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これはうp主の自己満のための小説ですので、文脈などに多少、おかしな点があるかもです。※パクリあり。
第一話 「ロンド・ベルの追撃」


<p>             UC0095</p>


<p>艦内警報が鳴っていた。緊迫した空気に包まれるブリッジを赤く染める警報灯が断続的に点滅し、一番端の席に収まるセンサー長の「敵艦、高熱原体を射出!モビルスーツと推定。数は三。急速に近づく」という声が耳朶を打つ。サイド6の領空へ最大船速で向かう「袖付き」に所属する軍艦があれば、〈パラオ〉の動向を監視する艦艇が動かないはずはない。サイド6に所属する小惑星〈パラオ〉はコロニー公社の人間でもなければ知らない辺鄙な衛星だが、新生ネオ・ジオンの残党勢力が潜伏するには打ってつけの場所だと言えた。しかし、地球連邦軍がそんなテロリストどもの巣窟を放っておくはずもなく、参謀本部を通じて、連邦軍の外郭新興部隊であるロンド・ベルの独立艦隊が動向監視のために派遣されているとは聞いていた。そして、今回もそのロンド・ベルに所属する艦艇から追撃を受けているという苦渋の状況だった。しかし、敵艦も安易に攻撃を仕掛けてきたりはしない。一年戦争時より中立を保ってきたサイド6は唯一、戦争被害にあっていないサイドだ。そんな場所へロンド・ベルに所属する艦艇がテロ防止法に基づいていたとはいえ、攻撃をしたともなれば、あちらにとって色々と厄介な事態に陥るのだろう。こちらもそれを承知でサイド6へと針路をとっているわけだが、そう簡単には見逃してはもらないそうだ。本艦から後方800キロメートル先から追撃する敵艦は三機の人型機動兵器―――モビルスーツを出撃させている。ということは、機動力で優れたモビルスーツで十分に距離を詰めた後、ピンポイントで機関を狙撃して一撃で撃沈するという敵の魂胆は概ね予想がついた。それを防ぐためにこちらもモビルスーツを出撃させ、敵の有効射程距離内に入る前に迎撃する必要があった。</p>


<p>「メヴィ・ウラ中尉を出せ!」</p>


<p>《ムサカ》級軽巡洋艦の艦長席に収まるトレンチ・ディフォが軽く舌打ちをしながら、ブリッジ中に響き渡る声を張り上げた。それに「はッ!」と応じたベレット通信長がコンソールに向き直ったと同時に、「敵艦は一。アイリッシュ級と推定」と報告の声を上げたセンサー長に思わず、「アイリッシュ級!?クラップじゃないのか?」と聞き返したトレンチの顔が歪む。アイリッシュ級と言えば、9年前のグリプス戦役で反連邦組織であった〈エゥーゴ〉のアーガマに続く、旗艦的な存在であった宇宙戦艦だ。モビルスーツ搭載能力も高く、連装メガ粒子砲1基、単装メガ粒子砲を5基も備えたアイリッシュ級は一隻での作戦行動も十分可能なために、グリプス戦役後も数隻が地球連邦軍やロンド・ベル隊によって運用され、クラップ級が普及した今でも第2線で活躍していると聞く。そんなクラップ級よりも達の悪い敵艦に、憤懣の吐息を漏らしたトレンチは「メヴィ・ウラ中尉、発進準備よろし!いつでも出せます!」と弾けた声にその表情を少し緩める。サイド6の領空に入るまで、残り十分弱。領空に入りさえすれば、敵は迂闊にはこちらに手出しすることはできなくなる。モビルスーツ・デッキで出撃待機中のメヴィ・ウラ中尉と通信を繋げたトレンチが艦長席の肘掛から伸びるディスプレイに、ヘルメットのバイザー越しに冷えた眼差しを送ってくる彼女の顔を見つける。</p>


