川内原発死傷事故:遺族が九電側を告訴 殺人容疑で
毎日新聞 2013年01月27日 08時32分(最終更新 01月27日 11時34分)
鹿児島県薩摩川内市の九州電力川内原発で10年に起きた7人死傷事故で、死亡した男性の遺族が九電側を殺人容疑で鹿児島地検に告訴したことが分かった。事故では男性も含め九電の課長ら8人が業務上過失致死傷容疑などで書類送検されている。だが男性の父親らは、なぜ息子が危険な作業をさせられたのか九電から説明がないとして、やりきれない思いを抱えてきた。事故から29日で3年。悩んだ末、九電の責任を明確にしようと告訴に踏み切った。
事故は10年1月29日、定期検査中の1号機タービン建屋で起きた。放電用のアース線を端子に取り付ける際、440ボルトの高圧電流が流れる別の端子にアース線が触れて高温ガスが噴出。作業していた九電の子会社「西日本プラント工業」社員、角杉太郎さん(当時29歳)が全身やけどで死亡、6人が重軽傷を負った。
告訴状は23日付で、当時の所長や次長(現・所長)ら5人について「効率を求めるあまり作業員を死に至らしめてもやむを得ないと考えた」と未必の故意の殺人罪に当たるとしている。
太郎さんの父で電気設備業の貴通(たかみち)さん(59)=福岡県行橋市=は、なぜ高圧電流を止めて作業させなかったのかが解せなかった。二つの端子は5.3センチしか離れていなかった。弁護士も「プロペラを回しながら飛行機の点検をさせるくらい危険な作業」と指摘する。
鹿児島県警によると、高圧電流が流れたままでの作業を認める手順書を作成したのは九電だった。09年には、同原発2号機で同様の作業に当たる際、通電中は危険だとの現場判断で中止したこともあったが、手順書は改善されないままだった。
事故から1カ月後、九電の報告書には、アース線の取り付け先を間違えたのではないかなど現場のミスの可能性が盛り込まれる一方、危険な作業を認めた理由の記載はない。当時、国は根本原因などの報告を求めたが、九電は「捜査中」として今も報告していない。
遺族も危険な環境下で作業させた理由を尋ねたが、九電からは説明がなく、手順書の誤りも認めていない。社長は葬儀にも自宅にも訪れず、担当者はころころ代わった。貴通さんは「当時のことを誰に聞けばいいのかも分からない」と嘆く。