(3)オンライン版の2008年1月10付の毎日新聞が文科省による調査結果を報じており、それによると採用や昇進に際して大学当局にニセ学位を申告していたケースが計44校49人あったとしています。
(4)最近登場したニセ大学としては「ホーソン大学」が目を引きます。さきごろ韓国で、女優でありながら明知専門大学の教授も務めていたチャン・ミヒ(張美姫)という人物が検察当局に摘発されていますが、そこで問題となったのがホーソン大学卒という学歴。2007年8月20日付オンライン版朝鮮日報(英語)が報じているところによると、調べたところ、 Hawthorne University, meanwhile, was found to be an unaccredited school. (一方、ホーソン大学は無認可の大学と判明した)そうです。ところで、不思議なことに、この謎のホーソン大学の所在地をこともあろうに日本としている上、自分がそこの応用言語学の教授だとしている人のウェブページがあります。左サイドバーにある Yesterday という項目をクリックすると、Professional Experience として、1996- Professor of Applied Linguistics, Hawthorn University, Japan とあります。事情通の方にうかがうと、実は英語教育の専門書を何冊も書いている上、神戸外大がレクチャーに招聘し、肩書き「デイビッド・ヌーナン博士は1994年から香港大学応用言語学部の主任教授、またニューポート・アジア・パシフィック大学の教育学部大学院の学部長、グローバル・イングリッシュ・コーポレーションの学術アドバイザーの職にもあり」などと認識不足のゆえにニセ学位の権威付けを手伝ったりしています。というのも、ここで出てくる「ニューポート・アジア・パシフィック大学」(その後、アナハイム大学と改称)、ちょっとでもニセ学位のことを知っている人なら誰でも知っているインチキ大学の老舗です。神戸外大ともあろうれっきとして大学がこんな認識不足でいいのでしょうか。
何だか有名そうなご仁なので、ネットで検索したら、もっともっとびっくりする事実が。なんと「ニューポート・アジア・パシフィック大学」の後身、「アナハイム大学」の学長におさまっているじゃないですか。ちゃんとした大学人(と思われる人)のやることとは思えません。
なお、このアナハイム大学、NIkkei Net も眼力がないと見えて、「アナハイム大学(カリフォルニア州教育局認可)は、インターネットを使い日本にいながらにして約15カ月で米国大学のMBAを修得する事が可能です」と紹介していますが、この「カリフォルニア州教育局認可」がくせものです。
オレゴン州の教育当局が消費者保護のために公開しているブラックリスト = list of unaccredited degree suppliers には、このアナハイム大学が掲載されており、注記に、 Has only temporary approval from California.(カルフォルニア州から暫定的認可を受けているにとどまる)と記し、注意を呼びかけているぐらいです。なんであれ、州政府の認可があったからと言って、一般に通用する学位でないという事実に変わりはありません。だからこそ、オレゴン州政府もうかつな消費者が信じてニセ学位を使わないよう(正規の学位でない旨断らずにニセ学位を使うとオレゴンでは犯罪になります)、リストに入れて注意を喚起しているのです。
なお、Anaheim University の場合、いちおうプログラムがあり、ただ学位を売っているわけではなく、微妙です。グレーゾーンにあると言えそうです。この点、このブログの記事が英語教育関係者の公平な見方と言えるのかもしれません。
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