<p>「目標はモビルスーツ三機。サイド6の領空に入るまで、頭を押さえてくれればいい。それと極力、爆発はさせてくれるな?サイド6の住民が見て、騒ぎになったら事だ。〈サラムーン〉への入港もやりづらくなる。」</p>
<p>(止むおえない場合は?)</p>
<p>「それはそれで撃破しても構わん。ムサカは最寄の暗礁宙域に待機させて、〈サラムーン〉への入港には収容してあるランチで向かう。いいな、あくまで時間稼ぎだ。無駄な消耗はするなよ?」</p>


<p>ディスプレイの中で冷静な顔をこちらに向けるメヴィの顔をチラと見、(了解)という冷淡な返答を聞いたトレンチはすぐに天井付近に設置されたメイン・スクリーンへその視線を転じた。プツン、という音が鳴ると、ディスプレイからヘルメットを被ったメヴィ・ウラ中尉の顔が消え、替わりに同じくヘルメットを被った二十前半と思しき男の不満そうな顔が1・5インチの画面に映し出された。彼の名は、ソデル・ソウェル。階級は少尉で、先月、ネオ・ジオン残党の新たな主力機ギラ・ズールと共に我隊に配属されてきたモビルスーツパイロットだ。モビルスーツの操縦技術の腕前はなかなかだと聞いているが、まだ隊の空気に馴染めていないらしく、落ち着きがないというのがトレンチにとっての彼の第一印象だった。「どうした?」と不満そうな顔をするソデルへ問うてみたトレンチは、(少佐。中尉一人で大丈夫なのですか?)という無線の中で響いた彼の声を聞いた。</p>


<p>(敵は三機だと聞いています。彼女一人で対応できるか…)</p>
<p>「心配は無用だ、少尉。君の腕を否定する訳じゃないが、少なくとも君よりも彼女のほうが腕はあるよ?」</p>
<p>

(なッ!?それは…ッ!!)と抗弁の口を開きかけたソデルの顔は見ず、少し直球過ぎたかな?と反省したのも一瞬、すぐに正面へ顔を戻したトレンチが「状況は!?」とベレット通信長へ問うた。間髪入れずに、「敵は未だ接近中。このままだと、後7分で接触されます!」と焦っていると分かる声に、振り切れんか、と口中で舌打ちをしたトレンチは、ブリッジの強剛プラスチック製の窓の外に赤く輝く一文字の光が斜め下へ通り過ぎるのを見た。なんだ?と胸中で自問した時には、バチバチと飛散したメガ粒子が艦体に打ち付ける独特の音を聞き、体を硬直させたトレンチが絶句する。まだ敵のモビルスーツとは300キロほど距離は空いているはずだが、さっきブリッジを掠ったメガ粒子の光は《ムサカ》級の艦橋部分の装甲を貫く程の威力はあった。敵艦が撃ったのか?と思考をめぐらせるも、すぐにいや、あり得ん!と頭のなかで否定する。</p>


<p>今の本艦は敵艦の針路の延長線上に存在し、その先にはサイド6のコロニー群が見えている。敵艦からのメガ粒子砲だとすれば今頃、数十基あるうちのコロニーの一つに着弾の光輪が見えるはずだが、そんな様子はない。ブリッジからはいつも通り、一定の間隔を開けた巨大な円柱状の人工物がそれぞれに設置された3枚の巨大なミラーパネルを回転させている光景が目に映る。再び、敵艦とは別方向から放たれたメガ粒子砲は《ムサカ》の艦体すぐ横を飛散粒子を打ちつけながら掠め、何もない宇宙の暗闇へ吸い込まれていった。その光の残像を脳裏に焼き付け、天井付近に設置されたメイン・スクリーンに目を転じさせたトレンチに(メヴィ・ウラ、《N・ジャジャ》出る!)という涼かな声が耳朶を打った。</p>


