自作の衣装に身を包む人も現れたアニメファンらの餅つき会=昨年12月、大町市平のYショップニシで
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テレビアニメの舞台になった地域が県内でも増え、アニメファンから「聖地」として注目されている。「巡礼」と称して訪れるファンが広がり、地域によっては観光産業を支える例も。十年以上前からファンを集め続ける大町市の木崎湖周辺は聖地のはしり。ファンを引きつける魅力はどこにあるのか、周辺の動きを追った。
昨年十二月、木崎湖前にある「Yショップニシ」の駐車場に、グッズを販売するファンのフリーマーケットなどが並んだ。そばでは餅つきも。「年末らしく餅つきをやっては」とのファンの提案を受け、八回目を数える。
木崎湖が舞台になった二〇〇二年放映のテレビアニメ「おねがい☆ティーチャー」などでは、Yショップは「縁川商店」の名前で登場する。放映直後からファンが訪れるようになり、店主の西沢百合子さんは「なんでカメラで店を撮影していく若者がいるんだろう」と最初は首をかしげた。
県外から来た客に「アニメに出てたよ」と言われ、店が登場しているのを初めて知った。「放映が終われば来なくなる」と思っていたが若い客は増え、コスプレ姿の人も現れた。今では六割ほどはファンという。
湖畔に位置する木崎湖キャンプ場もファンの客が半分ぐらいに広がった。管理人の荒井利広さん(39)は「アニメ自体が面白かった。登場した木崎湖周辺の風景は現実と同じ雰囲気を持って描かれた。関東圏でこういった風景が少ないのも魅力だったのでは」と分析する。
周辺で開くイベントも、Yショップニシの餅つき会のようにファンからの提案で始まったものが多い。昨年は「おねがい」放映十周年でトークショーなどが開かれたが、看板やステージ作りなどをやってくれるボランティアのファンが集まったという。荒井さんは「ファンとの人間同士の付き合いの中から生まれてきた。『まちおこし』のためでしかないとなると、こうしたファンは来なくなるだろう」と推測する。
繰り返し訪れる「リピーター」が多いのも特徴だ。餅つき会に自作の衣装で参加した東京都の男性会社員(45)は毎月のように訪れる。「放映翌年から来ている。作品の中にいるよう。最初からフレンドリーにしてもらったし、いつ来ても仲間に会える」。Yショップで働く舘友希江さんは「何か特別なことをしているわけではない。でもファンの皆さんの聖地への愛着ぶりは尊敬している。田舎の親戚みたいな距離感でいられたらいい」と話し、ファンとのごみ拾いを企画するなど交流を深める。
県内では小諸市や上田市などでも、アニメ映画やテレビアニメの舞台になった地域にファンが訪れている。上田市では〇九年公開のアニメ映画に部分的に登場した上田城跡公園の観光客が、前年までの百万人弱から百四十万人に増えた。市の担当者は「歴女ブームなども影響はあったと思うが、アニメのインパクトも大きい」と推測。「従来あった観光地に新しい光を当てることにもつながる」と期待する。
長野経済研究所の担当者は「県内を訪れるアニメファンの推計は難しい」としながらも「舞台になった場所の観光を下支えしている面はあるかもしれない。今後、分析の対象にしていきたい」と話している。
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