安倍晋三政権は最優先課題の「経済再生」を実現するために、金融政策と財政政策、成長戦略を「3本の矢」として矢継ぎ早に発表するとともに、財政健全化に向けた歳出削減策も練っている。目玉の1つが、地方公務員の給与削減だ。民主党政権が支持団体の労働組合に配慮したこともあり、現在、8割超もの地方公務員の給与が、国家公務員よりも高い逆転現象が起きている。この聖域にメスが入れられるのか。ジャーナリストの若林亜紀氏が月給上位50自治体をリストアップし、問題点を指摘した。
「きちんと形にしていくのが1つだ」
安倍首相は20日、2013年度予算編成をめぐって麻生太郎副総理兼財務相と公邸で協議し、地方公務員の給与削減について強い決意を示した。
新藤義孝総務相も23日、全国知事会議に出席して「単なる国の財政再建の措置ではない。地方の行革努力を反映させるような工夫も考えている」と語り、知事側に理解を求めた。地方側の反発に配慮し、財務、総務両省は24日、削減を始める時期を当初案の4月から7月に先送りする方向で最終調整に入った。注目の「給与ランキング」の詳細は後述するとして、国家と地方の公務員給与の格差は歴然としている。
財務省の計算では、公務員の12年の月額給与(残業代除く)は、国家公務員が約37万円で、地方公務員は約42万円。なんと約5万円も違う。このため、麻生氏は15日、来年度の地方公務員の給与を国家公務員と同じく平均7・8%カットするよう、地方自治体側に要請した。実現すれば約1兆2000億円の歳出削減につながる。
どうして、こんな事態になっているのか。
民主党政権は、東日本大震災の復興財源確保のため、12年4月から2年間、国家公務員の給与を平均7・8%削減した。ところが、地方公務員については、有力支持団体である自治労や日教組の反発に配慮してか、現状維持になっているのだ。
同じ公務員でも格差があるが、サラリーマンの懐事情はさらに厳しい。
国税庁の民間給与実態統計調査(11年)によると、民間企業に勤める人の年間平均給与は409万円。正社員に限れば約515万円で、ボーナスが夏、冬季に2カ月ずつ出ると仮定すると月給は約32万円。12年も11年から大きく伸びていなければ、地方公務員と毎月約10万円もの差がある。
まさに「地方公務員天国」といえる。来月から職員の退職手当が引き下げられるため、全国で教職員の駆け込み退職が続発しているが、具体的にどの地方自治体(都道府県と特別区、市町村)が“高給取り”なのか。
別表は、若林氏が総務省が発表した11年の「地方公務員給与実態資料」をもとに、(1)残業代を除く国家公務員の月給を100とした場合の、地方公務員の給与水準「ラスパイレス指数」上位50自治体を抽出したうえで(2)残業代を加えて金額を割り出して順位を付けた−ものだ。局長級以上は含まれていない。
トップは野田佳彦前首相の地元である千葉県船橋市の51万5673万円で、2位が三重県四日市市の50万3396円、3位が神奈川藤沢市の50万426円だった。ボーナスを加えた年収は船橋市787万円、四日市市768万円、藤沢市767万円になる。資本金10億以上の大企業の正社員でさえ平均年収は700万円台なので、やはり破格といえそうだ。
50位に入った自治体の数では、千葉県が15で断トツ。埼玉県7、神奈川県6で首都圏が並んだが、東京都は2で、23区は入らなかった。都道府県の月給トップは神奈川県(20位)の45万6213円で、埼玉県(23位)の44万9680円、愛知県(24位)と続いた。
1位となった船橋市役所に取材すると、「11年4月の資料をもとに計算したようだが、東日本大震災直後であり、市内の液状化対応や、東北や県内の被災地に職員を派遣したうえ、同じ月に千葉県議会選挙と船橋市議会選挙が重なり、時間外手当が膨らんだ。一種の非常時であり、普段から高いわけではない」(職員課)とコメントした。
若林氏は「地方公務員の給与は、自治体と組合の協議によって決まる。財政が豊かなところや組合が強いところほど給与が高くなる傾向がある」と語った。
ほぼ同じ業務なのに、民間よりも地方公務員の給与水準が高い職種があることも問題視されている。例えば、守衛では1・9倍、清掃関係やバス運転手1・5倍というデータがある。
若林氏は「職種や貢献度に応じて下げるべき。年功序列でろくに働かない職員が自動昇給するのを止めるよう、政府が指導すべきだ」と話す。
ただ、地方公務員の給与削減には抵抗も強い。
全国知事会で、山田啓二会長(京都府知事)は「長年行革に取り組んできた地方と、臨時的な(削減措置の)国とを同列に扱うのは暴論」などと強く反発している。
自民党内にも「変なポピュリズムに流されてはいけない」(西田昌司参院議員)、「地方はすでに一生懸命給与をカットしている。今年夏の参院選で負けてしまう」(小島敏文衆院議員)などと反対意見がある。
安倍首相はこうしたハードルを乗り越えて、改革を断行できるのか。
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