<p>                              ※</p>


<p>ハンガーの拘束具が外れ、紫色のモビルスーツ―――《N・ジャジャ》の騎士を彷彿とさせる機体が静かに降下する。降下、という言い方は天地のない宇宙では正しくないのだが、ハンガーから吊るされた機体が艦の真下から放出される感覚はそのようなものだ。小刻みに姿勢制御バーニアを焚き、《ムサカ》との相対距離が百メートルを超えたところでフットペダルを踏み込んだ。背部や脚部に装備されたメイン・スラスターが一斉に白色光を発し、《ムサカ》の慣性運動から抜け出した《N・ジャジャ》が反転すると、後方から接近する目標との距離を一気に詰めていった。</p>


<p>(先刻に伝えた通り、目標は三機。後続の二機は《ジェガン・タイプ》と判明。だが、先行する一機は照合データにはない機体のようだ。それに敵は大火力の武装を装備しているらしい。艦には近づかせるな!?サイド6の領空まであと8分弱。健闘をい…ッ……)</p>


<p>不自然に途切れたノイズ混じりの声は、おそらく《ムサカ》との距離が離れすぎたためだろう。センサー類に干渉し、その効果を皆無にしてしまうミノフスキー粒子をばら撒きながら、遥か後方に遠ざかった《ムサカ》の機影を一瞥し、すぐに視線を正面に捉え直した。未だ距離数百キロに隔たれているとはいえ、メヴィの頭の中には敵のパイロットの息遣いがかすかに聞こえ、それに不快感を覚えた彼女は狭苦しいコクピットで身動ぎした。直径一・五メートル程度のコクピットの内壁、周囲三百六十度を取り巻くオールビューモニターの映像が流れ、星の光の放流がメヴィの網膜を刺激する。方位の道標となる星座の光を強調し、実景より明るめに処理されたコンピュータ・グラフィックの宇宙がメヴィの周りを取り囲み、その一角に拡大投影された目標の数は、三つ。光学センサーが捉えられるぎりぎりの距離であるため、まだ粗いCGでしかないが、照合データに表示されたRGM‐89の型式ナンバーは明瞭に読み取れる。地球連邦軍の主力モビルスーツ、《ジェガン》。しかし、先行する一機は”アンノン”と表示され、拡大投影されたモニターでも機体色がミディアムブルーであることしか確認できない。なんだ、と短く呟いたメヴィは眉をひそめるも、踏み込んだフットペダルは緩めず、右手に保持したヒート剣付きビームライフルを即時射撃位置に固定させると、《N・ジャジャ》が頭部の単眼式の光学センサーをぎらりと輝かせた。</p>


<p>《N・ジャジャ》―――『第一次ネオ・ジオン抗争』時に、指揮官用試作モビルスーツとして少数が生産された《R・ジャジャ》を「袖付き」でニュータイプ専用の機体として改修したニュータイプ専用モビルス-ツである。旧ジオン公国軍のギャンの設計思想を受け継ぎ、白兵戦能力を重視して開発された本機は主武装としてヒート剣付きビームライフルや大振りのビームサーベルを持つ。このサーベルは近世ヨーロッパの騎士が持つ剣のように装飾され、鞘状のサーベルラックも付属している。両肩には内蔵武器の3連装ミサイルポッドのほかに可動式盾「バリアブルシールド」を装備。これは多方向からの攻撃に対応出来ると同時に、機体の機動性を高めるスラスターの役割も持っており、高い運動性を確保している。そして、コクピット周りには旧型ながらサイコ・フレームも採用されており、機体の反応速度も飛躍的に向上している。</p>
<p>機体は濃い紫色に塗装され、フル・フロンタル大佐の親衛隊隊長であるアンジェロ・ザウパーも同じ紫色に塗装した機体に乗っているが、そんな事はメヴィの構うところではなかった。そんなもの、自分に支給されたときにはすでに紫色で塗装され、胸付近や手首周りにも袖飾りの装飾も〈パラオ〉で施されていた。と、いうことはあちらもこれを承認しているということなのだろうから、今さら同色の機体があったところで塗り替えるほどの余裕がネオ・ジオンにあるわけでもないし、メヴィ自身にもその意思はなかった。</p>


