(164)ハナ子が死に1頭だけに 涙流し続けた太郎
大きな体がこちらに近よってくる。鼻を高く上げる。食べ物か何かがほしくて、ねだっているように見える。その目はとてもやさしそうだ。
愛媛県立とべ動物園のアジアゾウ、太郎。今ではすっかり元気になった
愛媛(えひめ)県立とべ動物園にいるオスのアジアゾウ、太郎(たろう)だ。5年前までは、メスのハナ子もいて2頭でくらしていた。太郎とハナ子は37年前、同じ1歳のとき、愛媛県にいっしょにやってきた。
担当(たんとう)の松浦友貴(まつうらゆうき)さんによると、ハナ子はあいきょうがあって人間が好き、レーズンパンが大好物で太郎のえさを横取りするのもじょうずだった。松浦さんともすごく仲良しだった。
ハナ子は病気になり、松浦さんや獣医師さんたちが一生けんめい治療(ちりょう)したが、死んでしまった。
太郎のようすが変わった。40日間も目から涙(なみだ)を流し、人にあまえるようになった。
1頭になって動くことが少なくなったせいか、重い体をささえる足のうらの状態(じょうたい)が悪くなった。ハナ子が生きていたときは、横になってねていたけれど、横にならなくなった。
松浦さんは少しでも歩くように、くふうして運動場の遠くにえさを持っていったり、えさをかくしてさがさせたりした。1年ぐらいたって、ようやく元気をとりもどした。
動物園の説明板には「もう泣くな太郎」と書いてあった。それは松浦さんの自分への言葉のようにも思えた。(文・写真、佐々木央)
佐々木央(ささき・ひさし)1956年青森県生まれ。共同通信編集委員。社会部で教育問題や少年事件を長く取材してきた。著書に若者の生きづらさを取材した「未来なんか見えない 自傷する若者たち」(共同通信社刊)がある。
リンク
- お宝映像(いきもの)
- お宝映像(南極)
- ガラパゴスの不思議な生き物
- 九州どうぶつランド
- ともにくらす コウノトリ野生復帰
- トキ便り
- いきもの変動
- 恐竜ワールド2009
- 島の仲間たち2009
- 旭山動物園