WBC球の感触を確かめた【拡大】
乾いたミットの音が、ブルペンに響いた。投げていたのは、1軍入りを目指す若手ではない。能見だった。キャンプ開始5日前。まだ、ファンもまばらな中で、エースはブルペンに一番乗り。まっさらな黒土を踏みしめ、マウンドの感触を確かめた。
「まあ、まだこれからですね。まあまあ、これからです」
今年初のブルペン投球も左腕にとっては、まだ納得する内容ではなかった。それでも、投じる力強いボールからは順調な仕上がりが感じ取れた。
沖縄先乗り合同自主トレ初日。キャッチボールなどで軽く体をほぐしたあと午前10時30分、誰よりも早くブルペンに足を踏み入れた。まずは、WBC公式球。捕手を立たせた状態でチェンジアップを投げると通常よりも大きな変化を見せた。捕球した片山ブルペン捕手も「オー!! エグいね」と思わず声を上げるほど。サークルチェンジに似た軌道を見せたボールに納得の表情。その後は統一球でも投球。WBC公式球で47球、統一球では16球を投げ「いろいろ感覚を確かめながらやっているんで」と投げ分けた意図を説明した。
まず、照準を合わせるのは日本代表候補に選ばれたWBCだが、その後のシーズンも当然、見据えている。和田監督からは「調整が順調なら、そのポジションに座る、その日を迎える可能性が一番高い」とすでに3年連続の開幕投手に指名されている。
WBCの決勝戦は3月20日(日本時間、サンフランシスコ)。同29日のヤクルトとの開幕戦(神宮)への調整は難しくなるが、それはエースも承知している。2つのボールを投げ分けるのは、どちらも同じ比重を置いているからだ。
「まだこれからです」
8年ぶりのリーグ優勝へ、能見の力は必要不可欠。世界でもセ界でも頂に立つために沖縄で左腕を振り続ける。 (西垣戸 理大)
(紙面から)