<p>そんな「袖付き」に所属する紫色の機体はスラスターの尾を引きながら、徐々に散開していく敵機へ急接近をかける。すると、突如ロックオンされた事を告げるアラートがコクピットに鳴り響き、先行していたアンノンの敵機が上へ飛躍したかと思うと、ビームライフルよりも一回り太い一文字の光が宇宙の暗闇を斬り裂いた。それを横ロールで緊急回避したメヴィは応射のビームライフルを撃ち散らしながら、あれはランチャー級か?と思考をめぐらせる。ビームライフルよりもメガ粒子の出力を向上させたビーム・ランチャーは艦艇の主砲にも匹敵する威力を誇り、対艦兵器として地球連邦軍が開発したモビルスーツの武装バリエーションの一つだ。しかし、大火力を誇る反面、使用できるモビルスーツは限られ、《ジェガン》等ではほぼ使用される武器ではない。戦艦並みの火力を誇るランチャーを装備したアンノンの敵機に気を取られていた隙に、接近を許してしまった後続の《ジェガン》の放ったビームの光弾が機体を掠め、「チッ!」とと舌打ちをしたメヴィがスラスター光の尾を引く二機の《ジェガン》へ意識を移した。”二手に散開した後、こちらの動きが止まると同時に直上の機体で一撃で堕とす”という敵の思惟を読み取り、(させない)と短く呟いたメヴィは《N・ジャジャ》の左腕にビームサーベルを保持させ、二射目のビームが機体を掠めると、自分の右方へ回り込もうとする《ジェガン》に狙いを定め、フットパダルを踏み込んだ。爆発的なスラウター光を爆ぜらせた《N・ジャジャ》が頭部のモノアイをぎらりと閃らせ、左腕を大きく振り上げる。</p>


<p>突然の接近に驚いた挙動を見せた《ジェガン》は咄嗟にビームサーベルを抜き取るとメガ粒子の光刃を発振させ、《N・ジャジャ》のビームサーベルを受け止める。ばりばりと干渉しあったメガ粒子がスパークの光を爆ぜらせ、じりじりとコクピットを揺らした。刹那、メヴィは右腕に保持したビームライフルの銃身部に取り付けられたヒート剣を白熱させ、《ジェガン》の赤いコクピットハッチへと勢いよく押し込んだ。その瞬間、中のパイロットは高熱の熱線によって肉体を蒸発され、指揮系統を焼かれた《ジェガン》は四駆を痙攣したかのようにがくがくと揺らす。(レクム!)というノイズ混じりの声が無線を走り、レクムと呼ばれた《ジェガン》のパイロットの意識が完全に消失した事を知覚したメヴィは《N・ジャジャ》の右足を《ジェガン》の股間部分に押し当て、蹴った反動で黒焦げたコクピットハッチからヒート剣を抜き取る。蹴られた《ジェガン》の機体はそのまま慣性運動に従って広大な宇宙を漂い始め、これでこれを回収する事を生業にしているジャンク屋の獲物がまた一つ増えた。そんな思考をすぐに消し去り、背中に飛来したビームの光弾を避けたメヴィは《ジェガン》のパイロットが逆上したことを悟り、なんとか《ムサカ》から意識を逸らす事に成功したと、一人安堵していた。(貴様ァ!よくもレクムをォ!)と再び無線に走った怒号を聞いたメヴィは《N・ジャジャ》を反転させ、隊長機であるアンノンの敵機の制止を無視して、こちらへビームサーベルを引き抜きながら突貫してくる《ジェガン》に意識を移した。</p>


<p>こちらへ直進してくる《ジェガン》から発せられる爆発的な憎悪と殺意を知覚したメヴィ・ウラはじりじりと自身の胸を圧迫するプレッシャーにぎりと歯ぎしりを鳴らす。こちらへ突貫してくる《ジェガン》は無防備この上なく、直線的な動きを見せる《ジェガン》を睨み据えたメヴィはビームライフルのカーソルを脚部に合わせ、トリガーにかけた指に力を込める。《N・ジャジャ》のビームライフルがメガ粒子の光を吐きだし、その宇宙を一文字に斬り裂いた光軸は《ジェガン》の右足部分を易々と貫いた。脚部に小規模な爆発を起こしたモスグリーンの機体が爆光に照らされる。本体と溶断された脚部は一瞬、宇宙の虚空を舞ったがすぐに爆発の光を膨れ上がらせ、音速を超える衝撃波を四方へ押し広げる。右足の太ももから下の部分が消し飛んだ《ジェガン》は断裂面から伝導液と火花を散らし、なんとか姿勢制御バーニアとAMBACを駆使して態勢を立て直したのも一瞬、再び機体を襲った衝撃にパイロットが(くそッ!)と舌打ちをした。刹那、オールビューモニター全体を覆わんとばかりに眼下からぬっと現れた黒い影に《ジェガン》のパイロットは絶句し、思わずその機影を見上げた。二十メートルはあろうかという紫色に塗装された鋼鉄の巨体に、まるでそれ単体で見ると壺のような形をした頭部にぎらぎらと輝く一つ目。この17年間、地球圏へ戦乱の渦を巻き起こしたテロリストどもの象徴たるモノアイは今、この自分を見下ろしている。この事実に無性の怒りが込み上げてきたパイロットは右腕に保持させたビームサーベルを発振させ、コクピットへ突き立てんと操縦桿に力を込める。</p>


<p>敵の思惟はメヴィも知覚していた。コクピットのパイロットから発せられた信号が《ジェガン》のアクチュエータを動かすまでコンマ0,2秒。メヴィはそれよりも早く《N・ジャジャ》の右腕を動かし、ビームライフルの先端に取り付けられたヒート剣を白熱させ、強剛セラミック製の刀身が《ジェガン》の右腕に食い込むのを見た。ガンダリウム製の装甲がヒート剣の熱線によっていとも簡単に溶断され、どろどろに溶けた赤熱する鉄の塊が火花となって宇宙へ飛び散る。ヒート剣が《ジェガン》の右腕を溶断するのに一秒とかからず、ビームサーベルのグリップを握りしめたまま、宇宙を舞った鋼鉄の手が後方へ飛び去っていく。しかし、メヴィは攻撃の手を緩めることなく、間髪入れずに左腕のビームサーベルで《ジェガン》の左足も溶断した。一気に手足を切り落とされ、バランスを失った機体がぐらと傾き、それを見下ろす形になったメヴィがトドメの一撃を喰らわせようとした。刹那、頭上より肉薄したプレッシャーが頭蓋を圧迫し、反射的にフットペダルを踏み込んだメヴィ・ウラが口中でチッと舌打ちをした。頭上から降り注いだメガ粒子の放流は、ほぼだるま状態になった《ジェガン》の機体を半分ほど隠すほど太く、飛散した粒子を《N・ジャジャ》の機体に打ち付け、眼下へと遠ざかっていった。二射目までタイムログがあるとはいえ、ここに留まる道理はメヴィには無かった。すぐにフットペダルを踏み込み、熱源レーダーに《アンノン》の表示を確認させたメヴィはビームライフルを撃ち散らしながら、戦艦の主砲の砲身にをも匹敵する巨砲を担いだミディアムブルーの機体へ急接近をかけた。他の二機を行動不能に追いやった《N・ジャジャ》は残りの一機だけを単眼式の光学センサーに捉え、二射目のビームランチャーを軽々と避けると《アンノン》の機体へと肉薄した。</p>


<p>                               ※</p>


<p>会敵から二分足らずでレクム少尉とアクバ少尉の《ジェガン》を撃墜し、今度は自分を仕留めようと頭部のモノアイをギラと輝かせながら、こちらへ接近をかけてくる「袖付き」のモビルスーツ。こんな状態では当初の目的であった母艦の撃沈も不可能、今更向かったところですでにサイド6の力うに入ってしまっている。それよりも今はこちらへ急速接近してくる敵機の方が問題だった。Z計画の一環、量産化計画で生み出されたRGZ‐95《リゼル》でも勝ち目があるかは分からなかった。新型機と言っても、性能面では変形のできる《ジェガン》程度と言われ、大火力のメガ・ビーム・ランチャーの装備を可能としたとしても、ビームライフルより連射性能の劣る巨砲は戦艦相手なら効果を発揮するのだろうが、モビルスーツ相手には少し分が悪すぎた。それに加え、接近戦ともなればランチャーはただの重荷でしかなく、敵を目前にして孤立した状態は絶望的だと言えた。扱いづらいメガ・ビーム・ランチャーに舌打ちをしながら、チャージ完了のアラートを聞いたラアン・クレースは反射的にトリガーを引き絞った。広大な暗闇の宇宙に閃く紫色の機体の動きにはまるで無駄がなく、パッと機体を翻した紫色の敵機はメガ・ビーム・ランチャーから吐きだされた高出力のメガ粒子弾を易々とかわして見せた。心なしか、焦っている自分に気が付いたラアンは、落ち着け、と言い聞かせるも僅か3秒で目前まで迫った敵機に息を呑んだ。咄嗟にフットパダルを踏み込んだものの、間に合わないという思考が反射的に《リゼル》の左腕にビームサーベルを抜き取らせ、肉迫したビームサーベルの光刃を寸前の所で受け止める。</p>


<p>オールビューモニターにスパーク光が爆ぜ、眩い光がラアンの網膜を焼いた。「くっ!」と思わず、眼を背けたラアンはほぼそれと同時、後悔の念に見舞われた。戦闘中に敵から目を背けると言うのは自殺行為、敵が数メートル先ともなればなおさらだ。ギリと奥歯をかみ合わせ、操縦桿をギュッと握りしめたラアンはその時、何かが弾ける感覚に身体に電流が走ったかのように痙攣をした。その時、鼻先にふわりと甘い匂いが漂ったかと思うとラアンの意志とは関係なく、身体が勝手にモビルスーツを操縦した。何が起こったのか分からなかった。ただ、次に目を開けた時には目の前で袖飾りをつけた腕が宙を舞い、火花を散らした紫色の敵機が驚いた表情を見せる。両肩からバーニアを噴かし、自分と距離をとった敵機は溶断された左腕を庇うようにヴィンとモノアイを光らせる。すかさず、頭部バルカンのトリガーを引いたラアンは5発に1発の割合で仕込まれた曳光弾の光を辿り、60mmの砲弾が造りだす火線の軌道を修正する。(いける!)。そう心の中で叫んだラアンはメガ・ビーム・ランチャーで牽制射をかけ、フットペダルを踏み込もうとした刹那、目の前にコクピットが黒焦げたアレクの《ジェガン》が突如として現れ、ラアンは敵機へ斬りかかろうとした《リゼル》に急制動をかけた。”ラアン隊長…ッ!”。頭の中で響いた声は先刻、コクピットを焼かれて撃墜されたアレク少尉のもので、全身に鳥肌が立った事を知覚したラアンが「なんだッ!!?」と叫んだ。戦闘の興奮で火照っていた身体に悪寒が走り、全身から血の気が引いていく。硬直した体が動かず、奥歯を食いしばったラアンの《リゼル》が完全に動きを停止させた。紫色の敵機はその隙をつき、不遜にモノアイを輝かせた。せっかく敵を押せていたのに。今までの勢いは完全にアレク少尉の《ジェガン》の出現によって遮られ、戦場の流れは再び敵へと流れ始めた。それを見計らった敵機はそのデブリと化した《ジェガン》へビームライフルを一射し、目の前でビームに貫かれた《ジェガン》の機体が誘爆を引き起こし、宇宙の虚空に光輪を造りだすのを見た。咄嗟に機体を後退させ、衝撃波から逃れようとしたがそれは遅すぎる行動だった。爆発的な衝撃がコクピットを襲い、リニアシートに押し付けられた体が悲鳴を上げる。思わず、うめき声を上げたラアンは後頭部を強打し、そのまま気絶した。</p>
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